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俺は帰りたいんですが。  作者: 来島ぎれ
第一章 個人召喚
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おもうところは色々あるわけで

犬の姿での歩みなどたかが知れている。

歩けば人と然程変わらない。

男が追い付くのは当然だった。


「魔狼様、魔狼様は小さくとも美しいです。その艶やかな黒緑の毛と澄んだ金の瞳は目を奪われます」

「……」

「あっ、勿論あの雄々しい姿もそう思いますよ。俺はどちらも好きですね!」

「……」

「その尾の先がほんのり少しだけ白いのも先程知りました。これはまた隠れた可愛いらしさと言いますか、」


グルルルルッ


・・・うるさいな。


鼻先に皺を寄せ唸る魔狼。


「…は。あ、すみません」


道中汚れてはいても美男が黒犬の後に続き、犬を丁寧に褒め倒している姿は異様としか言えない。

漏らしたズボンは履き替えたようだ。


何なんだこの阿呆は。お前の家は多分あの町だろ。何処まで付いてくる気だ。


日中の街道は商用馬車や冒険者、旅をする者とすれ違う。

川沿いの道は整備されてよかったが、川は途中で途切れた。地中に埋められたり、細く分支しすぎたり溜池になったり。先が見えなくなり街道を進む事に変更していた。


そんな中、人語を話す訳にも魔狼としての健脚で疾走するにもいかず、犬然とした姿でのんびり歩く。


後ろに続くは汚れた美男。

変な組み合わせだった。


「自分で言うのも何だけど、魔術の才に恵まれ苦労せず頂点まで昇りつめ、それ故に術師の最高位、期待の魔導師といわれてます」


暫くは沈黙が続いたが、シャズナルは独り言の様に話し出した。


魔狼は聞く気も興味も無かったが、残念な事に魔物で獣で狼だ。聴力がいい。自然と耳に入ってしまうので聞き流す事にした。


「実力からなるべくして王室付きの魔術師になりました。しかし町で狂犬病が流行っても治療術は無く、魔術師達は役立たず。王と領主の命で犬猫の殺処分が始まり、」


ああ、それで町で犬は捕獲。

騎士達とのやり取りを思い出し、鼻息でフンッと一笑した魔狼。

止まること無く休むこと無く歩き続けた。


「王子の飼い犬もそれは同じで。泣き喚きました。子供とはいえ毎日役立たずと罵倒が。毎日毎日俺も流石に堪えましたが幻影で犬を出しても悲しみが増すだけ。見守りました。更には病に強い世界一強い犬を見つけて来いと命令が。本で見たんでしょう。終いには伝説の魔狼を見つけて来いと」

「……」

「魔狼さま、力を貸してくれませんか」

「……」


なんの力だ。知らんわ。

それで召喚か。いつの世も人は面倒臭い。

馬鹿な生き物だ。

階層で生き方が決まるし変えられるし、思う様に満足に生きられないのが多い。

俺は今、自由な魔獣。

周囲に振り回されなくて気に入っている。


男はいつまでついて来る気なんだ。


はあぁぁ、と一匹と一人は長い溜息をつき歩き続けるのだった。




陽が落ちた。休むこと無く歩き続けた。

そろそろ一服して飯でも狩るかと思い街道を逸れ森に入る。

魔術師はへとへとの疲労困憊だった。水は取ったり汲んだり用を足したりはしていたが、飯も取らずいつまでも付いてくるのだ。

俺は、そのうち諦めるだろうと放置する事にした。


犬の姿のままでも能力は魔狼のままだ。

魔力のある健脚は俊敏な動きでスピードが桁外れに違う。

暗闇の森の中であっという間に野兎や犬の体格同等の害獣を狩った。必要なだけ狩ると生のまま骨を砕き乍ら高らかに嚙み砕く骨の音を響かせ貪り食べた。


男は其処にまだいた。

横になりマントを丸め枕にしていた。絞り出すような空腹の鐘を高らかに響かせ目を閉じて休んでいた。


力を貸せとはいうが、それが具体的にどうなのかと話もしない。ただついて来るのだ。


魔狼はチラリと見たが興味を失った。

俺は住処に帰る。それだけだ。


満腹感と共に睡魔を招き入れた。




・・・においだ。


ふと目を覚ます事になったのは、害獣よりも大きく力ある魔獣の臭いだった。

漆黒の森に人の臭いがあれば寄って来るのは至極必然的だった。


魔術師の背後に既にそれはいた。

人間よりひと回り大きく、ひとつ目に裂けた口に映える鋭い歯、緑の皮膚に覆われた肉付きのいい体躯。オジルクと言われる人型の獣は涎を垂らし息も荒い。気配を隠すなんて知らない知能の低い獣だった。


オジルクは魔狼のにおいも分からず、ただの黒犬としか認識できないんだろう。

目もくれず魔術師をだけを見ていた。


魔術師は寝入っているのか。小さな寝息が耳に入る。


まあ、俺を勝手都合で召喚しアフターフォローも無いし勝手について来たんだ。自己責任だと再び目を閉じて寝入る姿勢になった。





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