幕間・青ヘビの主様観察日記。①
「コケッフォオオオ──!!」
「フォオオオ!」
夜魔鳥はうるさいです。
夜に啼くですが、身体も声もデカいです。主様の半分くらいあります。
真っ暗くらな森の、ちょっと深い場所。
魔物たちがアチコチでギャースカやっている中でもハッキリ響いたバカ鳥の声に、ボクはぱちんっと目を覚ましました。寝転がっている主様の上、にゅるるんと起き上がります。
「フゴォッ!フゴ!!」
主様の身体を覆う透明のまんまるは、主様が地面に張った結界陣。金色がキラキラ綺麗です。
「フンゴォッ!!」
その外側で、猪型の魔物が五頭、フゴフゴ鼻息を荒くしてます。土を掻き、勢いよくぶつかってきては結界に阻まれて、真っ赤な目を釣り上がらせています。
主様狙う。
バカです。
そんなことよりもと、ボクは眠っている主様の頬に頭突きを繰り出すです。キュルルと鳴るボクのおなか。かわいそうです。
「はらへり!はらへり!」
「……うるっさ……」
寝ぼけた主様が右手を持ち上げました。頭突きを防がれたボクは、反対側へにゅるにゅる滑って、また頭突き。
「ボクははらへりですよ、主様!」
「……はー……」
主様は観念したです。
バサバサまつ毛が揺れます。ゆっくり持ち上がった瞼の下、金ピカ綺麗な目で、ボクを見て呆れ顔。
「寝る前にしこたま食ったじゃねーか……」
「くだものはオヤツです」
「肉食っただろ。何シレッとなかったことにしてんだ」
「はらへり!」
ボクは口をパカッと開いて、大きな声でアピールです。寝る前の肉なんておなかにはもうないです。
「はいはい」
真っ黒くろな髪を掻き上げて、むくりと起き上がった主様。
ボクはすかさず肩に移ります。厚くて広いです。昼間の地味メガネ姿より乗り心地バツグンです。
喉仏もとんがり。
肌はすべすべつやつや。
唇は薄くて、鼻筋はシュッ。
真横からじっくり観察したボクは、大きく頷くです。
「イケメンです」
「知ってる」
よっこらしょと立ち上がった主様に、結界がパリンと割れます。
「フゴ!フンゴォッ!!」
「肉あんじゃん」
結界が割れた瞬間、主様目掛けて突進して来る猪。
力を入れず、ボロ剣を右から左に振った主様に、ボクの頭も右から左。オヤツ二頭は、頭と胴体が真っ二つ。
「丸焼きがいいです」
「口に入らねーだろ」
「丸焼きがロマンです」
「焼いてから切れってか。とんでもねー使い魔だなオイ」
ため息を吐いた主様。
血のつかない剣を、フゴフゴ突撃して来た三頭に向けて一振りです。
「火」
土にドシンと倒れたオヤツたちがボッと燃えます。
青い炎。
主様の魔法。
ユラユラこんがり、いい匂い。ヨダレが垂れます。
「おま、肩に垂らすな」
「無理です」
「無理じゃねーよ。降りろ」
今度はボクがため息です。
「降りたら危ないですよ?夜ですよ?」
冒険者はふつう、夜の森にわざわざ来ないです。魔物がツヨツヨになるからって主様は言ってました。
主様はもっと強いから、夜でも爆睡。
ボクは弱いから、降りたら魔物のおなかにペロリです。
「そんなことも忘れるです?仕方ない主様ですね」
「バカ見る目向けんな」
目元を通り越して、鼻までかかる前髪を払う主様。
夜の主様はキラキラ、キラキラ。
昼より強くて、イケメンです。
「おにっく~は、ウマウマ~ウマウマ~」
ボクはユラユラしながら歌います。サービスです。
イケてる主様が燃えるオヤツを片手で掴んで、一箇所に集めるです。主様の火は魔物しか燃やさないです。便利です。
ドサッと地面に座って、焼けたオヤツに剣を滑らせる主様。まだ燃えてるガチガチの毛皮を剥いで、毛皮だけ横にポイ。
「ほら」
「オヤツ!」
ボクはにゅるんと主様の足の上に移動します。長い足の、あぐらの上です。安全です。
丸呑みサイズになったオヤツを、主様が口まで運んでくれます。
「ウマウマ。ウマウマ」
「……全部食うの?マジで?」
「命を無駄にはしません」
「ドヤ顔キめんな、腹立つから」
わがままです。
パクパクとオヤツを食べます。横には、毛皮と骨と苦くて毒のある内臓が山になっていくです。でも、青い火が全部燃やします。
「…………」
オヤツをボクに差し出しながら、主様が黙った時。
見上げた顔は森の中を睨んでるです。金ピカな目が更に金ピカになって、威嚇です。
綺麗。
主様は、綺麗。
「……何見てんだ」
フッとボクに戻る視線。
金ピカはいつものキラキラだけ。オヤツと向き合ったボクは口をパカリ。
「あー」
「はいよ」
ボクのオヤツタイムは、いつものんびりです。
主様はボクが何か食べてる間に邪魔されるの、嫌いです。
「げぷっ」
「いっつも思うんだけどよ、身体どーなってんの?おまえ」
「ヘビです」
「見りゃわかる」
五頭分のオヤツをスリムな胃袋に押し込んで、満腹。
主様は肉斬り剣をしまって、土に新しい結界陣を描くです。まんまるがボクたちの周りを包みます。それを見てから、ゴロンと仰向けに寝転がる主様。ボクは主様の首の下に頭を埋めて、二度寝体勢。
「おまえはホントに自由だなー」
片腕を枕にしながら、主様がボクの身体を撫でるです。
優しい、優しい指。
ウトウトしていたら、撫でが止まりました。主様、寝たです。
「……おとうさん……」
眠っているときだけ、こっそりと。
スリ、と首筋に頭をひと擦り。
ボクも寝るです。




