幕間・青ヘビの主様観察日記。②
「アクティ」
「ふぉ」
転移バビュンは目が回ります。
グルグルふらふらするボクの身体に、主様の手が触ります。指で撫でられてパチパチ瞬きです。
「おぉ、おうちです」
あっという間に着いたドデカいお城は聖女のおうち。
魔女と荷物持ちのおうちでもあって、主様とボクのおうちです。
謁見の間にはいつもたくさんの人間がいます。
まっ白しろな壁に並んだ兵士たち。ピカピカ石の上に立って話すエラそうなオッサンたち。
二段高い場所で真ん中の椅子に座った、ヒゲもじゃ。聖女のおとうさんです。主様を見て目ん玉ひん剥いてます。
「アクティ。俺の目は何色だ?」
いつも通りのお城。
ワーワー騒いでる周りの人間に、聖女が何か言ってます。ボクは主様の顔を見るです。
「キンキラキラキラ金色です?」
メガネは地味なのに、目はキンキラ。
まつ毛もバサバサ。
主様はチッと舌打ちして、ボクの身体をすっぽり入れるようにフードを引き上げるです。フードの中はちょっとホカホカ。適温です。
「ローラン、これを」
「いらね」
「ローラン」
近づいて来た魔女が青い小瓶を出してきますが、そっぽ向いた主様は歩き出します。
「どこに行くんだ?魔力をあれだけ使ったんだ、無理をしてはいけない」
「シルフィの言う通りよ。意地張ってないで飲みなさいったら」
右と左。
ぐいぐい来る魔女と聖女。
主様は嫌な顔。
でも、だんだん、イケメンです。
「主様?」
茶色の髪が黒になり始めて、ボクはどデカいお部屋の、どデカい窓を見ます。まだ明るいです。
「あん?」
主様の手がボクの頭を撫でます。
魔女も聖女も、周りの人間たちにも顔を向けずに、主様が向かう先はまっすぐ部屋の外。
「やっぱり変身魔法、止めるです?」
「…………」
「イケメンがいいですよ」
「…………」
魔力をたくさん使って、使った以上にキラキラする主様。
地味メガネには必要だった激マズお薬も、イケメンなら要らないです。
「ローラン」
走って来た荷物持ちが主様の腕を掴みます。
ギュッと眉を寄せた主様に背中を向けて、前を歩く荷物持ち。
「こっちだ」
「おい」
「アリア、シルフィ、待っていて」
ブスッとした主様を引っ張り、ズンズン歩く荷物持ち。
足を止めた聖女と魔女は置いてけぼり。
「仕方ないわね」
「了解だ。またあとで」
ズンズン行きます。
お城の廊下は人だらけ。
荷物持ちに頭を下げたあと、主様を見て目を丸くしたり、真っ赤っかになったり、口をパカリと開いたり。
「どなた……?」
「さぁ……?」
「あの服に、あの使い魔は……」
「……ローラン殿か?」
まさか。
まさかとざわざわ。
主様は主様です。
人間はバカです。
「ペッ」
「こら、アクティ」
ペッペとしたボクに、ほんの少し振り返った荷物持ちが困り顔。
困ってるのに爽やかです。主様と違ってお得です。主様はイケメンでも爽やかじゃないです。
「紳士は唾を吐いたら駄目だよ」
「ボクは良い子です。紳士じゃないです」
「ローランに似すぎたなぁ」
笑う荷物持ちは楽しそう。
大きな扉の前、荷物持ちに気がついた人間二人がゆっくりと開きます。扉係です。お城にはいろんな係がいるです。
「着替えはあるかい?」
パタンと閉まった部屋の中。
主様の手を離した荷物持ちが、クローゼットに近づきながら聞くです。
主様は左手を持ち上げて、毛先を見ます。真っ黒です。
それからミチミチシャツと、寸足らずのズボンを見て、ほんの少しだけ笑いました。
「いつから知ってたんだ?」
「ずっと前から」
「言えよ」
「みんなそれどころじゃなかったんだよ」
「あぁ……」
主様が息を吐きます。
メガネを外して、フードを後ろへ下ろして、夜の姿。
「腕や足が千切れそうな時に、顔や姿なんて目に入らないだろう?……何度言っても、君はよく無茶をしたから」
綺麗なシャツと、綺麗なズボン。
困り顔の荷物持ちから受け取って、主様が短く笑います。
「前衛がビビってどーすんだ」
「勇猛と無謀は同じ意味じゃないよ」
「ハッ……」
諦めたような、嫌になったような笑い方。
「おまえ、さてはバレてんの知ってたな?」
主様に鼻先をちょんと押されたボクは、パチパチ瞬き。
「バレないわけないです。知らなかった主様がバカです」
「アクティの言う通りだよ、ローラン」
戦うのは昼間。
怪我を治すのは、陽が落ちてから。
お薬で治らない怪我のとき、主様はボクを呼ばないです。パタンと倒れて、真っ赤っか。魔女が戦って、聖女が癒して、荷物持ちが火を熾す。ボクは主様にすりすりして、主様を呼ぶです。
「ボクはちゃんと、お肌のためにって歌ってたです。秘密って言わないですよ。聞いてなかったです?」
頬に頭突きです。
それから、金ピカ主様をじっと見ます。
「歌詞に意味あったのかよ」
「芸術です」
「芸術が泣くわ」
「バカです」
芸術は泣かないです。
泣くのはいつも、聖女とボクです。
「こちらにおいで、アクティ」
「むぅ」
「ローランに着替えをさせてあげよう?」
「仕方ないですね、主様は」
「俺かよ」
ため息を吐いた主様から、伸びてきた荷物持ちの手ににゅるにゅる移動。
荷物持ちが背中を向けます。
主様が着替えます。
「支度が終わったら食事にしようか、アクティ?」
「お肉あるです?」
「あるよ。君が大好きなクコの実もたくさんある」
「クコ!」
荷物持ちの腕はちょっぴり不安定。
でも良い子なボクはユラユラ揺れます。
「クーコ、クーコ、ボクのかわいいク~コの実~」
「絶対意味ねーだろ、それ」
ペッとヤサグレた主様。芸術がわからなくてもいいです。ツヨツヨキンキラなら、ケガしないです。
「キンキラ~キラキラ~でぇ、ツヨツヨ~ツヨツヨ~」
「アクティ」
「はいです!」
主様の肩に戻ったボクは、ツルスベほっぺたにたっぷり頬擦り。サービスです。




