みるまにまに流されてます
「待てと…」
叫ぶ前に、げんなりした顔の魔術師達は詠唱で消えた。
俺は確かに言ってる事、意味は理解できる。出来るけどな。
部分記憶持ちってかなり厄介なんじゃないか?ふとした切っ掛けで何か思い出し感情任せの癇癪持ちってことだよな?
俺は隣のちみっこに視線をやった。
小首を傾げると頭の上の髪がぴこぴこ揺れる三歳児。
コレはかわいい。可愛いんだがな。見た目ギャップはもう満腹なんだよ。中身がおっさんでもいいよ、もう満腹なんだよ!
眉間に皺を寄せ見ていた事に気がついたのか、魔王様は目を細くして魔狼を見た。
「なんだ。名前教えてよ」
「ループスだ」
ロズゴは何かメモを取るのか筆記スタンバイをしていた。魔王様と魔狼対談の記事でも書くのだろうか。
「ルーと呼ぼう。私はマズールとニーナの娘ソナ。魔力が随一と判定され魔王の位置にいるだけの者。それで私の言う事がわかるか?自分でも意味が分からないことがある。ふと思い出してイラッとするのは困る。この町は「クラシックパンケーキメープルバターがない!」と腹が立ったらザアッと建物限定で消えた。異人の言葉だと思うけどなにか知ってる?」
予想通りの日本人魔王転生だ。半端な転生ってあるんだな。
食い物で町が消失か…恐ろしい。無意識だろうが暗黒破壊魔王じゃないか。これで魔王討伐とか発生しないんだ。異世界って本当理解不能。
俺は、俺はなんでこうなるんだ。
試練なのか?
クエスト?ミッションなのか?
ラズゴが買って来た小さな甘味のカラフルな粒が乗った皿を前に置くと、自然と小さな手を出し頬を膨らませて、もっもっと食べ始める。
見た目は可愛いんだよ、見た目は。
「まずクルフェルがなんで居たか聞きたい」
「簡単。魔力が人それぞれ毛色が違うから判別できる。町ウロウロしてたの見つけた。なんか犬になってて、めっかわだったけど。元に戻りたいから解呪しただけ。基礎術なのに人は出来ないのね」
会いたく無いと去って行ったのに逆に捕まったのか。残念なクルフェルだ。
「そうか。で、自分のしでかした事を側近に任せて魔王様とやらは何をしているんだ?」
「あははっ。ルーは厳しい。見ての通りの子供には構築術は難易度が高い。術を無意識に出すだけで今の私はただの高魔力保持者。難易術はまだまだ学んでいるところ。で、さっきのことはどうだ。意味はわかる?」
意味が分からないのに口に出るって病んでるのと同じじゃないのか。なんか不憫な気がして来たが、それはそれ。
ここは報酬が欲しい俺は差し障り内程度に誤魔化すのが妥当じゃないだろうか。転生者だとバレて側近になったり、ペットになっりは避けたい。
魔狼は適度に対応する事にした。町を再興する間だと言っていたのだ。多分、陣作成からの古代術だから数時間の我慢だ。
耳を振って気分を変え、じーっと隣にちょこんと座る魔王様とやらを見る。
「ん?」
「いや、聞いた事あることに限定して答えよう。パンケーキは食べ物だな。クソゲーとは排泄物にも値しない遊びの事だろう。チートとはズルをすることだな」
「ほおおお!」
ラズゴは向かいの席で聞いた途端ガリガリと筆記を始めた。
魔王様は感嘆の声をあげ、きらきらとした目を俺に向けた。
・・・クロウの崇めます!という目に似ているのは気のせいにしておく。
「じゃあ線と空はなんだ。全く理解できん」
「あー、隠語のようなものか。異界で魔術のような方法で文字を送ったり、相手の姿も背景も映して通話が出来るという事を聞いた事があるな」
「ほほう!それはまたいい術だね!ロズゴ、ラズに既存術か確認したい。なければ構築しよう!」
「そうですね、魔王様」
ロズゴは魔王にニコニコしては直ぐガリガリと筆記し始める。
こうして日本語講座のような時間が始まったのである。
魔狼は魔王様は思ったよりも普通の子供の様な印象を受けた。
なんだ。魔族の何が変態とか危ないんだ。
楽勝じゃないか。心配して損した気分だ。
これで住処に帰れるというなれば安いもんだろう。




