表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来の旦那様(猫)から指令が来ました!?〜やらかし夫の溺愛プロジェクト〜  作者: しぃ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/23

第20話 青年レイナルトと、クララの夜

異世界モノの酒場のおっちゃんが好きです。


 舞台の熱が冷めやらない観客が、劇場の扉から階段を下りていく。

 幕が下りた後も、その迫力に感情が引きずられる、いい劇でした。

 皆、それぞれに感想を言い合っている。

 喜劇を観た後の、この雰囲気が好きです。


 もちろん私も、隣で腕を組むレイナルト様に感想を語りたくて、うずうずしています。

 ですが、今の私はヴィセルク伯爵夫人。

 人目のある場所では、はしゃぐわけにはいきません。


 スンッとした顔で、胸を張っていなければ。

 顔が崩れては台無しなのに……!


 レイナルト様が、私の顔を軽くつねる。


「くくっ!頬がぴくぴくしているよ、クララ」

「うぅ。意地悪ですね」

「静かな場所へ行こうか。……妻が素直になれる場所を用意している」







 ホテルに戻ると、メリーにドレスを脱がされ、質素なエプロンドレスに着替えさせられた。

 いわゆる、“お忍び”ですね。

 レイナルト様も、眼鏡とカツラで変装して、質素な服を着ています。

 ですが……。

 正装を脱いで、品格が薄れたからでしょうか。

 本人も気を抜いて、リラックスしているからでしょうか。

 妙に気怠げで、目のやり場に困ります。


 旦那様の色気が溢れている……!


 私たちは、王立公園の噴水前に座っています。

 レイナルト様が用意してくれたのは、『お忍びデート』だったみたいです。

 これならば、私も自由に振る舞えます。


 ですが!

 私の第一声はこれでした。


「色気が凄いですーー!!」

「そんなにあの俳優が気に入ったのか?……確かに最近は一番人気らしいからな……。俺との違いはなんだ……?」

「……俳優ですか?違っ、誤解ですよ……!」


 真剣に考えている様子ですが、自分の顔は見慣れてしまうのでしょうか。


「……レイナルト様の方が格好いい、で……す?えっ、どうしました!?」


 突然胸を押さえて屈み込むレイナルト様。

 黒髪のカツラで表情が見えません。

 慌てて肩に触れると、彼の首筋が服のすき間から覗いていました。

 真っ赤になっています。


「……!」


 それを見た瞬間、私の体温も上がった気がしました。

 なぜ!?

 私の何気ない一言に、なぜ彼は……!

