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未来の旦那様(猫)から指令が来ました!?〜やらかし夫の溺愛プロジェクト〜  作者: しぃ太郎


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20/23

第19話 まだ白紙の手紙と、夫婦の会話

夜中に翌日のデートについて話しています。

クララは、こういう時間が一番好きだったりします。


 王都へ行く日を指折り数えていたある日。

 また廊下で、上級メイドのノーラに会ってしまった。

 後ろでメリーが舌打ちしている。

 こらこら。

 私も注意はしないけれども。


「お聞きしましたよ。王都へ観劇に行かれるとか。外出用のドレスをお持ちしましょうか」


 頼んでもいないのに、わざわざ声をかけてくる。

 毎度のことながら、本当に面倒です。


「奥さまにぴったりな演目ですわね。もしかすると、レイナルト様からの遠回しなお言葉なのでは?」


 本当に、どこから情報を仕入れているのか。

 舞台の内容まで知っているなんて……。


「遠回しな……?」

「ええ。情けなく立ち往生する殿方がお似合いだ、とか。ふふ」


 勝ち誇ったように口角を上げるノーラ。

 その態度も目に余る。

 けれど、それ以上に許せないのは――。


「メイドが旦那様の心中を代弁するなんて。しかも、根拠のない憶測で、ね。責任を取る覚悟があるからそんなに大胆なの?」

「な……っ!一般論ですわ」


 旦那様の気持ちを踏みにじられた気がするからだ。


「では、私も一般論を一つだけ」


 一歩前に出ると、ノーラが僅かに後ずさった。

 私は確かに変わっているかもしれない。

 けれど、頭が空っぽなわけではありません。


「男性の上辺だけを見ていると、後悔しますよ」

「……は?」


 私の言葉に、ノーラは目を丸くした。

 嫌味でも返ってくると思っていたのでしょうか。

 でも、私はそんな性格でもありませんし。


「ただの一般論よ。さ、メリー。行きましょう」



 ◇◇◇



 王都へ向かう前夜。


 喉が渇いて目が覚めると、窓枠に身を預けているレイナルト様が目に入った。

 彼の金髪が淡く光って、幻想的にすら見えた。


「……旦那様?」


 私が声をかけると、彼の手元がカサリと音を立てた。

 一瞬だけ肩を揺らし、ゆっくりと折りたたんで封筒に戻していく。


「どうした。眠れないのか?」

「……喉が渇いて」


 ベッドから出ようとすると、先にレイナルト様が水差しを手に取った。


「動かなくていい。今用意しよう」

「ありがとうございます。…………また、白紙の手紙ですか?」


 コップを手渡され、喉を潤す。

 レイナルト様は、そんな私をじっと見つめていました。

 ……そんなに見られると、照れてしまいます。


「……ああ。あの手紙を見ていた」

「……ずっとこのまま、何も浮き出ないかもしれないですね」

「――そうだな」


 レイナルト様は、優しい表情で頷いた。

 手紙の原理は、よくわかっていません。

 このままの方が、実はいい未来に向かっている可能性もあります。


「明日は楽しみですね」


 空気を変えたくて、こちらから話題を振ってみる。

 空になったコップを受け取りながら、レイナルト様も同意してくれる。


「ああ、初めてのデートだ。早めに行って王都を回ってみよう」

「そういえばそうでしたね。今まで二人で、ゆっくりお出かけしたことはなかったですね」


 彼がゆっくりとベッドに上がってくる。

 そして、いつもの位置で横になった。

 少し離れた所でベッドが沈み込んだ。


「明日の演目のあらすじを聞いてもいいか?」


 レイナルト様がぽつりと呟いた。

 ふふふ。

 彼のことだから、事前に調べていそうなのに。

 私から聞きたいのでしょうか。


「そうですねぇ。最初は小さな勘違いから始まるんです。街一番の臆病者の青年が……あ、この人は鼠も怖がっちゃう人なんですが……」

「……鼠は誰でも嫌だろう」


 嫌そうな声が返ってきます。

 確かに、その通りなんです。

 最初から彼は、臆病なんかじゃなかったのかもしれません。


「喧嘩に弱くて、殴られるのが怖くて、街のパン屋さんの使いっ走りにさせられていたりするんです。そんな彼が、街一番の美人を馬車から助けました」


 ヒロインとの出会いは、彼の小さな“勇気”から始まったのでした。


「定番だな。その一回で惚れてしまったのか」


 ちゃんと相づちをうってくれます。


