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第4話:冒険者の生還報告と、不穏な利権争い






■第4話:冒険者の生還報告と、不穏な利権争い






side:冒険者チーム『銀の盾』 マイク






「―――魔道具を使用した賭け事が出来るダンジョン???」


 ミナーミの街へと帰還した俺からの報告を聞き、ギルドマスターが『何言ってんだこいつ?』という顔をして固まっていた。

 まあ、普通はそういう反応になるだろう。

 新ダンジョンの発見は必ず報告しなければならない。

 まさか自分がそれをするとは思っていなかったが、決められた手順により申請するとスグにギルドマスターに呼び出された。

 そしてあのダンジョンで起こったこと全てを説明するとコレである。

 まあ信じて貰えるなど思っていなかったが、実際そうなるとそれはそれで問題があると言える。


 仕方が無い。

 俺はおもむろにギルドカードを提示する。

 ランクCのカードだ。

 ここまで来るのに様々な冒険をしてきたなと感慨深く、そしてそれらの思い出を胸にギルドカードを掲げて宣言する。

 かつて泥沼の湿地帯で『毒這いトカゲ』の群れに包囲され、ガイの盾が噛み砕かれ、リリアの魔力が底を突き、全員が毒に侵されて泥水を啜りながら決死の思いで生き延びたあの夜。

 吹雪の鉱山で低ランクの魔物と侮った氷結ベアに不意を突かれ、モーグが身を挺して魔法の障壁を張らなければ、今ここにいる全員の首が胴体から泣き別れになっていたあの冬。

 楽しいことばかりじゃなかった。

 仲間を失いかけ、文字通り自らの血と肉を削り、紙一重の死線を何度も潜り抜けてようやく掴み取ったのが、この『ランクC』の地位であり、冒険者としての誇りなのだ。

 そんな必死に積み上げてきた人生のすべてを賭けて、俺はカードをギルドマスターの目の前に突きつけた。


「冒険者ランクC!冒険者チーム『銀の盾』リーダーのマイクが宣言する!あの古代の大森林の奥に、魔道具を使用した賭け事が出来るダンジョンは確かに存在した!」


「ちょ、マイク、お前!!」


「こうでもしないと信じて貰えないでしょう?」


「ったく、馬鹿野郎。誰も『宣言』までしろなんて言ってないだろ」


『宣言』というものがある。

 これはギルドで生まれた制度であり、過去にあった問題の解決策として誕生したものだ。

 はるか昔、Fランク冒険者チームが『巨大な蜘蛛の群れが迫っている』と必死に訴えたことがあるらしい。

 しかしその当時は誰も相手にせず『夢でも見たか酒に酔ったのではないか?』などと言われてしまう。

 だがその数時間後に現れたジャイアントポイズンスパイダーの群れによって街は壊滅。

 かなりの被害を出したということがあった。

 それ以降、ギルドでは『宣言』というものが誕生する。

 カードを掲げて『宣言』を行う場合、その内容はどれだけ荒唐無稽だろうが『全て真実である』という合図となる。

 これをしたにもかかわらず対応しなかった場合は全責任をその街やギルドが背負うことになり、責任者に関しては一族全てが罰則の対象だ。

 逆にこれを利用して何か嘘を言った場合は、その冒険者は未来永劫国家反逆者として名前が残り続けるし、追われ続けることになる。

 捕まれば当然死罪だ。

 つまり『宣言』とは『自らの全てを賭して真実を話している』という意味になる。

 Cランク冒険者が積み上げてきた誇り、そして一族の未来の全てを賭けたのだ。

 ギルドマスターも、もはや疑う余地はなかった。


「……つまり、モンスターが居ない、魔道具を使った賭博場みたいなダンジョンなのか」


「今の所はそのようです。入り口には『ようこそ!魔道具賭博場・カジノダンジョンへ!!』と不気味なほど堂々と書かれた看板が立っていました。一応、そのダンジョンの奥にあった値段の書いてある不思議な魔道具から、このアイテムを交換してきましたが……品質も最上級品ばかりです」


 俺がテーブルの上に置いた上級ポーションを、ギルドマスターが震える手で精査する。

 不純物が一切無い、市場に出れば金貨5枚は確実な最上級品。

 その完璧な実物を見て、ギルドマスターの顔がみるみる真剣なものに変わっていった。


「多少割高だが、命の危険ゼロで、賭け事さえすれば何もかも買えてしまうか……。色々と面倒だなぁ」


「はい。ただそれ以上に、あの場所の地理的な条件が最悪と言えます」


「……あの大森林か」


 ギルドマスターの言葉に、俺は脳内で周辺の地図を思い浮かべながら頷いた。

 あの『古代の大森林』は、そもそも周辺の4カ国どこからも強力なモンスターのせいで事実上の通行不能とされているエリアだ。

 だからこそ道とは認識されず、境界線すら曖昧で、どの国にも属さない完全な空白地帯となっていた。

 もし下手にこの場所を自国の領土だと主張してしまえば、森から溢れ出るモンスターによる被害などの全てに対し、管理が行き届いていないと国が責任を負わなければならなくなるからだ。

 だからこそ、軍隊の通行すら不可能な死地として、今まで周辺4カ国は冒険者任せで完全に放置してきたと言える。


 しかし、もし。

 本当にもしもの話として、あのダンジョンの影響で森の脅威が薄れ、あそこが『道』として安全に通行可能となってしまったらどうなるか。

 あの大森林は、周辺4カ国を……いや、間に挟まれた小さい国まで混ぜればもっとだが、それらすべての中心地に位置している。

 そこが通れるようになれば、近隣国で一番の、圧倒的な一大交易路となってしまうのだ。

 それだけでなく、通れるということは軍隊が動かせるということ。

 つまり、全く新しい軍事境界線が誕生することを意味していた。


「それを、各国が見過ごすはずがありません。下手をすれば……間違いなく利権の奪い合いで、戦争に発展します」


「……そうだな。周辺国では、綺麗に1つずつダンジョンを持っているだけの状態だ。しかも大して大きくも強くも無いダンジョンなので、国が資源を回収する鉱山のような扱いになっている。そこにきて、中心地にあれほど莫大なお宝と安全を生み出す新種のダンジョンが誕生したとなれば……」


「揉めるでしょうね」


「揉めるだろうな」


 お互いに顔を見合わせてため息を吐く。

 どうにかして欲に目が眩んだ国や貴族にこの場所を奪われないように、国がこの場所を管理しない形にするにはどうすればいいか。

 ギルドマスターは腕を組み、深刻な顔で何度も机を指先で叩いて深く苦悩していた。

 国が乗り出してくれば間違いなく血の海になる。

 しかし、いくら知恵を絞っても、一都市のギルドマスターの権限だけでは国を抑える明確な答えなど出るはずもなかった。


「……駄目だな。俺一人では判断できん。国への報告を遅らせるにしても限度がある。マイク、とりあえずこの件は他の3都市のギルド長たちとも秘密裏に連絡をとり、周辺ギルド全体での『緊急協議』を行うことにする。そいつらの意見

も聞かなければ、とてもじゃないが次の手は打てん。当然、発見者であるお前たち『銀の盾』にも追加調査の主力として引き続き動いてもらうぞ?」


「もちろんです。俺としても、あそこがどうなるのか気になってましたので」


 こうして、国に奪われぬための打開策を模索すべく、他都市のギルド長たちを巻き込んだ秘密の協議への段取りと、利権の裏で静かに動き出す周辺ギルドの思惑が、不気味に動き出すのだった。







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