表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来の旦那様(猫)から指令が来ました!?〜やらかし夫の溺愛プロジェクト〜  作者: しぃ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/28

第23話 何から助ければいい?――レイナルト視点――

ラスト、少し加筆しました。


「えへへ。楽しかったですぅ〜」


 呂律が回らない口調で、クララが腕にしがみついてくる。

 その指をそっと引き剥がし、彼女の肩を押した。


「まあ、クララ様!どれだけ飲まれたのですか!」

「ちょっとだけよ〜。レイナルト様なんてこーーんなに飲んでたんだから!ですよねぇ、うふふ」


 メリーからジト目で見られているが、誤解を解きたい。

 決して俺が勧めたわけじゃない。

 目を離した隙に、クララが俺のエールを呷ったんだ。

 しかも彼女は、三杯も飲んでいないはずだ。


 ホテルへ戻ると、酔ったクララはもう限界だったらしい。

 メリーが、うとうとし始めた彼女を着替えさせる為に部屋を出ていく。

 俺は黙って、足取りが覚束ないクララの背中を見送る。


「デートはどうでした?レイナルト様の顔を見ただけでも結果がわかりますけど」

「ああ……」


 ラルフに聞かれるが、なんと答えればいいのやら。


 ――楽しかった。


 クララといると、今までの世界が覆るようだ。

 誰が想像するだろう。

 伯爵夫妻が飲み屋で歌い、酔っ払いを巻き込んで大合唱する。

 見栄も肩書もなく、ただの“レイナルト”になっていた。


「……また誘いたいな」

「おや、珍しくセンチメンタルですね。奥さまも楽しそうでしたし、また観劇でも、お忍びデートでもすればいいじゃないですか」


 ラルフの言葉に、思わず胸ポケットに触れる。

 微かに紙の感触が指に伝わった。

 先日“新たに浮かび上がった文字”を見た瞬間、とっさに猫とクララから隠してしまった。


「……そうだな。また誘えばいいだけだ。――それで、ラルフ」

「はい」


 着ていた服を乱雑に脱ぎ捨て、白い夜着に袖を通す。

 瞬時に思考が切り替わる。

 楽しい時間はここで終わりだ。


「ヴィセルクの内部調査はどうなっている?」


 椅子に腰掛け、机に置かれた書類に視線を落とすと、ラルフの硬い声が返ってくる。


「メイドが数人、奥さまに反感を持っている様子です。ただ、実害は出ていないので、旦那様が処理をすると、重臣から声が上がる可能性が高いですね」

「厄介な。自分の娘を宛てがう目論見が外れたからな……。素直に諦めればいいものを」


 “各家臣を蔑ろには出来ない”という理由で、受け入れた使用人も多い。

 これでも、調整には気を使ったのだ。

 それが仇になるとは。


(親戚一同を纏めている間に、今度は家臣の問題か)


 いっその事、何らかの理由をつけて一掃したい気分だ。

 クララの気鬱に関しては、伯爵家内部の問題だろう。


 だが。

 本当にそれだけだろうか。

 そっと手紙の縁をなぞる。


 ――最初に見た遺書とは、明らかに文字の温度が違う。


 思わず目を逸らしたくなる言葉だ。

 だが、クララを裏切るようで懐から手放せない。

 そんな文字が並んでいた。


 なにかが致命的に間違っているような焦燥感が募る。

 なんだ?

 親戚を洗い直したほうがいいのか、それとも臣下か。


 (問題が山積みだな……)


