とりあえずお前らちょっと待て
凄惨だった。
血のにおいが充満していた。
薄汚れた屈強や、そうでない男どもが剣を振り回しては荷馬車から人を追い立てる。旅人からは金品を出せと恫喝し、抵抗したら斬るか刺してはゲラゲラと品なく笑う賊。
冒険者らしき者数人は女子供を守り抵抗する。
人は入り乱れ、荷車や馬車は倒れたり荷がバラされていた。馬まで斬り捨てたようだ。
女子供に関わらず命乞いをする者は泣き叫び、抵抗する者は声を張り上げる。
回収する役目の賊達はせっせと荷をまとめている。
混乱した中で馬もパニックを起こしてはいななき暴れ、綱の外れたものは駆けていくか盗賊に捕縛されていた。
クロウ達は少し離れた所で馬から降り状況を確認した。
「ああ、これはまた…俺は負傷者中心に」
「わたし、賊、やるよー」
「…俺は適当に」
「魔狼様。では後ほど」
「犬、手伝え。いくよー」
「…はは」
走って行く二人を見送り、俺はその場でお座りして喧噪を見た。
正直なところ面倒くさい。
転生して心も獣に近くなったと思う。
人に対する尊厳とか、人の世の常識が阿呆らしく感じるし守ろうとも思わない。
思わないのだが。
ああ・・・非道だ。
イライラしてきた。
さすがに子供にまで手をあげるのを見てるのは気分が良くない。
俺は耳をしんなり寝かせて混乱の中に向かって跳躍した。
「その荷を渡せって言ってんだろぉ?」
「ほらほらどけよオバさん。よっと」
「う、うあああぁん!ままー!ままー!」
「娘を返してっ!」
「荷と交換しようっぶ!」
ドンッ
何かにぶつかりよろめく賊の手から子供が抜け落ち、驚いた子供は座り込んだ。
「うあああぁん!」
「おおぉ?」
「は?」
「…わん」
「い、犬?」
「ははっ脅かしやがって。斬っちまえそんな黒犬」
「おーっと、オバさん動くなよぉ?」
「ひっ」
賊は長剣を振り降ろしたが黒犬は微動だにしなかった。ふいと顔を上げたと思ったら剣刃を開口して迎えた。
ガキッ!
「は?」
「うぇ?」
そのまま頭部切断だろうと思った賊は剣を持ったまま目が点になる。
黒犬はくわえた。
剣刃をくわえて止めたのだ。
「うあああ?!」
「ありえねえ!」
くわえたままの剣を、ぐぐぐぐと引っ張られる賊は驚きの余り長剣を手放した。
黒犬は鼻じわを寄せ牙を剥き出す。
グルルルルヴッ
「こ、この化け物がっ!」
「お、おいっ」
もう一人の賊は懲りずに自分の長剣を向けると同時だった。
ばきっ
ガラン…ガラン…
黒犬はくわえた剣を噛み折った。刀身はまっぷたつになって地面に転がる。
純度の低い鉄剣軟鋼の硬度なんて知れてる。
フンッと鼻息を出した犬は、どうだまだやるか、といわんばかりに見えた。
賊は得体の知れない犬におののき、後ずさり始めた。母親はそれをみて子供に駆け寄る。
「は、ははは…」
「化け物だ、犬の化け…まさか」
「う、うわああっ」
「魔物だぁぁっ!」
粋がっていたのが嘘のように逃げ出したが、賊達はゴッ!という音と炎に包まれた。
断末魔もなく消えた。
・・・俺じゃない。
振り向くとクルフェルが居た。
「あははは!」
「……ぇ」
「あーあ、消えちゃったー」
「……ぇぇ」
そこ笑うとこ違うだろ。
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶパピヨン犬。見た目は可愛いが。そういや俺に火球攻撃した時も笑ってたか?
思い出してまた耳がしんなりして後向きになった。
・・・クロウよりやばい魔術師だ。
ほらみろ。助けた親子は俺たち見てガクブルしてるぞ。
「ああっ!また燃やして、困ります!組合持って行く賞金取りでと言ったでしょう!」
救護と賊捕縛をしているクロウが気付いて怒鳴った。
「めんどくさー」
「旅に収入は貴重です。ほらあっちで捕縛して来て下さい!」
「お前、金持ちー。わたしも、金持ちー。邪魔、燃やす」
「ああぁ、そりゃ賊は討伐側の自由ですけどね、無闇な殺生は困ります!」
「めんどくさー……流星」
「うわあぁ!皆!伏せて!伏せて!結界!」
「は?」
フッと暗転したかと思うと眩しい光球が沢山視界に入った。流星のように、どんどん流れて落ちてくる。
・・・メテオゥル?流星?
ってもしかして。
まさか。
あああああっ!!




