もう、こっちも限界が近いようです
「光の道だ。魔力の道ができてる。きれい」
「これはまた良き物を」
魔王とロズゴは結界をすり抜けた先の美しい魔狼と軌跡を見上げていた。
「魔狼の魔力が合うんだろ。虫が頭に乗ってたしな。まさか力を貸すとは思わなかった」
「魔物同士で縄張り争いないって凄いね。魔狼が強いから?へんな獣だね。歩み寄りとか相手の事を考えるとか斬新な発想初めてきいたよ」
「魔族には関係ない話だが、長命故に他の獣と違うんだろう。これから遇う事も難しいだろうが金目の魔獣はそうなのかもな」
「あーね」
「は?」
「あれ、ゆめかわ風景ー」
「ゆめ、かわ?」
魔王はまだ空中に残る光の道を見た。
「とりま対価はちゃんと払おう。この収穫はちゃんと礼をしないと。魔狼にあざお!しないと」
「あざ、お?ですか。何故か魔力がさっき消えたが見つけれるのか?魔王様」
ロズゴは今きいた意味不明な単語「あーね」「ゆめかわ」「とりま」「あざお」も、あとで魔狼に聞こうとガリガリ記録する。
「微妙。ヤバイ。えーとね激ヤバといえば、あれよ、」
ああ、これは何かまた来るなと思ったロズゴは「げきやば」と記し結界を多重に張り直した。吹き荒れる暴風雨の中、魔王と側近はしばし魔狼の事を忘れるのだった。
一方淡雲の下、見渡す限りの荒野と化した地上で魔術師達が奮闘していた。
町を丸ごと一つ構築しなおす大規模な術のため、魔力を載せる媒介とするいわゆる魔法陣を地に描いていた。
陣自体も魔力を込め携帯ワンドで綴ったた古語文字や記号を織り交ぜる直径十メートル以上は余裕であろう多重円陣となっていた。
「配列不可」
ラズはクロウの書いた陣の文字を足でザッと消すが、不思議な事に一連の文字がすううと消えて行く。
「え、あってますよ!?」
「クロウ、そこ古語ずれてたわね」
クルフェルも冷たい視線で間違いを指摘する。
「クルル陣三輪不可」
愛用の竜牙のついた巻革のステッキで陣の一部をとんっと突けば、苦労して古語で綴った陣がすううと消え去る。
一部訂正ならまだしも一つのミスで合ってる筈の陣すべて次々消去されてはやる気を削がれる。
「げげ…。めんどくさー!」
「全然進まないですね。無能魔術師ども。術師称号剥奪してやりましょうか。クロウは私の嫁でもしてた方がマシですね、そこ!そこですよ!配列重複気付かないバカども!」
「あああぁ…ここか」
「ちーん。こんな古すぎる構成どっからもってきたのー」
「書庫の地下ですよ。面白い陣だったのでここで応用実践してみるんです」
古惚けた分厚い古書をどこからかフッと右手に出し、地上に出来ている構築陣と本の陣を交互に比較してみるラズ。
「は?応用?」
「えー…てことはやっぱり完成術じゃない実験的陣なわけね」
「何ですかその目は。術師は常に構築、陣、古語を研鑽し進歩し新奇であり奇警であるからこそ傲慢たる所以の魔術師なんですよ!さあ無能ども!働きなさい!」
ステッキを掲げ振り落とすとそれは一本の鞣し紐に変わった。鞭である。
ラズは目を爛々と輝かせ口角だけをあげた笑みを浮かべて鞭で地をビシッと叩き付けた。
「ええ…別に傲慢とか必要ないです」
「…やっぱりこうなったわね」
「動け無能ども。あははは!」
ビシッ!ビシッ!
「あっ!いった!いつもなんで俺ばっかり打つんですか!」
「見目麗しい美青年を鞭打つのは眼福だといったでしょう!早く配列を仕上げなさい!そんな微妙な身体結界なぞこの鞭には効果ありません。もっと構築し直しなさい!」
ビシッ!
ラズはニヤニヤしてクロウの尻を狙い打つ。
「っわ!うっわ!」
「あーあ…早く終わらせましょ、クロウ」
「描けよ繋げよ人間ども!あはははっ」
クルフェルもげんなりして既に三日。まだ休憩や食事睡眠保障があるだけましだったが、消してはやり直し発動しないとまた書き直しループに突入していた。
術師の師とはいえ魔族は変人が多く弟子は師匠を選べない年次担当性だった。
ラズは見た目を偽る御歳二百歳。人の倍生きる魔族寿命でも老い先短い高齢者で立派なジジイである。
勿論女性には多少手加減をする。傲慢を己と他者への志とする魔術師で鞭が大好きな困った師だったが、嬉々としてクロウを鞭打ちながら魔狼の気配が消えた事を感じていた。
「あははは!」
「あっ!ちょ、痛っ!」
ビシッ!ビシッ!
数日荒野に高らかな笑い声と鞭の音が響いていた。




