第10話 未来からのメッセージ
物語の重要なアイテムが登場します。
リアクション、ブックマーク、評価が本当に励みになっています。 一つひとつの反応に力をいただいています。
『……待て』
「いきなり、どうしたんですか!?」
先ほどまで形について話し合っていたその石の、すぐ真下。
ニャン旦那様は、その部分をポンポンと前脚で叩きました。
『土を掘り起こした跡が……いや、埋め戻したのか?ここだけ土が湿っている』
「……確かにそうですね」
息切れしそうです。
猫ちゃんの本気、その片鱗を感じました。
ニャン旦那様が言った通り、そこだけ周囲と色が違います。
そして、僅かに色を変えた土は、少しだけ盛り上がっているようです。
『掘るぞ!』
「ええ!?道具もないですよ!」
しかも、お庭を勝手に掘ると怒られそうです。
実家の庭師のおじいさんは、ちょっと厳しかったので、まずそこを心配してしまいます。
いや、伯爵様(猫)の許可があればいいんでしょうが。
『いや、君はいい。そろそろエドガーも帰っただろう。レイナルトにやらせる』
いやいやいや。
レイナルト様がいきなり庭を掘り返したら周囲が止めるんじゃないでしょうか。
いや、伯爵様(猫)と伯爵様(人間)の許可があれば大丈夫?
『レイナルト。お前、もっと腰を入れて掘れ!このままじゃ夜になるぞ!』
「煩い、猫!優雅に毛繕いして偉そうに!こっちは汗だくだ!」
あの後、ニャン旦那様はレイナルト様を呼びに行き、しばらくすると、庭師から道具を借りてきたレイナルト様が現れた。
彼は、呆れながらも協力してくれたのです。
今も腕まくりまでして、土を掘り返しているのですが。
しかし、なにせ貴族の男性。
土いじりなんて経験はないでしょう。
道具の使い方も、少し効率が悪く見えます。
それがもどかしいのでしょうか。
ニャン旦那様からは厳しい文句――いえ、指示が飛んできます。
段々と険悪な雰囲気が漂い始めました。
「あわわわわわ……喧嘩は止めてくださいぃ」
なんとか二人を落ち着かせようと、間に飛び込む私。
すると二人から同時に声が掛かりました。
『クララ、日焼けするぞ。木陰で休んでいるんだ』
「そうだぞ、クララ。倒れたらどうするんだ。そこで休憩していなさい」
「あれ、やっぱり仲良し??」
しかし、私が視界から居なくなると――。
『こら、サボるな軟弱者め!』
「猫ーー!猫の手も貸さないくせに偉そうなことばかり言うな!」
また、口喧嘩がすぐに再開されてしまう。
レイナルト様も理不尽なことを言いだす始末です。
一体どうすればいいのか。
「旦那様、あの肉球でどうやって手伝うというのですか。相手ができないことを責めるのは酷いです。ぷにっとして何も掴めないんですよ?」
「いや、クララ。……そういう意味じゃない」
ここは、ニャン旦那様をフォローしてあげなくては。
そう思い、猫ちゃんのいいところを並べていきます。
「可愛いというだけ!それでいい!それがニャン旦那様です!」
『……ギャフン』
ですが、レイナルト様も頑張ってくれています。
どちらも褒める。それがバランス。
そのようなことを聞いた気がします。
「格好いい……それだけでいい。それが旦那様です」
「……今のはわざとだよな!?精神攻撃だよな!?」
叱る時も、褒める時も両方平等に。
マニュアル通りにしたのに、なぜかレイナルト様が涙目になりました。
「……いえ。お互いに喧嘩しすぎなので、せめて共通点を、と思いまして」
「目を逸らしているじゃないか」
「……多少は」
「でも、クララから見た俺は格好いい、と?」
顔に土をつけ、ちょっとだけ嬉しそうに目元を緩めるレイナルト様。
それを視界に入れた瞬間。
ばっ、と勢いよく顔を背けました。
「違います!一般論です……っ」
――少しだけ嫌味だったでしょうか。
でも、なぜかレイナルト様の顔が見られませんでした。
それにしても、私も変になってしまったのでしょうか。
これもきっと、二人のペースに巻き込まれたからです。
ずっと目の前で口喧嘩をされる、私の身にもなれ!ってことです。
全部レイナルト様のせいです。
もう!
私も頭を冷やさなければ。
◇◇◇
「どうやら、これが埋まっていたみたいだな」
地中から出てきたものを、レイナルト様が私にも見えるように掲げてくれた。
これは……。
「箱、ですね」
「ああ。だが、これはまさか……」
レイナルト様がこびり付いた土を払うと、現れたのは――。
「文箱でしょうか?」
『……!』
そこまで古いものには見えません。
貴族がよく使う、木製の文箱。
しかも、質も良さそうです。
よく見れば、箱に描かれているあの模様は、ヴィセルク伯爵家の紋章じゃないでしょうか。
「まさか」
レイナルト様が、動揺した顔でその箱を裏返しました。
――『R.V.』
そう刻印してありました。
「……これは、俺のものだ。今朝も机にあったはずだ。なぜこんな所に埋められて……」
『……開けてくれ。俺の予想通りなら、その中に大切なものが入っている』
ニャン旦那様のその言葉に、レイナルト様はゆっくりと頷く。
僅かに震える彼の指先で、その箱が開かれていった。
「手紙が二通……か?」
レイナルト様が、中から小さな封筒を二つ取り出した。
装飾も何もなく、なんの変哲もないシンプルな紙の封筒。
ニャン旦那様が言う『大切なもの』とは一体何なのでしょう。
気になります。
ですが、レイナルト様宛なら勝手に見るわけにはいきませんね。
それまで黙り込んでいたニャン旦那様が、タンっとジャンプしてレイナルト様の肩に乗りました。
どうやら、一緒に中身を確認するようです。
どんな内容の手紙でしょうか。
封筒だけなら見ても大丈夫でしょうか?
思わず、レイナルト様に近づいて手元を見ようとすると。
鋭い声が私を止めた。
『駄目だ!』
ですが、一瞬目に入った文字。
「おい、猫……。どういうことだ。俺はこんな手紙をもらっていないぞ」
『……未来で受け取ることになる』
重々しい雰囲気でニャン旦那様が答えた。
その声は掠れて、今にも消え入りそうです。
なぜか、嫌な予感がする。
「クララからの手紙だ」
そう。
先ほど目に入った文字は、確かに私のものでした。
『俺は内容を知っている。できればクララには読ませたくない』
「ですが……!未来に関わることなんでしょう?」
ニャン旦那様はジッと私を見つめた。
いつも輝いている緑の目が、暗く濁っている。
まるで深い水の底に沈み込んでいるようです。
その瞳が、微かに揺れる。
彼は今、何を考えているのでしょうか。
知らないうちに、手のひらが汗ばんでいました。
「おい。クララが決めるべきだろう。少なくとも、俺達が隠すべきじゃない」
『お前は……!お前は知らないからそんなことが言える!』
その剣幕に、レイナルト様も黙り込んだ。
未来から来た旦那様。
貴方は何を隠しているの――?
「私は……知りたいです。二年後の貴方のことも、私のことも」
次回、未来からの手紙の内容が明らかになります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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