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未来の旦那様(猫)から指令が来ました!?〜やらかし夫の溺愛プロジェクト〜  作者: しぃ太郎


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第11話 遺書が消えた日

この手紙が、これからの三人(うち一匹)に影響を与えていきます。


リアクション、ブックマーク、評価が本当に励みになっています。 一つひとつの反応に力をいただいています。


 ✦―――――――――✦


 お父様、お母様へ。


 最近体調が悪く、ほとんどベッドで過ごしています。

 そう遠くないうちに、旅立つような気がしています。

 ここは寒くて寂しいので、なぜかそれすらも待ち望んでしまいます。

 先立つ不幸をお許しください。

 今までありがとうございました。



 クララより。


 ✦―――――――――✦






 シ……ン。

 その場の音が、すべて消えてしまったような気がした。

 手紙を持つレイナルト様の手が、小さく震えている。


 正直、ショックでした。

 現実が足音を立てて忍び寄って、肩を叩いてきたような感覚です。

 ですが、俯いたニャン旦那様のおヒゲが、しょんぼりと下がっているのも。

 レイナルト様が、今にも泣き出しそうな目で私を見てくるのも。

 どちらも、とてもつらい。

 それに、実際に奇跡は起こったのです。

 レイナルト様が猫ちゃんになって、未来から助けに来てくれた。

 それなら、希望を持ちたくなるじゃないですか。

 知れば知るほど、放っておけない困った旦那様。

 私は、彼と一緒にいる未来を描きたい。

 もっともっと長い時間、レイナルト様と仲良く生きていきたい。


「……寒くて、寂しい!?お前、なぜクララを一人にした!こんな……こんな……手紙を書かせるなんて最低だろう……。俺は、こんなにもクズ野郎なのか」

『ああ。クズで情けなくて、妻さえも孤独に死なせる最低な男だ』


 流れるように自分を罵倒する。

 レイナルト様は、震える手で丁寧に手紙を折りたたみ、胸元へしまった。

 そして、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。


「馬鹿で無能すぎる……。クララにも、ご両親にも顔向けできない」

『相当恨まれた。愚かすぎる自分を憎んだ』


 うわああああ!

 言い方!そして暗すぎる!

 自己反省会(?)の内容がどん底です。

 もう、聞いていられません!


「あ、あの……!とりあえず部屋に戻りましょう?」

「……クララ」

「お腹も空きました。一緒に昼食を食べる約束だったじゃないですか」


 まだ目が合うと、気まずそうに逸らす二人。

 ここは仕方がない。

 女は勇気。

 それに、正直に言うと、今の私を見て欲しい。

 甘やかして欲しいのです。

 なぜか本当に寒い……。

 そんな気がしてしまう。


「溺愛夫になってくれるんですよね?自分だけ落ち込むよりも、私のことも慰めてください」


 座り込んだ彼に近づく。

 そして目の前にある、レイナルト様の頭をそっと抱きしめた。

 じんわりと彼の体温が伝わってきます。


「今の私は、寒くも寂しくもありません」

「クララ。……俺が抱きしめてもいいのか」


 優しく、レイナルト様の腕が回された。

 私のドレスに、温かいものが染み込んでいく。

 私は、それに気づかないふりをして、微かに震える肩を撫でてあげました。


「お馬鹿ですね。溺愛夫は妻を他の男性に任せないと思いますよ?」

「……はは。その通りだな。……クララ、本当にお腹がなってるぞ」

「なっ!」


 事実でも、指摘されると恥ずかしいのに!

