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第10話〜剣尖、貪官汚吏を裁きて〜


早朝ということもあってか、窓の外はうっすらと霜が降りている。コーディカス王国はすっかり冬になったようだ。


あれから1週間後、私とミハイル、監査局局長と監査官5名は、強制監査直前の最後の打ち合わせのため、執務室にいた。


局長のディケー侯爵が、今日の強制監査の全体の流れを手短に説明してくれた。


ディケー家は、代々監査局や法務局へ局員を多く輩出している家系で、局長となるものも少なくない。


ちなみに現在の法務局局長は―――私の父、クリフォン・エピスティニ公爵だ。


「―――最後に、当然ですが、抜き打ちとなりますので反抗してくる議員がいることも考えられます。各々自分の身は自分で守るようにしてください。…殿下、ミハイル殿も同様です。構いませんね。」


切れ長の目で私とミハイルを交互に見つめるディケー侯爵。


「ああ。構わない。」


「もちろんです。」


私とミハイルは同意したが内心ドキドキしている。一応王妃教育で護身術を習っているから…大丈夫よね?


通常、監査には王族は同行しないことになっているが、今回は特別にお願いして同行させてもらえることになった。


「…姉様、もしもの時は僕がいますからね。」


こそっと私に耳打ちするミハイル。


「―――それでは、これから議会への強制監査を行います。大議場に移動しましょう。」


ディケー侯爵と局員たちに続き、私たちは執務室を後にした。


いよいよ、全貌が明らかとなるわ。


先日のクリセオス家との会談とはまた違う緊張感を味わいつつ、私たちは大議場へと歩き出した。

















コンコン…。


ディケー侯爵が、大議場の扉をノックした。


少し間があってから、扉がそろりと開いて


「はい、どちらさま…。」


と、あのレイモーン地方の議案を持ってきた平民議員が顔を出した。


すると、ディケー侯爵は間髪入れずに


「監査局です。これより、議会に対する強制監査を行います。入室させてください。」


と、王印が押された令状を見せながら言った。


「ひっ…!」


平民議員は腰を抜かして座り込み、ジタバタと後退りした。


「入りましょう。」


どこまでも冷静なディケー侯爵と監査官たちはなんの躊躇なく大議場へ入って行った。私とミハイルもその後へと続く。


何事だ、と騒つく議員たちに対し、私は


「議会の予算について、王命による臨時監査を行う。皆、協力を頼む。」


と告げると、シン…と大議場が静まりかえった。しかしすぐに、何故王太子が…?聞いていないぞ…!と更に騒めきは大きくなっていった。


そんな議員たちを尻目に


「それでは、今から述べる資料をこちらに並べてください。年度別の国庫支出記録、外部業者との契約書、議会内の議事録をお願いします。」


「それから、議員の皆さんはこちらに集まってください。1人ずつお話を聞かせていただきます。」


「貴族院、平民院の代表はこちらへ。」


とテキパキ指示をし、監査の準備をするディケー侯爵たち。


私とミハイルは監査官と共に資料の読み合わせを行った。私は国庫の支出記録を読んでいたが、ふと目に止まった行、これは…


「…この予算の修正日付、議会の開催日と噛み合わない。―――しかも、この決裁印…。」


私は決裁印をそっと撫で、資料から顔を上げて


「偽物だ。」


と宣言した。


ザワっとどよめく議員たち。中でも一際声高に反論する者がいた。―――ヒュブリス公爵だ。


「そっ…そんなわけありません!!私が殿下に直接印をいただいたのですから…!」


彼は額に汗をかきながら、目線が左右に散っていて、明らかに動揺しているようだ。


この動揺は、謂れのない指摘ゆえなのか、それとも…。


私はヒュブリス公爵の挙動が気になりつつも


「私には、そんな記憶はない。」


私ははっきりとそう言った。アレクシスのことだ、何も見ずに決裁印を押した可能性が無きにしも非ず。だが、この印は間違いなく偽物。そしてこの印が本物か偽物か、見分けられるのはごく僅かな人間だけだ。


「そ、そんな…では偽物であるという証拠を見せて頂けますかな?」


なんとか冷静さを取り戻しながら食い下がるヒュブリス公爵。私は少し呆れて


「…本物と偽物の違いをここで話すわけがないだろう。偽造してくれと言っているようなものではないか。」


と言うと、ヒュブリス公爵は


「…全く、急にどうしたというのだ無能王太子が。」


と小さな声で呟いたが、それは誰にも聞こえなかった。私は更に


「ヒュブリス公爵、予算の修正に偽の印が使われていることについて、説明してくれないか?」


とヒュブリス公爵の目をじっと見つめながら説明を求めると、ヒュブリス公爵は、フンと鼻を鳴らして


「知らぬ。事務官が勝手にやったことであろう。」


と素っ気なく答えた。


やっぱりこの人、怪しい。


私が更に問い詰めようと口を開きかけた時、1人の監査官が帳簿を持ってやってきた。


「ヒュブリス公爵、いくつかの予算案が全てヒュブリス家所有の農場へ使用されているのですが、こちらの用途は何でしょうか?」


ヒュブリス公爵は顔を真っ赤にして


「そんなもの、たまたまであろう!公爵家であれば農場の一つや二つ所有していても何もおかしくないではないか!貴殿らは、私を陥れようとしているのではないか!?」


と怒鳴り声を上げた。するといつの間にかディケー侯爵がヒュブリス公爵の目の前に立っていて


「公爵は何もやましいことは無い、と仰られるのですね?それではこちらでご説明頂けますか?」


と椅子とテーブルを指差して言った。


「…それから、ヒュブリス家の資産についても調べさせていただきます。」


「…ああ!もう!好きにしろ!」


ヒュブリス公爵はドカドカと歩き、椅子にドカっと乱暴に座った。


そして、私とディケー侯爵が向かいに座る形で聴取を始めた。















ヒュブリス公爵の聴取を進めていると、監査官がヒュブリス公爵の帳簿を持って戻ってきた。


監査官は、帳簿を開いて私たちが座っているテーブルに置き


「ヒュブリス公爵家の会計帳簿ですが…今年に入り、大量の資産移動が確認されています。行き先は―――不明です。」


と説明した。


静まりかけた議員たちがまた騒つき始める。


ヒュブリス公爵は眉間に皺を寄せ、目を見開いたままずっと俯いていた。


私はスッと帳簿を指差し


「公爵、事情を伺いたい。―――この資産は、どこへ消えた?」


ヒュブリス公爵は顔を上げたが何も言わず、怒りに燃えた目で私を睨みながら、口元は笑っていた。


設定ミスで23時更新になってしまいました…。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


ひとつでも「面白い」と感じていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると嬉しいです。


とても励みになり、執筆続行の支えになります。


これからも読者様に楽しんでいただける展開を届けられるよう頑張ります。


どうぞよろしくお願いいたします!


本作は、毎週 月・木・土の20時に更新予定です。

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