第14話 嫌味なメイド VS クララ専属メイド
頼れる味方がやってきました。
……たぶん、トラブルも増えます(笑)
「――さて。今回のこの失態、ヴィセルク伯爵家全体の信用に関わる問題だ。そう思うだろう?」
それなりの広さがある玄関ホールに、男性の静かな声が落ちた。
カツン、カツン。
レイナルト様の靴音がやけに耳に響く。
そこまで大きな声ではないのに……。
誰もが息を殺している。
怒鳴ってもいないのに、なぜここまで底冷えするのでしょうか。
「連絡系統の不備を見直す。しばらくは、私か執事長へすべての報告を回すように」
レイナルト様の後ろで、執事長が頭を下げる。
「承りました」
それに倣うように、使用人一同が一斉に頭を下げた。
それを数秒間見つめた後。
レイナルト様がゆっくりとした口調で告げた。
いや、それは実質の警告だった。
「今回は、確認を怠った私の落ち度だ。しかし、今後は命令違反として処罰を下す。そのつもりで職務に当たるように。……解散だ」
解散。
そう言われても、頭を上げる使用人はいなかった。
レイナルト様は、私の手を取ってその場を後にする。
しかし、背中を向けた瞬間にいくつもの視線が背中に刺さった。
ちらりと振り返る。
何人かが私に視線を向けていた。
特に、以前絡んできた上級メイドのノーラ。
彼女が物凄い目で睨みつけているのがわかった。
――見極められている。
“私”が伯爵夫人として相応しいかどうか。
これは仕方がない。
彼らは、生活が掛かっている。
愚かな女主人の元で働きたい人はいないでしょう。
いくら伯爵の寵愛を見せつけても、尊敬して従うかどうかは別物です。
そしてそれは、ニャン旦那様もレイナルト様も知らない舞台でしょう。
彼は生まれながらに、伯爵になるべく育ったのだから。
グッと拳を握り、前を見据える。
一人では無理だったかもしれない。
でも、今はレイナルト様もニャン旦那様も、メリーもいる。
この辺りで私の立ち位置を示すべきですね。
もちろん、執事長の協力は欠かせません。
まずは夫人たちとの交流からでしょう。
女性の戦場で戦ってみせます。
てすが!
ご夫人たちが興味あるのは私ではありません。
ずばりレイナルト様です。
これを期に、情報収集しなければ!
「お嬢様……!いえ、奥さま!お久しぶりです。あぁ、見知らぬ場所で苦労なさったのか、溌剌さが三割も減ってしまって……」
そして、二人きりになった途端、メリーがぎゅうぎゅう抱きついてきた。
お胸がふわふわです。
うーん、やっぱりレイナルト様のあの弾力は筋肉でしょうか。
レイナルト様がメリーに用意してくれたのは、私の隣の部屋でした。
なんて気が利くのでしょう。
彼の旦那様度が急上昇しています。
「ふふふ!クララでいいわ。それにしても、いつも通り大袈裟ね。数日間離れていただけじゃない」
自分の溌剌さはわからないけれど、確かに色々あった。
不思議な手紙を発見したり。
レイナルト様が思った以上に心配性だったり……。
思えば大変な日々でした。
あ、そうだ。
メリーに相談したいことがありました。
「メリー。新婚夫婦の会話ってどんな感じかしら?」
「まさか、会話もないんですか……?旦那様は、やはり奥さまを冷遇妻に……」
ぷるぷるとメリーの手が震えている。
やはり、実家への対応のまずさが、不信感を与えています……!
