薔薇のお茶会 9
「こちらはいかが? 蕾がほころびはじめたところだから長く楽しめますわ」
マデリーネさまはふっくらと咲いた薔薇を選んで鋏を入れていたが、まだ蕾のものもいくつか加えていった。茎を切られた薔薇は、アルノルドにあずけられる。そしてバスケットの中に収められていった。ふいの風に飛ばされないよう、アルノルドが手をそえている。
クラーエスはマデリーネさまのことが好きなのかしら。姫はそのことを考えていた。
クラーエスみたいな朴念仁とマデリーネさまが釣り合うわけないのに。そもそもマデリーネさまには、もうちゃんとした旦那様がいらっしゃる。お似合いだとは思えないけれど。だからといって、クラーエスがマデリーネさまに恋をするなんて、無駄に決まっている。
「ええ、とても、綺麗ですわ……」
礼儀正しく答えたウルリーカ姫は、今度はエリノルに思いを向かわせた。
お綺麗なマデリーネさま。でも、こんな素敵なお姉様にも気付いてもらえないなんて、エリノルさまはおかわいそう。さっきのエリノルさまは、あの醜い神様の絵をご覧になる間、一人きりでいらした。わたしたちがそばにいることを忘れて、心を占めた何かに思いを馳せていらした。とても強くあの方をとらえている、何か。
それはあの方が一人だけ胸に抱えた哀しみの心だと、ウルリーカ姫は思うのだ。わたしにだけ見えたもの。他の人たちは気づかない。わたしたちは同じ悲しみを知っている。
目を閉じる。
まぶたによみがえったのは、晩餐会でのエリノルの姿だった。
病が癒え外へ出られるようになったことを祝って、わたしのための園遊会や晩餐会がいくつも開かれ、ご招待を父に懇願し、エリノルさまはたった一度だけ、出席してくださいました。でもエリノルさまがいらしてくださったのは内輪だけのごくささやかな会。もっと華やかで大勢の人々に囲まれてエリノルさまとダンスができたらと思っていたのに。こんな小さな夕食会だなんて。
それなのに、二人きりで言葉を交わす機会はなくて、気づいた時にはあの方を見失っていたのです。わたしは招待客があちらに二人、こちらに三人、会話を楽しんでいる中、必死にあの方を探しました。するとあの方は、ホールへ出た先の窓際に立って、外を見ていらっしゃったのです。
一人きりで。
哀しみ、でしょうか。
透明な愁いをのぼらせた瞳が、外の暗がりに投げられていました。
いったい何をご覧になっているのでしょう。
わたしは自分が主賓であることも忘れて、息をこらえるような気持ちでただじっとあの方を見つめてしまいました。
どうぞこのままあの方をそっとしておいて、誰もあの方に要らない声をかけないで、と祈りながら。
カーテンが少しあの方の姿を隠していて、あの方はご自分のことを見つめている誰かがいるなんて、思っていなかったことでしょう。
だからこそあの方の表情に秘めた哀しみが隠さずあふれ出ていたのです。
その様子を何も出来ずにただ見つめていると、あの方の哀しみがわたしに強く伝わってきて、その共鳴にわたしは胸が痛くなって、こらえられずに両手で自分の顔をおおいました。
そうしないと、もう立っていられない。
あの方の誰も知らない一面を、わたしは知りました。
わたしは彼に見つけてもらい、この時わたしも彼を見つけたのです。
わたしは、生まれて初めて、恋を知ったのです。