「……はぁ。俺は猫にも劣る」

「え、どうしました!?情緒がおかしいですよ!?」


 ラルフの慌てた声が聞こえてくるが、気にしている余裕もない。

 自然と愚痴が漏れる。


「お前も、あの猫と話せばわかる」

「……不憫すぎる!」

「そんな目で見るな。正常だ。……しかし、猫の協力が不可欠だな。完全に信用してもいいものか」


 奴の情報が曖昧すぎるのが問題だ。

 まだ何かを隠しているような気もする。


「不憫すぎるーーー!!」


 珍しく、本気で心配されてしまった。

 医者でも呼び出しそうなラルフを追い出して、続き部屋へ移動する。


 タウンハウスでもよかったが、ホテルにしたのだ。

 クララが少しでも、肩の力を抜けるように。

 寝室は想像よりもシンプルだった。

 目が痛くなるような派手な装飾や調度品もない。

 貴族が泊まることが多いからか、使用人の部屋も付いているのがありがたい。


 サイドテーブルに、小さなランプを置いてそのままベッドへむかう。

 クララは既に寝息を立てている。

 彼女を起こさないよう、そっとその近くに腰を下ろすと、すぐ側で声がした。


『どうした、レイナルト。随分とラルフが騒がしかったな』

「……猫。聞いていたのか」


 布団の上で丸まっていたらしい。

 耳がぴくぴくと動いている様子から、ラルフとのやり取りも筒抜けだったのだろう。

 動物の聴力は侮れない。


 俺は盛大な溜め息をついて、視線を下に向ける。

 ただの猫にしか見えない。

 しかし、間抜けだとしても“俺”であり、“ヴィセルク伯爵”だ。

 こいつなら、どう動くだろうか。

 案外、バッサリと切って捨てるかもしれない。

 二年後の俺は、命さえ失うらしい。

 ならば、家臣の忠誠心も一族間の問題も、些細なことに感じるのではないだろうか。


「俺が、地盤を固めるのに集中していたせいだ。愚かな野心を抱いた人間を、どう扱えばいいのか……」


 目の前で猫が鼻を鳴らした。


『誤魔化すな。本当に悩んでいるのは、そんなことじゃないだろう。毎晩確認している胸元の紙。――何が書かれている?』


 緑の瞳がスッと細められ、顎で俺の胸元を示す。

 その瞬間、心臓が音を立てて軋んだ。

 猫の視線は明らかに“逃がさない”と告げている。


 ――これは観念するしかないな。


 息苦しさからか、緊張からか、知らずに息を止めていたらしい。

 指先が僅かに強張っていた。

 俺は胸元から、一枚の紙を取り出した。

 何度も何度も読み返したせいで皺ができてしまっている。


 サイドテーブルの明かりの前で、そっと開いて見せた。


 ✦―――――――――✦


 レイナルト様。


 助けてください。

 助けてください。

 助けてください。


 ✦―――――――――✦


 静寂が落ちる。


 隣で息を呑む気配がした。

 猫が低く唸り声を上げ、牙を剥き出しにして俺の腕を引っ掻いた。


『お前!何故、今までこれを見せなかった……!いつからだ!』


 鈍い痛みが走り、温かいものが腕を伝って床に落ちていく。

 だが、気にもならない。


 それ以上の痛みが、ずっと心臓を苛んでいたのだから。


「メリーが来た数日後くらいか。夜中に突然現れた。……なあ、教えてくれよ。何から助けてやればいいんだ。そんなに酷い病に罹るのか?」


 これを書いたクララは、どんな状態なのか。

 何度も何度も、繰り返し想像してしまう。

 避けようがないのか?

 クララの必死の訴えに応えられない自分が情けない。

 そしてこの叫びを無視しているように思えて、ずっと手元に置いていた。


『……詳しく知らないんだ。最後まで俺の顔を見たくなかったらしい。もう消えた遺書に書いてあっただろう。“旅立つことさえ心待ちにしている”と』


 猫の言葉に、息を詰める。

 あの遺書を読んだ時、自分の目を疑った。

 クララが書いたとは到底思えなかったのだ。


「知らないだと?見舞いにも行けなかったということか?いくらなんでもおかしいだろう」

『……おかしかった』


 猫が苦々しげに呟いた。


『彼は……見舞いに来ていたらしいがな』


 夫の見舞いは拒否し、“彼”とやらには会っていたということか?

 以前猫が言っていた初夜の失敗と、例の愛人騒動で見限られたのか。


「彼とは誰のことだ。明らかに使用人じゃないだろう」

『……忘れろ。今のは失言だった』


 牙を剥き、鼻の頭にしわが寄っている。

 猫の表情など分かるはずもない。

 だが、明らかに不機嫌な様子だ。


「おい、全部教えろ」

『……まだ言えない。だからこそ、こうやって待っている』


 猫は、ふい、と横を向いた。

 ――この野郎。答えるつもりはないってことか。


「お前!クララの未来を知っているんだろう!?推論でもいい、教えろ!」

『お前が余計なことをしたら困る』


 思わず舌打ちする。

 こうなったら、意地でも話さないだろう。

 自分のことだからこそ理解できてしまう。

 だが――。


「……味方じゃないのか?」

『クララの味方だ』

「……話にならないな」


 こちらが声を荒げた瞬間、ぶわりと猫の毛が逆立った。

 緑の目が剣呑な光を帯びている。


『……尻尾を掴まなくては。今回は確実に狩る』

「お前は一体、なんなんだ」


 今までの認識が覆される。

 どこかで、絶対的な味方だと思っていた。

 間抜けな猫だとも考えていた。

 しかし、こいつは本当に“レイナルト”なのか?


『お前の成れの果てだよ、レイナルト』


 

忘れた頃に、不穏回収……です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