これは初夜の事は絶対に隠さなければ。
「違うの!旦那様は“溺愛夫”宣言をしてくれたわ!」
「溺愛夫なら、今さら会話の心配をする必要あります?」
鋭い。
メリーは、相変わらず痛い所を突いてきます。
「そういう覚悟表明をしてくれたのよ。ええ。だから、私も……そうなりたいと思って……」
あら?これは……。
思っていた以上に、恥ずかしいです。
今まで、レイナルト様の覚悟を舐めていました。
「なるほど。私も未婚なので詳しくないですが……。子爵夫妻を参考にすればよいのでは?」
「まあ。お母様とお父様を?大丈夫かしら」
お母様とお父様は恋愛結婚ではなかったらしい。
それでも、とても仲良くやっています。
ですが、ニャン旦那様のお話では、私たちはずっと白い結婚……。
やはり、一番気になることを聞いてみましょう!
「ねえ、メリー。初夜から二年間も閨を共にしていない夫婦ってどうなのかしら。でも、旦那様は妻を大切にしていたみたいなのよ。これってどういう意味?」
メリーは目を丸くする。
話が突拍子もなくて驚いたのか、それとも私の剣幕に驚いたのか。
「それは……。ご友人の話ですか?」
「まあ……似たようなものね」
未来の私の話だもの。
もしかしたら、深刻な問題があるのかもしれない。
政略結婚でも、両親のように仲のいい夫婦もいるのに。
二人とも生き残ったとしても、レイナルト様の本当の妻になれなかったら悲しい。
「愛人問題。身体の問題。特殊な性癖の問題。……色々あるとメイド仲間が言っておりましたね。もう諦めるか、直接聞くほうがいいかと」
愛人問題……は聞いていない。
身体の問題はナイーブすぎる……。
性癖??特殊な性癖??
それなら私でも頑張ればいけるかも……?
「クララ様……の話ではありませんよね?まだ新婚ですもんね」
うーん。
なんと言っていいものか。
怪しまれている気もするけれど、ナイーブな問題だったら旦那様が責められるのは可哀想です。
やはり、二年後の旦那様――ニャン旦那様に聞いたほうがいいかもしれない。
猫なら緊張しないで聞けるもの。
「メリー、支度が終わったら旦那様の所へ行きましょう。執事長とラルフには私から直接紹介するわ」
「あれ……クララ様。まさか誤魔化しました?」
う……。
やっぱり鋭い……!誤魔化せるでしょうか。
「まさかぁ。初夜なんて大勢の人にキスマークを目撃されたんだから!(旦那様が)」
「きゃーーーー!!ラブラブ!?」
メリーの黄色い声を背中に浴びながら、レイナルト様に会うためにドアを開けた。
廊下に出ると、メイド長とノーラが立っていた。
目が合うと、ノーラが声をかけてくる。
「奥さまは、伯爵家の使用人を馬鹿にしているんですか?……たかが子爵家のメイド一人如きで大騒ぎしてみっともない。こんなのが女主人だなんて……」
「なっ……!」
後ろでメリーが声を上げる。
まずい。
メリーに、初日からトラブルを起こさせたくない。
「ノーラ、止めなさい。……今はそんな話をする場ではありません」
そこに制止の声がかかった。
メイド長がノーラを窘め、スッと頭を下げる。
ノーラは注意された瞬間に、悔しそうな表情を浮かべたが、メイド長に倣ってお辞儀をした。
「奥さまの専属メイドに挨拶に来ました。私がメイド長のカミラです。使用人代表として歓迎するわ、メリー」
メイド長の言葉に、メリーも一礼した。
ですが、メリーの警戒心が高まったようです。
メリーは怒ると、いつもより動きが速くなるのです。
「……よろしくお願いします。そちらの方も、よろしく。でも、伯爵家のメイド一人如きで大騒ぎしない奥さまに、感謝したほうがいいですよ」
メリー、やり返してるー……!
完全に根に持ってるわ。
一応この場は収まったけれど、まだまだトラブルが続きそうで、私は思わず息をついた。
「じゃあ、旦那様に呼ばれているから。メリー、行きましょう」
メリー参戦です。
クララを守る気は満々ですが、初日から喧嘩を売られました(笑)
そして次回。
クララがレイナルトに直接聞いちゃいます。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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