むりです。もう、むりでした。
クロウの忠告は正しかった。
お前が正しかったよ。
安請け合いしてしまった事に気がついても後の祭りというやつだ。
「でね話してたら口からでたの。つらたん!どういう意味だ?コレの意味はなんだ?」
「えー、辛いに、たん、は可愛いから語尾につけてるだけか?」
「ほう!やっぱりルーは相当物知りだな!」
何回陽が落ちて、登ってを繰り返したのか。
地下だからはっきり良くわからないが光球虫が眠るのか、数が減少する時間がある。薄暗くなるのが夜だとして時間的には数日と思える程ずっと日本語講座が続いていた。
魔族は人のサイクルのように寝なくても食べなくてもいいらしい。魔狼も魔物だから多少はそんな融通が利く。
然しだ。そんな話は事きいてない。
俺はどこのブラック企業社員なんだ。
この相手の都合を全く気にするそぶりもない魔王とラズゴ。
これはダメだ。ダメなヤツ。魔族はダメだ!
しかも昨日ロズゴが菓子を買いにいくと場を離れるときに結界解除をしていた。長時間固定結界の様で再度術詠唱を小声で呟いたのを聞いた。出れないという監禁状態が発覚している。
「あのな…」
「なんだ、ルー」
「俺でも分からない事が多くなって来たぞ。そろそろ終わりにしないか」
「まだまだ知りたい事ある。ルーが頼り!」
「そうだな。こんなに異世界語を解読できたのは魔狼殿だけだ。もう暫し付き合え」
わくわくとした目を向ける魔王様。
期待を目に眼光鋭く山となった記録紙を眩しそうに見つめる熊マッチョ。
俺は今ひたすら後悔していた。
クロウ、クルフェル、俺を助けろ。
それからまた数時間、俺は今大人だ、できる子だと頑張った魔狼は我慢の限界を超えた。新境地で悟りを開く前にキレた。
グルルルルヴッ!
「ルー、どうしたのだ?」
「お前ら、いい加減にしろ。自分の都合で何もかも進めるのは独裁的じゃないか。自己中も大概にしろ。相手の都合くらい訊け、思いやれ、考えろ」
魔狼は険しく鼻皺を寄せ牙を剥きだした。
「ジコチューって何?都合位で何で怒るの?私は魔王でしょ。私が一番だし。なんでも自由に思うようにしたらいいとラズが言ってたよ?」
「魔狼殿、何か予定があったか?」
「今、訊くな。せめて結界を解け!そんな教育もどうかと思うぞ。あとは動揺しないように精神鍛えたらいいだけの話だろ」
「魔術暴走時の配慮だ。こればかりは策だから仕方なかろう。ああ、小用か?」
「精神を鍛えるの?精神って何?」
ロズゴは頭をボリボリかいてにかっと笑う。
魔王は首を傾げた。
溜め息しか出ないとはこの事か。
ああぁ、イライラする。
魔狼は溜まったストレスを発散するが如く咆哮をあげた。
オオォォーーーン!!
ビリビリと結界が震えた。
久々に全身からの雄叫びに昂揚し、見る間に魔狼の身体は本来の姿に戻る。黒鉄魔狼の三メートル超えの雄姿。目は獣然として雄々しく煌めき、黒緑の艶やかな毛に覆われた均整のある肢体は優美といえよう。
「おおぉ、美しいね!」
「これがブラロか」
魔王とロズゴが感嘆の声をあげ見惚れた。
魔狼はただイライラ憤慨して、もう報酬なんて頭から飛んでいた。横にいたはずの魔王は大きくなった魔狼の腹の下でぽかんと見上げていた。
グルルルル
「魔術を勉強中だか知らんが、ただのワガママ魔王育成中じゃないか。確かに言葉の不安要素は多少減っただろう。然しだ。相手の事も考えず歩み寄りも無いのは駄目だ。取引としても不公平というものだろう」
「対価を納得されたのでは?」
ロズゴも魔王も意味が解らないという顔だ。
「それはそれだ。飲まず喰わず休憩もなく何故お前らのペースだけに合わせなきゃならんのだ」
「魔族だからなあ。そんな些細な事気にしないな。そうですよね魔王様」
「うん。なんで他の種族にあわせるの?なんで弱い種にあわせるの?魔族血族強い。だから何してもいいんだよ?」
「………は?」
あかん。あかーん。
これは本当にダメなヤツ。俺は目眩がした。文化の違いに理解を示さないし価値観固定で相容れないというやつだ。
魔族といえど魔王と言えどだ。俺は納得できないぞ。なんだその他は虫けらだ、みたいな言い方はムカムカする。これは生理的にもう無理。近くにいたくない。
俺という魔狼もかなりの魔力がある筈だ。術の構造や発動条件もわからないが、力で結界が抜けれるかも知れない。
イライラテラマックス・エクストラドリームアタックとでも命名しよう。
身体全体に魔力が行き渡るよう集中すると段々全身の毛がぶわわっと盛り上がってきた。
「ん?魔力増大?」
「おぉ?」
「あとで対価は支払ってもらうぞ」
魔狼は怒り任せに、魔力を天に向け思いきり跳躍した。




