第5話:群像(各都市の精鋭たち)
「古代の大森林の、極秘の隠密調査依頼だぁ?」
東の都市ヒガッシの冒険者ギルド。
Bランクチーム『竜の牙』のリーダーが、ギルド職員から伝えられた話に思わず疑いの声をかけた。
古代の大森林は
ワイバーンを仕留めた大蜘蛛
騎士団を壊滅させた巨大ワニ
集団になるほど凶悪になるウルフの群れ
などが気軽に出てくる超危険地帯。
いくらギルドの上層部といえど、実力の無い冒険者などに声をかけるといった頭のおかしいことまでは、まだする気はないらしい。
だからこそ、ベテランであるBランクの俺達に白羽の矢が立った……という訳だ。
受付の職員は、声を潜めて必死に説明を始めた。
「既に周辺の冒険者達がウロウロしているという情報もあるんです。こちらとしても出遅れる訳にはいかないとのことで、出来るだけ早い調査をお願いしたいと……」
「しかし危険がなぁ」
「それを込みにしてこの依頼料なんですよ」
通常ではあり得ない破格の報酬と、出遅れたくないギルドの切実な思惑。
俺たちは「森の入口付近の様子を見るだけなら……」と、依頼を受けた。
「こりゃ~やっぱ受けなかった方が良かったかねぇ」
「まあ戦闘が無い分だけ楽でいいんですけどね」
「そうですよ、気楽に考えましょう」
危険な森のはずなのに、どこにも危険な生物が居ない。
そりゃ当然その方が良いのだが、それでも空振りしたという気持ちだ。
肝心の仲間達も気が緩んでいる。
しかも肝心の奥地に行くと……
『ようこそ!カジノダンジョンへ!!』
というふざけた看板が立っていて、確かに複数の冒険者達が出入りしている。
モンスターは1匹もいない。
そこには、ギラギラと光る『スロット』という未知の魔道具があり、ルール説明書を読んだ欲に目が眩んだ冒険者たちが、一攫千金を夢見て、次々とお金を投入していた。
当然、全員が増えているわけではなく、結構な数の破滅もある。
誰もが簡単に勝てる甘い場所ではない。
だがそんな中でも、目の前であり得ないほどの大金が積み上げられ、動き、崩れて取り出し口に音を立てて出てくる光景が、人間の欲を刺激しないはずはなかった。
百戦錬磨の各都市の精鋭たちですら、命の危険が一切無いまま目の前で展開されるマネーゲームの前には、一瞬狂いそうになる。
しかし、それでも流石は高ランク冒険者。
彼らは驚異的な自制心で踏みとどまり、冷酷なまでに冷静さを取り戻すと、この奇妙な空間の調査を開始した。
彼らの鋭い視線の先では、カジノのギラギラとした欲望が渦巻いていた。
大金を抱えて勝ち誇る者がいる一方で、全財産を失ったのか頭を抱えて泣き叫ぶ者の姿など、様々な人間模様が浮き彫りになっている。
そうして調査を続けるうちに、どうやら思うようにいかず感情的になった連中が、魔道具を破壊しようとしたり、台を激しく揺すって中身を無理やり落とそうとし始める。
だがその瞬間、彼らの頭上に赤い警告マークが浮かび上がり、けたたましい警告音と共に即座にその場から消滅していった。
その絶対的なシステムの力すら、高ランク冒険者たちは見逃さずに観察を続けていく。
国や貴族が介入して、地獄のような泥沼の戦争を引き起こすのだけは絶対に回避しなければならない。
そのためには、現状が色々ハッキリするまでは出来るだけこのダンジョンの存在を秘密にしておきたい。
だが、その必死の思惑すら超えて、この謎の賭博場ダンジョンの噂は、一般の冒険者たちの口から口コミとして、止めることが出来ずにそれぞれの街へとじわじわと、だが確実に広まり続けていくのだった。
やがて、それぞれの街から極秘の任務を帯びて調査に来ていた高ランク冒険者たち――東の『竜の牙』、西の『流星』、北の『赤き風』、そして最初にここを発見した南の『銀の盾』のマイクたちは、フロアを調査中に偶然に出会った。
お互いにギルドの密命を帯びた精鋭同士、一触即発になるかと思われたが、この異常なダンジョンの前で争うのは愚策だと誰もが分かっていた。
彼らは「一度ここで情報交換の形で話し合いをしよう」ということになり、カジノの奥にある広々とした休憩スペースへと移動して席についた。
ひとしきりお互いの街の状況や、このダンジョンの奇妙な絶対安全ルールについての情報を突き合わせた後、彼らは「とりあえず、それぞれがこの驚異的な情報を一度持ち帰ってギルドに伝える」ということになった。
国を動かさず、まずは4都市のギルドだけでこの事態をどう制御するかを上層部に判断してもらうためだ。
しかし、これほど濃密な情報を共有し、現地での共同調査を成功させた彼らだ。
この一件を街に持ち帰った報告のせいで、彼らはギルドの代表のような形に選ばれ、今後もこのカジノダンジョンに関する重要な話し合いを続けていく正式な専属メンバーになっていくという話を、今の彼らはまだ知る由もなかった。
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