第01話 未来の旦那様が猫に?〜結婚三日前〜
プロローグの真相回です。
猫は人の心を盗みますね。犬は正義です。
コメントを書きながら、某怪盗三世を思い浮かべてしまいました。
――結婚式の三日前――
私はいつもの通りに、寝る準備をしていた。
自分の髪を軽く結えている途中、ふと違和感を覚えた。
「あら?」
カリカリと窓から物音がする。
え、何?
なんの音??
私は驚きのあまり、びくりと肩を跳ねさせてしまった。
前に読んだ、恐怖系の本がそうさせたのだ。
(やめてぇ。いやいや、あれは作り話だから。確かめてみたら、ただの枝とか、きっとそんな感じなはず)
そっと窓に近づき、壁に張り付いて覗き込んだ。
これでも大真面目です。
だって、不用心に近づいて白い顔でも浮かんでいたら……。
考えたくもありません。
しかし、な〜んだ、勘違いか――そう安心できないと眠れない。
ジレンマです。
えいっと勇気を振り絞って顔を出してみたら、窓枠にしがみついている猫ちゃんと目が合いました。
ほっと息をついて、窓から離れようとすると。
『待て待て!この状態を見てくれ!窓枠に掴まっているだけだ!落ちるから、このままだと落ちちゃうから!』
あら!?
そういえば、バルコニーがない窓でした。
私は慌てて窓を開けて、その猫を抱きしめた。
その数秒後。
我慢できず、つい話しかけてしまった。
だって、不思議すぎる。
今さっき私が聞いたのは、明らかに人の声でした。
しかも男性の悲鳴?だったのです。
「……猫ちゃん、今喋ったの?」
気のせいなのか。
それとも……。
ついに、猫ちゃんと話せる能力を身につけてしまったのか。
『ああ。喋れる。そして、私はレイナルト・ヴィセルク。君の未来の旦那だ』
「レイナルト様は私の婚約者ですよ。それが、こんなに小さな猫ちゃんだなんて、まさかそんな」
猫の冗談に笑う日が来るとは思わなかった。
しかし、金茶の可愛らしい猫だ。
声からしてオスだろうか?
両手で持ち上げて確認しようとすると、スルリと逃げられた。
『お前!お前ーー!もっと慎み深かったはずだろう!どこを見ようとしている……!』
毛を逆立てて怒られてしまった。
動物の性別は、一番最初に確認する人も多いと思うのに。
「猫ちゃんに言われたくないですよ。下半身丸出しはそっちじゃないですか」
『猫になっているんだから仕方がないだろう。はあ……疲れる。クララ、とにかく聞いてくれ』
まるで人間のように、がくりと両前足と頭を下げた、彼らしき猫に驚く。
今、私の名前を言いました?
「……はっ!やっぱり喋ってる……。会話になっています!」
『今さら感!……ああ。ようやく会話になりそうだ』
いや……でも。
さっき、この猫ちゃんは名乗っていたじゃないか。
私の婚約者の名前――“レイナルト”と。
「本当にレイナルト・ヴィセルク様?……え?今日も人間でしたよね」
『もちろん人間だ。しかし今の俺は、二年後の未来から来た“レイナルト”だ』
猫ちゃんは少しだけ遠い目をして言った。
哀愁が漂っている気がする。
かわいい。
でも、本当かしら。
「でも、レイナルト様……うーん、レイニャルト様?なぜ未来から猫になってこちらへ?というか本当にご本人??」
理由がわからなくて混乱する。
いやいや、だって猫。
結婚式は三日後だ。
レイナルト様は、もともと猫だった?