 でも、レイナルト様の強張った身体から力が抜けている。

 それに。

 私も少しだけ落ち着けました。

 大きな身体に包まれると、どきどきするのと同時に、守られているような安心感があります。


 ――この人が、私の旦那様……。

 ようやく、心の底から実感できた気がしました。


 ふと視線を感じて、顔を上げると。

 ニャン旦那様が、少しだけ目を眇めてこちらを見ていました。


 後で猫ちゃんの方も思いきり抱きしめてあげよう。

 ニャン旦那様はもっと甘えベタなようですから。


 ◇◇◇


 目の前に並べられた料理の数々。

 朝から何も食べていないので、全部美味しそうに見えます。


『おい、クララと自分の皿を入れ替えろ。気づかれないようにな』

「……なぜだ」

『……クララに嫌がらせする輩もいるかもしれない』


 唐突にニャン旦那様がレイナルト様に指示を出しました。

 無意味なことは言い出さないと思いますが……。

 ノーラというメイドの事もありましたし。

 ちょっと過保護になっているのかもしれません。


「なるほどな」


 レイナルト様は納得したように頷き、ちらりと手に持った食器に視線を落とした。


「せっかくだし……ごほん。いや、食器ごと変えたほうがいいだろう」

『……おい。見え見えだ』

「はい?食器もですか?」


 私は、目の前の食器を見た。

 別に変哲もないですが……。

 こちらに細工される可能性もあるのでしょうか。


『クララ、気にするな。……我ながら見るに堪えない』

「猫!」


 配膳をしていた侍従――ラルフと、旦那様の後ろに控えていた執事長が同時に首を振った。

 親子だと聞きましたが、タイミングがまったく一緒です。


「おい!お前たち、その残念なものを見るような視線をやめろ、地味に痛い!」

「「……畏まりました」」

「だから、やめろって!」


 彼らのやり取りを見る限り、相当信頼しているのでしょう。

 その証拠に、ニャン旦那様がメイドを下げるように言った時も、レイナルト様は即座に動きました。


 そして部屋に残したのは、ラルフと執事長だけです。


「旦那様が猫と話していても、我々は素知らぬ顔ができます。プロですから」 


 執事長が静かに頷く。

 すると、ラルフがその言葉の後を引き継いだ。


「レイナルト様が奥さまの食器を使いたい、と言いだす変態でも平気です。プロですから」


 ラルフが重々しく頷く。

 わざとらしいですが、二人の関係性がよくわかります。


「違う!それに妻だからいいだろう!」

「ええ。勿論でございます」


 こういう所を見ると、『伯爵様』じゃなくて普通の男性なんだと実感します。





 美味しい食事を堪能して、三人で夫婦の部屋へ。

 新婚なので、お昼からずっと一緒にいても怪しまれません。

 詳しくは知りませんが、ずっと出てこない夫婦もいるらしいです。

 本当でしょうか。


「よし、もう一枚も見てみよう」

『……そうだな。未来の手紙と同じとも限らないしな』


 部屋に戻ると、レイナルト様はもう一通の手紙を開いた。

 私も覗き込む。


 ✦――――――――――✦

 

 レイナルト様へ。





 クララより。


 ✦――――――――――✦



「レイナルト様宛の手紙は、白紙なんですね。それに、ただの白紙を二枚も遺した、と?」

『ああ……。最初からそうだった』


 未来の私は、どんな言葉を残そうと思ったのでしょう。

 何も伝えることがないなら、手紙すら用意しません。

 書きたくても、書けなかったのでしょうか。

 ニャン旦那様は“恨みごと”だと思っているみたいですが。


 それなら、こんな丁寧な文字で書きません。

 なぜ……。


 ジッと見つめていると、ぼんやりとシミのような物が浮かんできました。

 目が霞んだのかと思い、一度擦ります。


 ――違う。これは!

 私は興奮して叫んだ。


「見てください!文字が浮かび上がってきています!」

『……本当だ。変化する手紙なのか?』


 ニャン旦那様が首を傾げます。


「……遺書!クララの遺書は!?」


 レイナルト様は、慌ててもう一枚の手紙を取り上げました。

 先ほどの両親宛の手紙ですね。

 やはり、遺書の方が気になるみたいです。


「もう一枚の方は!?」


 ✦―――――――――✦


 お父様、お母様へ。


 最近は、レイナルト様と一緒にお食事をとるようになりました。

 気さくで優しい方です。



 クララより。


 ✦―――――――――✦



『……遺書じゃなくなっている』


 “寒い”も“寂しい”の文字も消えています。

 代わりに書かれていたのは、今日のような何気ない日常でした。


「……未来が、変わった?」


 もしかしたら、未来は変えられるのかもしれません。

 レイナルト様の緑の瞳が、光が差したように色付きました。


「……絶対に変えてやる」


 揺るぎない彼の声に、私とニャン旦那様も頷いたのでした。


 

目の前で証拠を見せられたレイナルト。

彼のヒーロー力が試されています。 ただし、あまりハードルを上げるとすぐに転ぶので要注意です(笑)

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