第05話 溺愛演出は、初夜の翌日から
クララの勘違いが、レイナルトをじわじわ追いつめます(笑)
リアクション、ブックマーク、評価が本当に励みになっています。 一つひとつの反応に力をいただいています。
「……んん」
今、何時でしょう?
お日様の光が、窓から差し込んでいる。
昨日はたくさん頑張ったので、もう少しゆっくりしたいものです。
ころん、と寝返りをうつ。
隣にある、固くて温かいものが頬に当たった。
あ、いい匂いです。
思わず、ぐりぐりと頭を擦り付けてしまう。
――ビクッ!
その瞬間、大きく振動する、“なにか”。
ん?
動いた?
まだ重たい目蓋を、無理やり上げる。
あ、これは。
さわさわ。
自分の手のひらで確かめてみる。
なるほど、これが胸筋というやつですね。
おお……。
なんて素晴らしいんでしょう。
弾力もありながら、固くて――。
「く、クララ……!待て待て!」
感触を楽しんでいたら、腕を取られてしまった。
あら、残念。
「おはようございます。旦那様。ご立派なものをお持ちだったので、つい……」
「言い方ーー!」
勝手に触れていたことを話すと、なぜかレイナルト様に注意されてしまいました。
『クララ、止めてやれ。そいつは一晩中眠れなかったみたいだからな』
ニャン旦那様が、レイナルト様のお腹の上で伸びをした。
「おはようございます、ニャン旦那様。……なんで私じゃなくて旦那様の上に乗っているんですか。狡いです」
『……君の上だと、いくら猫でも重いだろう』
「いいえ!次からは、ぜひ私の胸を堪能してください!」
『言い方』
「言い方ーー!」
息がぴったりです。
というか、レイナルト様は同じセリフを繰り返してません?
(はっ!しまった、シーツを乱さなければ!)
私は慌てて布団から抜け出して、ぐぐっとシーツを引っ張りました。
それを見たレイナルト様が首を傾げています。
妻が頑張っているのに、何を悠長にしているのか。
「旦那様。初夜の後のシーツはぐちゃぐちゃで、なぜか色々大変になっているんです!早く手伝ってください」
「言い方ーー!!」
そう真剣に伝えると、なぜか同じ言葉で叱られました。
昨晩誓った溺愛旦那様はどこへ?
詰めが甘すぎる。
「あ!そういえば。キスマークというものもついているらしいです。旦那様、早く口紅を!私のものでいいでしょうか」
「……は!?」
私はドレッサーに向かっていき、そこから化粧道具を出す。
しかし鏡を見ると、いつも通りの私だ。
うーん……。
もう少し気怠い色気が欲しい。
髪の毛をわざと乱し、夜着の胸元を大きく開く。
――これでよし。
この姿で、レイナルト様にキスマークをつけてもらえば完璧だ。
「旦那様、目を瞑ってください」
紅を小指につけて、彼に近づいた。
すると、なぜかジリジリと後退りして逃げてしまう。
「待て待て待て。色々と間違えている」
「あ、口紅は初めてですか?」
緊張しているのだろうか。
別に、ちょっと口紅でキスマークをつけてもらうだけなのに。
しかも、似合うと思います。
「したことないに決まっているだろう!」
『クララ。たぶん全部間違えているぞ』
ニャン旦那様にも呆れられてしまったようだ。
「じゃあ、私がつけますね」
ちょんちょんと唇に紅を乗せていく。
えーと、どこにつければ目立つでしょうか。
頬?
首筋?
鎖骨は魅力的です。
「怖くないから、じっとしててくださいね。……えーと、天井のシミを見るといいらしいです。……シミ、ないですね。じゃあ、目を閉じてください」
『諦めろ。役得じゃないか』
「猫ーー!」
五分後には、首元と鎖骨に口紅の後を残したレイナルト様が完成した。
凄い。
色気が凄いです。
「キスマークの威力が凄いです……」
『ああ。軽薄さが滲み出ている』
「え!?色気の間違いですよ!」
旦那様は、穏やかな表情で窓の外を見ている。
もはや完全にロマンス小説のヒーローでした。
「完璧です。今日一日消さないでくださいね。どこからかどう見ても溺愛旦那様です」
私が熱弁すると、旦那様は掠れた声で答えてくれた。
「ああ……。完璧に、変態趣味がある溺愛夫になるな」
『ぐっ、くくく。我ながらお似合いだぞ』
「ええ。退廃的な感じがいいと思います」
私もニャン旦那様の言葉尻に乗って褒めちぎる――が。
なぜかさらに遠い目をされた。
「クララ……。たぶん、君は真実を知った時に取り乱すだろう」
旦那様は予言めいた言葉を呟く。
真実?
「どういう意味ですか?」
気まずそうに目を逸らすレイナルト様は、頑なに教えてくれない。
ニャン旦那様を見つめても同じ反応?
なにか間違えたのでしょうか。
その時。
コンコンコン。
控えめなノックが聞こえてきた。
「なんだ?」
「旦那様……お客様でございます」
使用人が扉の向こうで声をかける。
私とレイナルト様は顔を見合わせた。
こんな朝から来客なんて。
「誰が来ているんだ?とりあえず待たせろ」
「はい。アーノルド様とエドガー様でございます」
レイナルト様が大きな溜め息をついた。
ニャン旦那様の尻尾も、パシパシと激しく叩きつけている。
苛立っています。
猫ちゃんの尻尾は、わかりやすいからいいですね。
「叔父上か……。朝から厄介な」
『来たか』
ニャン旦那様は、不機嫌そうな様子だ。
鼻の頭にシワが寄っている。
緑の瞳もいつもより剣呑に見えた。
ちょっと怖いお顔ですね。
なにかあるのでしょうか?
『俺が死んで一番得をする者たちだ』
「……確かにそうだが……」
レイナルト様もその言葉に頷く……けれど、あまり納得していないようだ。
確かに、親戚ですし……。
いや、でも。
お家騒動でありがちなパターンでしょうか?
家督争いは切っても切れないものです。
『あの日、クララの葬儀にも来ていた。しかも、従兄弟のエドガーは借金まみれだ。容疑者の一人だな』
「ニャン旦那様、情報が後出しですーー!」
思わず叫んだ私は、悪くないと思います。
いつクララが真実を知るのか……?
お楽しみに(笑)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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