なんて事しやがる
突然の暗雲の空に現れた無数の光球。
賊も商人も旅人も冒険者も、俺も、皆あんぐりと口を開けて空を仰いだ。
こ、これは噂名高いあれっぽいぞ?
転生前やった某ゲームでは世界を滅ぼすってやつだよな?
や、やばくないか?
我に返った人々は更に混乱し始めた。
うわああああぁ!!
きゃあああぁっ!!
おろおろと右往左往と逃げ惑うが間に合うはずも無い。
「結界!伏せて!大丈夫伏せて!大結界!」
「しゃずなる、三重も掛けるなーっ!」
クロウが三重結界を張ったらしい。確かに周りの景色がボヤケて見える。近くにいた人はクロウを信じ伏せるが、もう他はパニック状態だ。
ドドドドドドッ!!!!
次々と降り注ぐ光と光。
光の流星は結界に次々衝突して轟音が鳴り響く。
人々はとっさにその場に踞った。そして何も変わらない事に気付き頭をあげ始める。
光球が当たるたびに景色が歪んで見える。結界は衝撃派も吸収しているようだ。
人々は助かったとわかっても何が起きているのか理解できず呆然としていた。
はああぁぁ。
俺はガクリと項垂れた。
な、なんて事しやがる!
二人を振り向いて睨んだ。とくにクルフェルはクソだ。
「ぐぬぬ、しゃずなるー」
「三重じゃないです、一応前後の道と人を重ねて覆っただけです」
「範囲指定、したしー」
「そういう問題じゃなくて、賊捕縛になんでその術なんですか!」
「えー、きれい、でしょ。消し飛んで、もっときれいー」
「……チッ。いつもそうやって下らない術選択するのやめてもらえます?賊じゃない人もいるんです。わかっててやるの本当気持ち悪いんですけど!研究会とかもそうですよ!どれだけ被害だしたら気が済むんですか!」
「えー、若造の小言、聞かないー」
俺は震えた。わなわなと震えた。
「…いい加減にしろ」
低い声で呟いて跳躍した。イライラマックスだ。
魔力がいい具合にのった速さでクロウの足を払って転す。クロウ自身にかかる結界の電気で鼻がチクチクした。
「わぁっ!」
「え?」
次いで小さなクルフェルは毛をがっつりくわえて、ふんぬっと首を振って投げ飛ばした。
「あっ、ぶっ!」
ドガッ
結界か岩壁かに激突した様だ。
フンッと鼻息荒く満足した俺はまた呟いた。
「お前らなんて事しやがるんだ」
それからはあれだ。説教だ。日本式正座をさせてみると苦痛らしかった。西洋系の人種にはかなり効果的なようだ。黒犬の前にしゅんとなって座る王子系クロウと獣人幼女クルフェル。
まだ結界の効果が持続するようだ。賊も一般人もここから出れず呆然となっていた。
「俺は被害最小限にしようと、」
「めんどくさー、ねっ」
「言い訳するな。術師は基本頭がおかしいってのは良くわかった。賊を普通に捕縛しろ。特にクルフェル、お前は何なんだ。人をゴミみたいに扱いやがって。これがこの世界の人間の常識なのか。もっと他人を命を大事にしろ」
「えー……いのち?たにん、気にしない!」
「俺は無力な対象に理不尽かつ無益な殺生は嫌いだ」
「……ほほう」
「魔狼様!」
「おもしろい、考え方、だなー」
クロウは目をうるうるさせて崇拝してますという熱い視線を、クルフェルは観察といわんばかりの好奇の視線をむけて俺をみた。
お前ら本当にわかってんのか?
「縄とか麻痺とか普通っぽい術ないのか」
「あるよー」
「俺はちゃんと縄掛けて転がしてますよ!」
「じゃあ、残り捕縛してきやがれ」
「えー」
「クルフェルお前咬むぞ」
「ちぇ。いって、くるー」
「行ってきます」
人は喋る犬に気付いてザワザワし始めた。周りに向かい、出来る対処を考え俺は声を上げた。
「訊きたい事、苦情は魔術師クロウ・シャズナル、魔術師クルフェルが受け付ける!賊じゃ無いものは身分証を見せ身支度をしろ。それ以外は捕縛する!」
「魔術師様?」
「あの高位魔術師!」
「あんな規模の魔法初めてみたぜ」
「はあああ」
「えっ銀華の君!?」
「クルフェルって熟女美人じゃなかった?」
「変身術でも使ってんじゃねーか?術師は俺らとは違うからな」
「じゃあ犬は使い魔みたいな?」
「すげー」
思い思いに話し始め散らばって行く人々、賊と思しき者はこそこそと後ずさりし始めた。
これで納得するんだな。
異世界の常識って、理解不能だ。