 しばらくの間、動けなくなる私たちに、足元から声がかかった。


『……我ながら締まらない奴だな。観劇の後は、感想を楽しむものだろう。クララ、楽しかったか?』

「……ニャン旦那様」


 そうでした。

 彼は入場できないので、ホテルで待機していたのです。

 きっと一緒に観たかったはずです。


「凄く素敵でしたよ。やはり、声援に押しだされて走り出す青年のシーンは素晴らしいです。最初は自信なさげなんですよね」


 最初は、ゆっくりとしか走りません。

 ですが段々と、力強く走り出すのです。


「……ですが。私はずっとヒロインが理解できなかったんです。だって、彼が嘘をついたのは“彼女のため”だったんですよ。ヒロインが、最初に誤解しなければ、青年は――」


 あんなに苦労することもなかった。

 ちゃんと最初から、彼自身を見ていればよかったのに。


「だが、決断をしたのは男のほうだ。ヒロインの為に動いた男はずっと不幸そうだったか?」

「いいえ!私も……私だって、きっと青年と同じように猫を被ります。だって恋に落ちたんですよ。好きになってもらいたいじゃないですか」


 その直後、足元で潰れたような猫の声が聞こえました。

 レイナルト様が、目の前で足を組み替えています……。

 ニャン旦那様は、そろそろと離れて行きました。


 大丈夫なのか声をかけるべきなのに。

 ですが……。

 レイナルト様から目が離せません。

 それに、彼の指先が私に向かって伸びてくるような――。


「お酒!お酒を飲みましょう!」

「……今の流れで酒!?」


 素っ頓狂な声を上げる背中を押して、近くの酒場に向かいます。


「お忍びですし!?あの、賑やかな空気は気になっていたんです!私一人では無理ですが……。今は旦那様が居るでしょう?」


 盛大に溜め息をついたレイナルト様は、その直後に目元を緩めた。

 そして私を見つめ、悪戯っぽく笑いながら言った。


「そういえば伝えていなかった。今日のドレス姿も綺麗だった。だが、今の素朴な服も可愛くて似合っている」

「……そういう所が、狡いんですよ。もう!」


 私たちは笑いながら、目の前に見える、賑やかな声と音が漏れ聞こえるお店に向かっていった。





「……クララ、そろそろ」


 レイナルト様が私の肩を揺らします。

 何杯飲んだでしょうか。

 初めて飲んだエールは、正直そこまで美味しいものではありませんでした。

 ですが、この空気があの舞台を思い出させます。


 ――これが冒険心?

 初めての経験に胸が落ち着きません。


 レイナルト様を見ていると、なぜか繊細な旋律を口づさみたくなりました。

 劇中歌のヒロインの曲です。

 どうしてでしょうか。

 理由はわかりません。


 でも、レイナルト様に伝えたいことがありました。

 ふと気づけば、夜中に一人で考え込んでいるレイナルト様。

 いつまで待っても、心の内を明かしてくれません。


 初めてヒロインの気持ちが理解できた気がします。

 私は、相手を信じて待つことの難しさを知ってしまいました。

 そしてあの劇を観ていた時に、なぜかレイナルト様には追いかけて欲しくなったのです。


 酒精のせいで、頭がふわふわしています。

 そう、これはきっとお酒のせい。

 そして、この開放感のせいでもあります。

 だから、大胆にもこんな場所で歌ってしまったに決まっています。


「貴方が黄色い花を贈り続けた理由が知りたい」


 レイナルト様へ、そっと手を伸ばす。

 ヒロインが歌い始める一節です。

 すると、ほろ酔いの男性陣が拍手してくれました。


「お!お嬢ちゃん、今日の公演を観ていたな」


 隣の席の男性が声を上げると、違う席からも歓声が湧きました。

 いつの間にか、手拍子や靴音が鳴っています。

 私はうろ覚えの歌詞で、ヒロインの曲を歌いました。


 何を期待しているのかしら。

 貴方のなにを信じたらいいの?

 あの黄色い花の意味を教えて。

 そう。

 私が待ってる理由は、ただそれだけ。

 それだけのはずよ。


 ――ダンッ!


 一人の男性が、足を強く踏み込みだした。

 それに続き、踵を鳴らす音が続いていきます。

 これはヒーローへの応援の歌ですね。


「いいねぇ!さあ、駆けるんだ!」

「ははは!うちの母ちゃんなら尻を蹴飛ばすな!」

「靴底をすり減らせ!追い風は臆病者を待たない!」


 最後は大合唱でした。


「「すれ違ったなら、世界の果てまで!

 歌え、街よ!

 あの背中を押し出すほど、高らかに!」」


 周りのヤジを受けながら、レイナルト様が私の手を取りました。

 苦笑が漏れています。

 初めての経験に、感情の昂りが抑えられません。

 レイナルト様が、私の手を引いてカウンターに数枚の金貨を置きました。


「俺の背中を押してくれた、ここの役者たちへのお礼だ。今日はこれで存分に飲むといい」


 今日一番の大歓声が湧きました。

 さすが、私の旦那様。

 スマートすぎですね。


 おじさん達の“兄ちゃん愛してるぜ”コールを背中で受けながら、私たちは店を後にしたのでした。


 ◇◇◇


「クララ……。君は何故、その男をそんなにも想っているんだ」


 酒場の片隅でポツリと呟かれた言葉は、周りの喧騒に掻き消されていった。

 男は黙って、残っていたエールを一気に呷った。


 短い銀髪が鈍く光る。

 しかし、誰にも気づかれずに、彼は黙ってその場を立ち去っていった。



 

レイナルトは青年になり、走り出しました。

野太い声で「愛してるぜーー!」と背中を押されています。いいですねぇ。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

もし物語を楽しんでいただけましたら、

★やブックマークで応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