めんどくさい事ばかり起こるデスティニー
魔狼が跳躍した先に仄かな明かりが集まる。光球虫は結界を次々と抜けていく。無数のそれが魔狼を囲んだと同時に結界の境界を巨体がすぅとすり抜けた。
「ほおおおぉぉ?」
「なんと!」
下から魔王とロズゴの声がした。
な、なんだ?とりあえず抜けれたから良し!
結界の外側に、とんっと足をつき再び高く跳躍する。地下都市が総て見渡せるくらい高くそこに居た。
光球虫をまとい地下の天を駆ける魔狼は淡く輝き神々しさをも感じさせる。
空間を蹴るたびに、ふわふわと少しずつ離れて行く虫達。魔狼が魔力をのせ空中を走った軌跡をなぞるように飛んでいるようだった。それは幻想的な絵画に見えた。
心地いい。身体が軽い。これだ。今の俺は、ただの魔狼。何にも縛られない獣。
眼下の町では、光り輝く大きな魔狼を見上げて大騒ぎになっていた。
普段の自分でいられる開放感と力の昂揚が漲る。耳は喧噪を忙しなく拾い、鼻は魔族の居場所を確認しながら空を駆けた。
マズイな。目立ち過ぎたか。
魔族のか己の魔力か鼻と毛がピリピリする。
目に入った滝に向かおうと同時に小型化を思うと、みるみるうちに身体が中型犬になった。
魔力も絞りたいがやり方が全く解らない。
仕方なく目的地へ空中を勢い良く蹴り着地する。
周りは緑があふれ、岩肌には勢い良く落下する水飛沫の舞う滝と滝壷があった。地下なのに青々とした木々が繁る変な場所だ。ここにも水面中心に光球虫がふわふわと漂っていた。
ぽとり。
ん?
足下に何か落ちた気がして見ると、小さな光球虫がひとつ地面にいた。
そういえば結界を出る時助けてもらったな。
「お前達、助けてくれて感謝する」
空中を舞う穏やかな光を仰ぎ、礼を述べた。
そして地面にいる虫にも礼を伝える。
「おまえもだ」
言葉を理解したのか光がふるると揺れた。
「というかお前達はなんだ。魔獣か?魔物か?」
仄かな光が一瞬ぶわっと広がり魔狼を包んだと思いきや集束して消失した。魔狼の中に入っていったようだった。
「ああ?なんだ?」
眩しさに目を背けた視線を戻すと仄かな光を失った光球虫がそこに居た。見た目は完全にスライム系で人の拳大の透明な丸いぷにぷにした物体。うにうにと動き何か訴えたいのか丸から色々な形に変化し始めた。
「おまえ、光なくて大丈夫なのか。俺に何かしただろう」
ふわふわと浮かび始め魔狼の頭めがけて飛んでいるようだった。光を纏っているときより弱々しく感じた魔狼は頭を少し寄せてみた。
ずしっ
「お?」
スライムの見た目より重量のある物が、首から頭部にかけて乗ったようだ。
眉間に皺を寄せて目は上を見ようとしたら、鼻先をぺんぺんと小さな手に叩かれた。
・・・小さい子供?魔王くらいの手?
ぶあっと毛が逆立った。まさか、あの魔王が俺に乗ってる?こんな腹立たしい事は無いと頭を下げ、全身をぶるるるっと振り落とす気で揺すった。
ぺたん
落ちたのは、すっぽんぽんの子供だった。飴色のつんつんの短髪で赤い目をした小さな子供がいた。大きさは魔王三歳と似ていたが、顔つきは中性的で局部には何もついていなかった。きょとんとした顔で横になって転がっている。
「は?おまえ、まさか、さっきの虫か?」
声を掛けたら、むくりと起き上がり、にぱっと笑顔を見せ魔狼に突進して来た。
魔狼は肯定なのかと微動だにせず様子を見守る事にした。
子供は近づいて魔狼の毛を掴んでよじよじと登り始める。同様に首に体重を感じたが苦ではない。
さて、どーしたものか。
もぞもぞと自分に乗る子供に戸惑い、じっとする魔狼。ふと鼻先に手が見え、つんつんと突かれた。
「なんだ」
視線をまた上に向ける。
ばあっ
という顔をした子供と目が合う。
・・・何だコレ。かわいい。
いや違うだろ俺。これはあれだ、光球虫だ。目が赤いから魔獣で魔力持ちで、能力は擬態というところか?
首辺りでぎゅむっと抱きつかれてる感触がした。
「おまえどういうつもりだ。言葉が通じてる感じだな。力を貸してくれた事には感謝するが、まさか俺について来る気か」
すると頭頂部をぺんっと叩かれた。
なんだ話せないのか?
まさか今のが肯定の返事なのか?
「おまえさっきの光る虫だな」
ぺんっ
「おまえはスライムか」
ベシベシベシッ!
「いたたっクソ。俺について来るんだな?」
ぺんっ
「…この地を、仲間と離れて生きれるのか」
ぺしっ
どうやら話せず、ぺしぺし叩いて返事をするらしい。否定は両手で容赦がなかった。
あぁぁぁ、わかってる。
俺が動くと何か起こるんだよ。
わかってるよ!
もう本当どうにかなりそうだ。
・・・俺、子持ちになりました。




