第07話 レイナルト視点 やらかし夫の本音
レイナルト視点です。
やらかし夫の本音が漏れます(笑)
リアクション、ブックマーク、評価が本当に励みになっています。 一つひとつの反応に力をいただいています。
パタン。
自室に戻り、扉を閉める。
「旦那様。おはようございます」
「おはようございます。昨夜はどうでした?」
そこには、執事長と、その息子ラルフがすでに衣装を用意して待っていた。
彼らは、代々ヴィセルク伯爵家に仕えてくれている。
手際がよく、大変助かるのだが……。
侍従姿のラルフに詰め寄る。
「ラルフーー!女性を怖がらせないように、ゆっくりと進めるべきだと言っただろうが!」
「はい?」
ラルフは俺の言葉に、驚いたように目を丸くしている。
その姿にも苛立ってしょうがない。
この短い茶色の髪を、無性に毟りたい気分だ。
「そのせいで……!」
ラルフは、俺の剣幕にどこか納得して頷く。
想定内、ということか??
「……あ〜。やっぱり、やらかしましたか?」
「……ぐっ!」
やっぱり、だと!?
その通りだ、畜生!
「やらかした!何故か白い結婚だと勘違いされている……!違う、違うんだ……!クララのペースに合わせると伝えたかったんだぁぁぁ」
反論もできずに、情けない泣き言が漏れる。
もう終わりかもしれない。
しかも、クララを泣かせてしまった。
本当に違うんだ。
「なんとなく状況がわかった気がします……。アレですね、見事にやらかし旦那一直線になられたんですね……」
「お前のせいだ」
“やらかし旦那”という言葉に、微妙に傷つく。
まだ正体もわからない、未来の自分だと名乗る猫――『ニャン旦那様』とやらにも説教される始末だ。
「……鏡に向かって、文句をつけたほうがいいかと」
「今は自分の顔を見たくない!お前でいい!」
「……理不尽!」
そこで、執事長が俺たちの間に入った。
「旦那様。時間がありません。アーノルドは厳格な方なので、すぐにお支度を。着替えやすいシンプルな服に纏めておきました」
こういうやり取りも慣れているからだろう。
てきぱきと迅速に俺の着替えに取り掛かっている。
執事長とラルフは、留守にしがちだった父よりも家族に近いと思っている。
「レイナルト様?首元のそれ……」
指摘されて、思わず肩が揺れた。
ごほん!
執事長が咳払いで、ラルフを止めようとしているが――。
「口紅?マーキングですか??やらかし旦那への嫌がらせ?」
「違う!クララの可愛らしい勘違いだ!」
ゲフン、ゲフン!
今度はポーズじゃない咳が、執事長から漏れた。
「奥さま、いい人そうですよね。いいなぁ……。ほわほわしてて、かわい――」
「手を出したら……」
指の関節がポキリといい音を立てた。
目の前で、ラルフが高速で首を振っている。
「まさかそんな!若奥様と侍従の禁断の関係なんて――!」
「ラルフーー!想像だけでも許さないからな!」
また掴みかかろうとしたら、執事長の声が遮った。
「旦那様。時間がありません」
いつもよりも声が低い。
勝手に身体が反応してしまう。
なにせ、子供の頃に何度もこの声で叱られたのだから。
場を仕切り直すために話題を変えた。
「執事長。叔父上の領地は問題なく回っているはずだよな?」
「はい。前年度と同様に不作でもありませんし、なにより堅実な方ですからね」
執事長が上着を着せてくる。
深い紺色だ。
これなら、クララの瞳の色と合うか。
そんな事もあろうかと、事前に用意していたものがあったはずだ。
「……だよな。堅実な方だから無茶な投資もしない。――装飾品は、青いブローチを頼む」
「はい。ご用意致します。……アーノルド様に、なにか気になる点でもございましたか?」
執事長が控え目に尋ねてくるが……。
何と答えればいいのやら。
猫になった、未来の自分が警告してきただなんて、頭を疑われてしまう。
そう考えて、さり気なくエドガーの話へ移る。
「……いや。じゃあ、エドガーの評判はどうだ?まだ放蕩を続けているのか?」
「そちらの噂は、旦那様のほうがお詳しいかと存じます」
「ああ、そうだな。……たちの悪い友人とつるんでいるらしいな。そんな話ばかりだ」
――借金ねぇ。
可能性が高いのはエドガーの方だな。
賭博か女か。
猫の話を全面的に信じたわけではないが――。
「……なあ。喋る猫は存在するのか?」
「はい?ショックで知能が落ちました?……大丈夫ですか」
ラルフが気の毒そうな視線を向けてくる。
「……いや。正常だからそんな目で見るな」
それが普通の反応だろう。
しかし、こいつは物言いが雑すぎる。
主従関係というものを、理解しているのだろうか。
公の場では弁えているのが腹立たしい。
「……クララは大丈夫だろうか」
「私もラルフも奥さまをお支えする所存です」
執事長が力強く答えた。
本当に頼りになる。
「ああ、よろしく頼む。まだ初日だから、彼女にはあまり負担をかけたくない」
今日は一番乗りで挨拶に来たが、実情はクララを見極めるためだろう。
叔父の中では、俺はまだ半人前の若造だ。
クララを信頼していないわけではないが、これからもこういう面会が続くだろう。
厄介なものだ。
「せめて、母上が生きていればな……」
「旦那様……」
しかし、そう思わずにはいられない。
幼少期にはすでに亡くなっていたので、言った所で意味もないが。
しかし。
ヴィセルク伯爵家の親戚への紹介や、夫人方との付き合いも、母がいれば、スムーズに取り次げたはずだ。
嫁いだばかりで女主人になった彼女は大変だろう。
――自分が家督を継いだばかりの頃を思い出す。
まだ若いからと、あからさまに軽んじる視線や態度。
こちらを利用しようとする人々の、厚かましい様子や媚びた会話など、色々と経験したものだ。
クララには最初から苦労をかけることになる。
明るい彼女が気鬱?
そこまで負担を強いてしまうのだろうか。
なんとかしなくてはならない。
「執事長。ゆっくりでいい。家政を丁寧に教えてあげてほしい。……正直、メイド長は厳しすぎるだろうからな」
「かしこまりました」
執事長が頭を下げた瞬間に、ラルフも頷いた。
「メイド長ってば、奥さまの前でニコリともしませんでしたからねぇ。実は俺も昔から苦手です」
ああ……心配だ。
心細くなってないだろうか。
大丈夫だろうか。
猫の言いなりは癪に障るが、早く彼女の実家に連絡しなければ。
クララが孤立してしまう前に、だ。
しかし、こうしていても仕方がない。
まずは目の前の問題からだ。
探りにくる親戚を、片っ端から片付ける――ではなく、対応していく。
話はそれからだ。
「よし、応接室に向かうぞ」
「「はい、旦那様」」
やらかし夫が、ポンコツ具合を晒しています(笑)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
もし物語を楽しんでいただけましたら、
★やブックマークで応援していただけると励みになります。




