幕間・青ヘビの主様観察日記。③
「主様」
「あん?」
お墓が並ぶ道を主様が歩きます。
おひさまサンサン、昼間です。
お城で管理している墓地で、ずっとずっと昔からあるです。人間は、死んじゃった人間を燃やして骨を埋めるです。弔いです。目を真っ赤にした聖女が、そう言ってました。
「骨、土に還るです?」
「おー」
たくさんの勇者と、たくさんの勇者パーティーの人間のお墓。
その中の、新しく建ったばかりの、ピカピカの石の前。
足を止めた主様が、ゆっくりゆっくり膝をつきます。
慈悲の聖女、セシリア。
字は荷物持ちが教えてくれました。
だからボク、読めるです。
お墓の石に書いてあります。
あのばーちゃんの名前はセシリアで、聖女の前の聖女で、主様のおかあさんです。
「…………」
「…………」
真っ白いお花を、一本だけ。
石の前に置いた主様。
キンキラのイケメンな主様は、地味メガネにならなくなりました。
「主様」
「あん?」
おかあさん、骨もないですよ。
主様が青い火で燃やしました。
抱っこしたまま、燃やしました。
最後までずっと見ていた主様は、泣いてました。
ボクはキュッと口を閉じます。
「主様」
「だからなんだよ」
主様は聖女と魔女に怒られたです。その時にはもう泣いてなかったけど、たくさん怒られたです。
荷物持ちが主様を抱き締めて、馬鹿野郎って言ったです。
ボクは黙って、頬擦りして、一緒に寝ました。
ばーちゃんのお葬式は、出ませんでした。
ゴーン、ゴーンの音だけ聞きました。
ボクは主様とごはんを食べるです。
一緒に寝て、お散歩するです。
お肉も狩るです。
主様が狩るです。
「主様はボクの主様です。いなくなったらダメですよ」
「…………」
ボクはすりすり頬擦り。
「約束ですよ」
「…………」
「わかったですか?」
返事をしない主様に、頭突きをおみまいです。
ドスドス突いていたら、主様が嫌そうな顔をしました。
「おまえな、俺にずっと肉狩れっつーの?自分で頑張ったりしねーの?」
「ボクはヨワヨワです。頑張る前にボクがパクリですよ」
「ドヤ顔キメんな。腹立つから」
ため息を吐いて、またお墓を見る主様。
まつ毛バサバサ。
鼻がシュッ。
閉じた唇もツヤツヤプルプル。
背も高いです。
文句なしのイケメンです。
地味メガネを止めた主様はイケメンのツヨツヨ。お薬は何も要らない、ツヨツヨです。でも、大変です。
色んな人間が主様に近づいて、話しかけたり触ろうとします。ボクは肩に乗って威嚇です。聖女と魔女と荷物持ちも、追い払って威嚇です。そういう時、主様は喋らないで、転移でバビュンとお部屋に戻るです。
今もチラチラ、チラチラ。
あっちこっちから主様を見る人間たち。女も男もいるです。主様が眉間に皺を寄せます。
結婚したらずっと少なくなるって荷物持ちが言ってました。つまり、運命探しです。
「主様、赤髪年上吊り目巨乳美女、探しに行くですよ」
「あー……」
ガシガシ頭を掻く主様。
立ち上がって、お墓に背中を向けます。聖剣がカシャンと鳴ります。
「主様?」
「トゥーリアは貧乳だったんだよなー」
「とぅーりあ?」
知らないです。
首を傾げたボクの頭を撫でて、主様は笑います。
「赤髪も金髪もナシだな」
好みが変わったです。
ボクは頷きます。
赤髪でも金髪でもない、年上の巨乳美女です。
お墓の出入り口までのんびりお散歩。
魔物がいない森は明るくて、うるさくない鳥がピーチクパーチク。
ホカホカした気温に、ボクは主様の耳の下に頭を擦りつけます。
「待て、そこで寝んな」
「寝ないですよ、ボクは」
「フードに入れよ」
「眠くないです」
「嘘つけ」
寝たら威嚇できないです。
主様はツヨツヨだけど、ちょっとヨワヨワだから、守るです。
「手のかかる主様ですね」
「俺?」
いつも通りの主様をチラッと見上げて、もぞもぞ動いて。
「あ」
お墓の出入り口。
門の下で両腕を組んだ影。
「魔女です」
「おー」
魔女は赤髪でも金髪でもないです。
じっくり見ます。
茶髪で、少し吊り目で、年上で、美女です。
「ローラン、アリアが呼んでいるよ」
「なんで?」
「大神殿の改装について、君の意見が聞きたいらしい」
「知らねーよ、そんなん。好きにしろって言っとけ」
足を止めて話す主様と魔女。
身長差は人間の頭一個分。
魔女を見て、主様を見て、また魔女を見て。
「……貧乳」
ため息です。
「ローラン、まずは私と話をしようか」
「俺なんも言ってねーけど」
「君の教育が悪い」
吊り目をさらに吊り上げた魔女の手が、主様に伸びます。
手首を掴まれた主様。
自由な方の手でボクの鼻をつつくです。
「謝っとけって」
「まな板?絶壁?」
「……そこまでじゃなくね?」
コソコソしていたら魔女の手が離れました。
ズンズン歩いていたのも止まって、桃色の魔法陣を浮かび上がらせながら振り返ります。
魔女が得意な風の攻撃魔法です。主様はツヨツヨなので、安心です。
「……ローラン……?」
「はァい、ローラン!今日もイケメンね!」
空気を読まずにバサバサ飛んできた鳥目に、ボクはギュンッ。
「敵襲ですよ!主様!!」
「おまえが敵だわ……」
魔女に胸ぐらを掴まれた主様が、ペッとヤサグレました。




