表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来の旦那様(猫)から指令が来ました!?〜やらかし夫の溺愛プロジェクト〜  作者: しぃ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/23

第18話 二年前の恋の始まり

ついに、レイナルトが恋愛ヒーローに……?


 二年前。



 優雅なワルツが夜風に乗って微かに届く。

 頬を撫でる冷たい風が心地よかった。

 庭園に点在する明かりが、普段よりも幻想的に見えた。

 王宮の庭園。

 逢引にも使われるその場所で、ダンッ!と足を踏み鳴らす音がした。


 ――なんだ?


 レイナルトは好奇心に駆られて近づいていった。

 相手に気づかれないように、草陰からそっと覗き込む。


 噴水に月が美しく映っているが、降り注ぐ水と風で水面が波打ち、ゆらゆらと形を変えていた。

 そんな美しい光景の中で響き渡る力強い声。


 レイナルトは思わず見入った。


 噴水の縁に片足を掛け、足を踏み鳴らす少女。

 可憐な歌声とは裏腹に、その歌詞は力強かった。


 それがやけに耳に残る。

 そして、小さな拳が夜空に高々と掲げられる。


「さあ、駆けるんだ!靴底をすり減らせ!追い風は臆病者を待たない!」


 二年前の祝賀会。

 その迫力に魅了されたレイナルトは、ただ静かに彼女を見つめ続けていた。



 ◇◇◇



「きゃあ!二年前の舞台?あれの再公演ですか!?」

「ああ。王立劇場でやるらしい」


 レイナルト様の手には、二枚のチケットが握られている。

 そこにある文字は。


『風にのる歌声、あるいは恋の追跡』


 私の大好きな演目です!

 庶民にも大人気になりました。

 ヒロインの勘違いから始まる、恋の喜劇の定番です。


「旦那様!ありがとうございます……っ!」

「いや。最近、勉強や公務漬けだっただろう。たまには気分転換しないとな。王都なら近い。それに社交シーズンに向けてドレスも用意しておかないとな」


 レイナルト様は一瞬だけ、胸元にそっと触れた。

 最近よく見る仕草だった。

 ハンカチ?懐中時計?


「……クララ。おいで」


 レイナルト様が、私に向かって腕を広げる。

 すると、部屋にいた側近三人が、示し合わせたようにそっと扉へ動いた。


「真っ昼間なんで!一時間で戻ってきますよ!」


 扉をくぐる瞬間、ラルフがレイナルト様に指を突きつけた。

 メリーは親指を立ててウィンクをしている。

 明らかに変な誤解をしている気がします……。


「馬鹿か。そんな事態になったら時間が足らないだろう」

「……だからですよ。色ボケ伯爵様」


 ラルフだけが、色々と文句を言って去っていったけれど。

 皆がもう慣れている。

 それが一番恥ずかしい。

 二人きりになるのを待って、私はレイナルト様の胸板にダイブして頭突きする。


「……ぐっ!」


 レイナルト様のうめき声?

 それよりも、私の羞恥心の悲鳴のほうが大きいです!


「旦那様!さすがに体面を守ってください……!恥ずかしすぎます」


 胸元に頬を寄せると、やはり硬いものがある。

 手紙かしら?


「最近、いつも持ち歩いているようですね。……大切なものですか?」


 トントンと、服の上から突いてみる。

 びくり、とレイナルト様の身体が跳ねた。


「あ……これは……」

「……言いにくい事情なら、聞きませんけど」


 彼の気まずそうな態度に、つい拗ねた口調になってしまいました。

 うぅ~。

 子どもっぽいですね。

 レイナルト様は、観念したように溜め息をついて、懐から一通の封筒を取り出した。


「クララからの手紙だ。……未来からの」

「え?失くしたら困るからって机に入れてませんでした?」


 何度も引き出しから取り出しているのを見ました。


『白紙の方だけ持っているみたいだぞ』

「なるほど。結局、そっちは文字が浮き出なかったんですよね」


 ニャン旦那様が毛繕いしながら答えてくれた。

 もう、どこから見ても完璧な猫ですね。


「……ああ」


 ――旦那様宛の手紙は二枚。


 一枚目には“最後に会いたかったです”の文字が浮かんだ。

 これは未だに変化しない。

 そして、二枚目は白紙のまま。


 まだ未来が変わっていないからだ、と予想している。

 両親への手紙は、遺書から近況報告になった。

 この違いは何故なのか。


 うーん。考えてもわかりません。


「で、このチケットは受け取ってもらえるのか?正直、俺はあまり劇場に行ったことがないんだ」


 レイナルト様が、眉を下げて聞いてくる。


「え!もちろん連れて行ってほしいです」

「よかった」


 私の言葉に、口元を綻ばした。

 なんで?

 さっきは子どもっぽい態度で困らせたのに、この人はどうしてそんな瞳で私を見るのでしょうか。


「そういえば、なぜこの演目を選んだんですか?主役二人が貴族じゃないので、上流層にはあまり人気がないんですよねぇ」

「でも、君は好きなんだろう?」


 なんで知っているのか。

 疑問が顔に出ていたのだろう。

 レイナルト様は、悪戯っぽく目を細めた。


「実は二年前、君が歌っている姿を見た」

「え!?歌ってました?」


 外では気をつけていたのに……!

 誰かに見られて、しかもレイナルト様に聞かれていたなんて。


「拳を振り上げて、足を踏み鳴らし歌っていた。後で調べたらこの演目の劇中歌だった」

「………忘れてください〜~」


 恥ずかしすぎて、か細い声で泣き言を言う私の上から、優しい声がかかった。


「俺が応援された気がした。君なら……完璧な伯爵じゃない俺も、応援してくれる。そう思った」


 レイナルト様の声に、少しだけ複雑な何かが混じる。

 二年前なら、家督を継いだばかりの頃だろうか。

 きっと私が想像できないほど大変だったに違いない。

 そして、今の話には聞き覚えがあった。


 祝賀会。

 歌う女性。

 それを聞いていたレイナルト様。


「……まさか。以前、ニャン旦那様が言っていたお話って」

「ああ。君が『追えーー!』と拳を振り上げて歌う姿に一目惚れしたんだ……」

「……うわぁぁぁ!色々と台無しですーー!!」


 あのシーンは、情けなく立ち往生しているヒーローの背中を、街中の人たちが押して送り出す場面だった。


 足踏みでテンポを刻み、煽るような歌詞が飛び出す。

 最後は、街中を巻き込んだ大合唱。


 少なくとも、令嬢が男性に一目惚れされるような場面ではないと思います。


 ――やはり、レイナルト様は『面白い女』が好きだった。

 そう確信した私でした。

やっぱり、「おもしれぇ女」が好きだと判明しました。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

もし物語を楽しんでいただけましたら、

★やブックマークで応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