「ヒロインは青年を“理想の騎士様”だと勘違いしました。本当はお屋敷勤めの使用人なんですけれど」


「そんな張りぼて、すぐにバレそうなのにな」

「ええ。彼女の前で苦手な喧嘩を仲裁したり、酔っ払いに立ち向かったり。必死に奮闘したんですが、最後にはバレてしまって」


 レイナルト様がくすりと笑う。


「それで呆れられて、振られてどん底に落ちるのか」

「ええ。ですが、ヒロインも街の人も、彼の頑張りを見ていたんですよ。街中の人たちが彼の背中を押すんです」


 その場面を思い出すと、心が浮き立ちます。

 あの心強い旋律は見どころの一つですね。


「情けない男だな。……遅すぎないか?」

「でも、ヒロインの為に走ったシーンは大好きです!ヒロインはちゃんと待っていました。間に合ったから大丈夫なんですよ」


 レイナルト様は、数秒間黙り込んでしまいました。


「……二年前、君は追いかける場面の歌を歌っていた。なぜ、あの歌が好きなんだ?」


 忘れたい記憶ですが……。

 彼の疑問には、しっかり答えます。

 不安そうに揺れる声を、聞いてしまったのですから。


「だって、ヒーローが初めて一歩を踏み出すんですよ。勇気をもらえます。それに、そこまで追いかけてもらえるのは女性として幸せだなって……思います」


 本音を語るのは恥ずかしいです。

 笑われるのは、私の上辺だけで十分。

 だから、本心を隠す癖ができてしまったのでしょう。


「クララが、はしゃぎ過ぎないか心配だ。迷子になったら……」

「何歳だと思っているんですか?」


 護衛もメリーも連れて行くというのに、本当に心配性です。


「クララ……。もし、俺がいない時になにかあったら……」

「はい?」


 そこまで深刻になるほど、過保護になってしまったのでしょうか。

 私の視線に気づいたのか、彼は仰向けになって目元を隠した。


「いや、俺は完璧じゃないからな。困ったことが起きるかもしれない。そうなった場合は、ご両親にも連絡を……」

「ふふ。私の旦那様は、たまにおかしな事を言いますね。……妻が一番に頼るのは誰なのかもわからないんですか?」


 冗談めかした口調で答えたのに、レイナルト様は黙り込んでしまった。

 問いかけようとした瞬間に、胸元に抱き寄せられ、そっと頭を撫でられる。


「……早く寝よう」

「……はい」

「その時は、俺が絶対に助けるから――」


 レイナルト様の真剣な声に、私は黙って頷いた。

 彼の体温が温かくて、すぐにうとうとしてしまう。

 足元で丸まっている猫ちゃんも、ずっと口を挟まずにじっとしていました。


「手紙の――未来の変化はありましたか?」

「………。」


 ✦―――――――――✦

 レイナルト様。

『最後に会いたかったです』

 クララより。

 ✦―――――――――✦


 レイナルト様へ宛てた手紙に突然浮き出てきた文字。

 両親宛の遺書はすぐに近況報告へ変わったというのに、こちらはずっと変わりません。

 この言葉が消える未来を目指して、私たちは頑張っています。


 レイナルト様は一瞬だけ黙り込んだ。

 そして、硬い声が返ってくる。


「……まだ消えてくれないんだ」

「……まだまだ先のことですし、大丈夫です。まずは、目先のハニートラップ事件の方が重要です!」


 落ち込ませてしまいました。

 空気を変えたくて慌てて話題をずらしますが、こちらも重要な問題です。

 私は、その女性も容疑者の一人だと睨んでいます。

 なのに、頑として詳細を語らないニャン旦那様にも困ったものです。


「そうだな。クララを苦しめるものは排除しないとな……」

「ふふふ。物騒ですよ」

「……何としても未来を変えよう。俺が絶対に助けてみせる」


 ハニートラップの話は、またしてもはぐらかされてしまいました。

(気まずいのはわかるんですが、対策を考えなくてはいけないのに)


 この時の私は呑気にも、そんなことを考えていました。


 ――レイナルト様の言葉の本当の意味を知るのは、もう少し先のことになります。


 なぜ、レイナルト様があの白紙の手紙を肌身離さず持っているのか。

 手紙のことを誤魔化した彼の表情を、もっとよく見ていればよかったのです。

 そうしたら、気づいてあげられたはずなのに……。




 

不穏……。

ですが、ちゃんとデートは幸せ回です!


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

もし物語を楽しんでいただけましたら、

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