まさかそんな童話のような話が本当にあるのかしら。
ふう……。
一度落ち着きましょう。まずは本人確認です。
『うん。そう聞かれると思ってな。証拠は、俺自身の話をしようと思う』
「本人しか知らない秘密は、私も知りませんよ?」
かと言って、彼との特別な思い出もない。
婚約してから半年。
たまに自宅でお会いするだけだった。
私が知っているレイナルト様といえば……。
向こうは24歳、私は18歳。
えーと、二年前から伯爵家の家督を継いだ。
このくらいの情報しかありません。
『レイナルトは一見、女が得意そうな顔をしているだろう。だがよく見てみろ。実は女性が苦手だ。俺は、つま先が浮かぶ。勢いに押されすぎて逃げたくなる時の癖だ』
「……なるほど」
結婚式の日に確認してみよう。
でも、他にも色々聞いてみたくなった。
レイナルト様は取っつきにくい方だけど、レイニャルト様は話していて楽しい。
「他には?」
『君の釣り書きが執務室の机の奥にしまってある。正直、一目惚れだった……』
彼はふいっと顔を背けた。
あら。照れているのでしょうか。
「まぁ……。そうだったんですか?初めてお会いしたときは、そんな風にはとても……」
彼と対面した時を思い出すけれど、両親とばかり話していた気がするもの。
『……馬鹿だからな。そして、同じ場所に小箱が二つある。一つは、初恋の家庭教師へのプレゼントだ』
いきなり確かめようもない情報が来た。
しかも初恋ですか。
まさかこれは、未来から私をお断りに来たということかしら。
「……実は私は今、振られています?」
慎重に質問する私に、レイニャルト様は慌てて首を振った。
『いや、当時10歳だったから!しかも人妻だった!クララを振るつもりなんてないっ』
その言葉を聞いて、ほっと息をついた。
やっぱり結婚相手ですし、女性関係は気になります。
結婚直前や初夜で“君を愛することはない”なんて定番はなさそうで良かった。
「あらまぁ。てっきり、結婚初日から冷遇されるかと心配してしまいました」
「……ぐ。もう一つの新しい箱は君用だ。奴は渡せないだろうから、勝手に持っていくといい」
レイニャルト様は苛立ったように尻尾でパシパシと床を叩く。
彼が私に用意してくれたプレゼント?
それを聞いて、ちょっと心が浮き立った。
「でも、レイナルト様の机を漁るのはちょっと……。というか、喋る猫ちゃん、というだけで信じたくなりますし」
『いや、猫でも疑えよ!?他の喋る猫が悪者だったらどうする!』
それは聞き捨てならないです。
なんて世界は広すぎるのでしょう。
まだまだ、喋る猫がいるだなんて……!
「え!他にもいるんですか!?」
『……いや、居るわけないだろう』
じゃあ、何のための説教だったのでしょう。
少し理不尽な気がします。
『……本当に?こんな感じでいいのか?日記の隠し場所を教えようか?頼む、適当だと困るんだ』
信じると言った途端に、彼は慌てて情報を付け加えてきた。
なぜでしょう。
私って適当そう?
私は、レイニャルト様の目をじっと見つめ、真剣に答えた。
「ええ。もちろんです。こんなに真剣な猫ちゃんを疑う人間はいません。日記はプライバシー問題ですから……教えちゃ駄目ですよ」
気になるけれど、とは黙っておきます。
『いや、色々とありがたいが。もうちょっと警戒心を持ったほうがいい。君はやはり心配だ』
見つめ合った視線を、そっと逸された。
そして心配までされてしまった。
猫ちゃんに。
私はショックです、レイニャルト様。
そんなに信用がないなんて悲しすぎます。
『あ、いや……。猫の本能だ!そんなに悲しそうな顔をしないでくれ。何故か無性に目を逸らしたくなるんだ』
「あ、なるほど。それなら良かったです」
猫ちゃんの本能なら仕方がない。
これからはよく覚えておきましょう。
『君がすんなり信じてくれて助かった』
「レイニャルト様!私も頼ってもらえて嬉しいです」
『……レイニャルト?」
彼は可愛らしく小首をかしげ、数秒間黙り込んだ。
うーん。
気に入らなかったかしら。
「まあ、何でもいい。これから君に頼みたいことがある』
尻尾がパシパシ動く姿がとても可愛らしいけれど、声は真剣だった。
一体なにを言うつもりなのか。
こちらも少し緊張してしまう。
「なんでしょう?」
レイニャルト様は、間を置いてから重々しく頷いた。
『重要な任務だ。君にしか出来ない』
ごくり。
私の喉がなった。
『初夜では、レイナルトをボコボコにして欲しい』
「……はい?」
こうして、私はレイニャルト様、改めニャン旦那様のお願い通りに、初夜で旦那様に一撃を入れたのでした。
結構好き勝手に書いてしまいました。
ただ、クララの丁寧語は難しいですね。
こんなドタバタしたお話ですが、皆様に愛される子に育つと嬉しいです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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