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大新月 4

 カリータは控え室で下城のためにふわふわしたドレスを脱いでいた。

 侍女の待遇はとても良いが、衣裳は自分で用意しなければならない。姫のセンスと合わないデザインは嫌われるので、レースやリボンでたっぷり飾られたドレスを着る。

 時々カリータはうんざりすることがあった。レースもリボンも好きだけれど、姫お求めのものは甘すぎて、いい年齢の自分には着こなしが難しい上、事情を知らない人からは幼い人間と軽くあしらわれ、見下されるのだ。

「カリータ、大丈夫?」

 扉からブリタが部屋をのぞきこんだ。カリータは休憩用のベッドに腰掛けたまま、なんとか微笑んだ。

「どうかしら……」

 自己嫌悪はあった。姫に中途半端な気持ちで侍女をやっていると見抜かれていたのだから。

 遠慮しながら、ブリタがカリータの近くへやってきた。

「……あんまり気にしないで。侍女を辞めさせられるの、あなたで初めてじゃないから。長く続かない人の方が多いくらい」

 あまり器用そうな言い方ではなかったが、ブリタが何とか元気づけようと言ってくれたのがわかる。

「ほら、クラーエスさまの別邸で、わたしたちが来るまでエドヴァルド殿下の召使が姫に付いてくれていたでしょ? 彼女、昔、姫の侍女だったんだけど、ちょっとあって。髪結がとても上手な人だったんだけど。あなたみたいに辞めさせられたのよ」

 カリータはかつて侍女だったという彼女とは直接話す機会はなかった。歩く時に片脚を引きずっていたが、手際のよい人だった印象がある。

「あの人も……」

 辞めさせられたのは、自分だけではない。そのことで自分のなにが変わるわけでもないけれど、なぜか少しだけ、ほっとしていた。

「わたし、侍女になったばかりの頃は、よい侍女であろうと思っていたわ」

 カリータはありもしないドレスのシワを伸ばし、ぼんやりと自分の手を見た。侍女らしく爪の先まで念入りに手入れされた手。

「姫にはお母様もいらっしゃらないし、慕っていた乳母も亡くなってしまわれて、ご病気も長かったそうだし、お寂しい、おかわいそうな方って思って……」

 侍女として初めて城に来た時、姫に信頼される侍女になるように、実の姉のような気持ちで勤めよと、推薦してくれた、どのくらい血がつながっているのかよくわからない遠い遠い遠縁の大叔母にいい含められた。

 そうであろうとしたつもりだった。

「でも、そんな気持ち、長続きしなかった」

 口をつぐむ。

 ブリタがつぶやいた。

「仕方ないわ」

 両親は娘が侍女とは大出世だと喜んで、田舎領主の下僕の仕事を辞め、家を売り払い、妹弟も一緒に家族で王都へやって来た。

 収入を失って、これから一家はどうなるのだろう。

「グニーたちは、わたしのこと、もっとうまく立ち回ればいいのにって思っているわね」

「あの人たちは……。よく、わたしたちは姫の親でもなければ友だちでもない、って言ってるわ。たとえ姫が無知な女王になろうと、間違っていることを間違っていると教えて、自分の人生を危険にさらすなんてしない、って。侍女になるなんて、それこそ人生の危機だけど」

 二人はちょっとだけ笑った。笑いはやがてホコリのように、ただの板張りの床に落ちていった。姫の部屋ならば豪華な絨毯が敷いてあるが、召使の控え室にそんな配慮はない。床からは冷たい空気がじんわりと登ってきていた。

「これからどうするの? なにかアテはあるの?」

 問われてカリータは唇をかんだ。

 姫の侍女をしていると、さまざまな人から関心を寄せられる。贈り物であからさまに取り入ってきたり、恋を仕掛けてきたり。それを(つま)んでみたこともあるけれど。

 伯爵家の後継(あとつぎ)が、侍女ではなくなった自分にまだ興味を持ってくれるかどうか。

 でも、他にアテなんてない。他になにも思いつかない。

「なんとかするしかないわ」

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