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第5話:群像(各都市の精鋭たち)








■第5話:群像(各都市の精鋭たち)






「古代の大森林の、極秘の隠密調査依頼だと?」


 東の都市ヒガッシの冒険者ギルドにて、実力派として名高いBランクチーム『竜の牙』のリーダーが、提示された極秘の依頼書を睨みつけていた。

 この森は、かつてワイバーンを仕留めた大蜘蛛や、騎士団を壊滅させた巨大ワニが蠢く地獄だ。

 いくらギルドの上層部といえど、実力のない低ランクの初心者冒険者をそんな超危険地域に送り込むなど正気の沙汰ではない。

 だからこそ、生存能力と戦闘力に長けた俺たちのようなBランクの精鋭に白羽の矢が立ったのだ。

 受付の職員は、声を潜めて必死に説明を始めた。


「ミナーミのギルド長から緊急の招集があり、水面下で周辺4都市による緊急の協議が行われようとしています。何故か最近、森の凶暴な魔物たちの遭遇率が異常に下がっているという報告が多数上がっているのです。周辺の生態系に何が起きているのか、国や貴族に気付かれる前に、秘密裏に調査をお願いします!」


 通常ではあり得ない破格の報酬の高さと、最悪の事態を防ぎたいギルドの切実な思惑。

 俺たちは「森の入口付近の様子を見るだけなら……」と、最大限の警戒を敷いて森へ足を踏み入れた。

 時を同じくして、西の都市ニーシからはǍランクチーム『流星』が、北の都市キッタのギルドからも、同じくBランクの精鋭チーム『赤き風』が、それぞれ全く同じ密命を受けて大森林へと隠密派遣されていた。

 数々の死線を潜り抜けてきた各都市の猛者たち。

 だが、彼らは森を進むにつれて驚愕することになる。

 あれほど警戒していた大蜘蛛の糸も、馬車を丸呑みにする巨大ワニの足跡も、上空を舞うワイバーンの影すら、不自然なほど綺麗に消え失せていたのだ。

 あまりの異常事態に困惑しながらも、魔物に怯える必要の無くなった彼らは、吸い寄せられるように、ズルズルと森の奥地へと引きずり込まれていく。

 そして、それぞれの都市から伸びた複数の隠密ルートが、まるで一本の網のように、森の中心にある切り立った岩壁の前へと集束していった。

 そこで彼らを迎えたのは、あまりにも場違いでポップな手書きの看板だった。


『ようこそ!魔道具賭博場・カジノダンジョンへ!!』


 モンスターは1匹もいない。

 そこには、ギラギラと光る『スロット』という未知の魔道具があり、ルール説明書を読んだ欲に目が眩んだ冒険者たちが、一攫千金を夢見て、次々とコインを投入していた。

 当然、全員が増えているわけではなく、結構な数の破滅もある。

 誰もが簡単に勝てる甘い場所ではない。

 だがそんな中でも、目の前であり得ないほどの大金が積み上げられ、動き、崩れて取り出し口に音を立てて出てくる光景が、人間の欲を刺激しないはずはなかった。

 百戦錬磨の各都市の精鋭たちですら、命の危険が一切無いまま目の前で展開されるマネーゲームの前には、一瞬狂いそうになる。

 しかし、それでも流石は高ランク冒険者。

 彼らは驚異的な自制心で踏みとどまり、冷酷なまでに冷静さを取り戻すと、この奇妙な空間の調査を開始した。


 彼らの鋭い視線の先では、カジノのギラギラとした欲望が渦巻いていた。

 大金を抱えて勝ち誇る者がいる一方で、全財産を失ったのか頭を抱えて泣き叫ぶ者の姿など、様々な人間模様が浮き彫りになっている。

 そうして調査を続けるうちに、どうやら思うようにいかず感情的になった連中が、魔道具を破壊しようとしたり、台を激しく揺すって中身を無理やり落とそうとし始める。

 だがその瞬間、彼らの頭上に赤い警告マークが浮かび上がり、けたたましい警告音と共に即座にその場から消滅していった。

 その絶対的なシステムの力すら、高ランク冒険者たちは見逃さずに観察を続けていく。

 国や貴族が介入して、地獄のような泥沼の戦争を引き起こすのだけは絶対に回避しなければならない。

 そのためには、現状が色々ハッキリするまでは出来るだけこのダンジョンの存在を秘密にしておきたい。

 だが、その必死の思惑すら超えて、この謎の賭博場ダンジョンの噂は、一般の冒険者たちの口から口コミとして、止めることが出来ずにそれぞれの街へとじわじわと、だが確実に広まり続けていくのだった。

 やがて、それぞれの街から極秘の任務を帯びて調査に来ていた高ランク冒険者たち――東の『竜の牙』、西の『流星』、北の『赤き風』、そして最初にここを発見した南の『銀の盾』のマイクたちは、フロアを調査中に偶然に出会った。

 お互いにギルドの密命を帯びた精鋭同士、一触即発になるかと思われたが、この異常なダンジョンの前で争うのは愚策だと誰もが分かっていた。


 彼らは「一度ここで情報交換の形で話し合いをしよう」ということになり、カジノの奥にある広々とした休憩スペースへと移動して席についた。

 ひとしきりお互いの街の状況や、このダンジョンの奇妙な絶対安全ルールについての情報を突き合わせた後、彼らは「とりあえず、それぞれがこの驚異的な情報を一度持ち帰ってギルドに伝える」ということになった。

 国を動かさず、まずは4都市のギルドだけでこの事態をどう制御するかを上層部に判断してもらうためだ。

 しかし、これほど濃密な情報を共有し、現地での共同調査を成功させた彼らだ。

 この一件を街に持ち帰った報告のせいで、彼らはギルドの代表のような形に選ばれ、今後もこのカジノダンジョンに関する重要な話し合いを続けていく正式な専属メンバーになっていくという話を、今の彼らはまだ知る由もなかった。






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