ノベル2巻発売記念SS いつもの二人
ノベル2巻 第二部の結婚式後のお話。デュークの友人、テレンス視点。
明日、もう一話SS公開予定です。
「フェリシアが可愛すぎて頭がおかしくなりそうだ」
ぽつりとデュークが告げたセリフに、しーんと沈黙が落ちた。
デュークと同じクリストファー殿下の側近であるテレンスはそこで殿下と顔を見合わせ、一緒にいたユリシーズが「えっ」と驚いた声を上げた。
剣術の授業で流れた汗を拭いていた手を止め、ユリシーズはぐるりとデュークへと顔を向けた。
「惚気? デュークってそういうことはこういう形では言わないイメージがあったのだけど。新婚ってすごいね」
「確かに」
テレンスは飲んでいた水を拭き出しそうになったのを慌てて飲み込み、今もなお真剣な表情で一点を見つめているデュークを見た。
幼い頃から知っているが、これまではクリストファー殿下の同じ歳の側近として近しいだけで深い付き合いはなかった。
だが、ここ最近話すことも増え交流が盛んになり、少しずつだが内側を見せてくれ無自覚な熱い発言も増えたが、確かに珍しい。
「好きな人と一緒に過ごせてよかったねとしか言いようがないというか。だけど、頭がおかしくなりそうというのはちょっと重いというか」
言いにくそうに頬をかいたユリシーズの意見に、クリストファー殿下とともにテレンスは同意見だとうんうんと頷いた。
「昔から一直線だからな。わからないでもないが」
「決めたら全力がデュークですからね」
二人が相思相愛であることはわかっている。
フェリシアはデューク一筋で彼女の愛情は深く、一見一方通行気味に見えたそれは蓋を開けたらデュークも負けず劣らずのものだった。
むしろ今は全力でフェリシアに向かっているため少しばかり重そうで、彼女が心配になるほどだ。
意見が衝突することもあったようだが互いに思いやる気持ちにぶれはなく、その重さがあるからこそ大事なときに誰にも負けない強さを発揮しているとテレンスは感じていた。
「普段、感情をあまり外に出さないから余計にそう感じるんじゃないか?」
「ちょこちょこ彼女と一緒にいるときに出る発言がそう思わせるのかも」
「真面目な人って箍が外れるとブレーキ効きにくいって言いますもんね」
ユリシーズの最後の言葉になるほどと手を叩くと、テレンスたちの意見にデュークはゆっくりと頷いた。
「箍が外れているつもりはないだが、ブレーキが効きにくくなっていると言われればそうかもしれない」
「具体的には?」
自己分析しているデュークに問いかけると、んーとデュークは首を捻った。
「今一番頭を悩ませているのはフェリシアのネグリジェかな」
は?
「は?」
心の声がそのまま出た。
何を聞かされているのかと胡乱な眼差しを向けたが、デュークは肩にタオルをかけると膝に肘を置き前のめりになった。これは重大案件なのだと、顎の下で両指をぎゅっと絡める。
「可愛いのと綺麗なのと両方あって俺はどちらも好きなのだが、ひょんなことからその話になった際にどっちが好みか聞かれてどう答えるべきか本当に困っていて」
「どっちも好きならそう言っておけば?」
「それもそうなのだが優柔不断な男と思われるのも困るし、どちらか選んで片方がなくなるのも嫌だし、真剣に好みを聞いてくるフェリシアが可愛すぎて」
それで頭がおかしくなりそうだとのことのようだ。
「やっぱり惚気だな」
「仲が良いことで」
「幸せそうだね」
肩を竦め、テレンスたちは顔を見合わせた。
「俺はどうしたら……」
結局惚気でしかないが、切なくなるような声音にテレンスたちは一斉に顔をしかめた。
夫婦のプライベートなのだから勝手にしたらいいと思いつつ、普段自らそういったことを話さないだけに放っておくのも可哀想な気もする。
下着ではなくネグリジェというところが、なんとも二人らしいというかほのぼのしていて微笑ましくもあった。
そこでテレンスは仕方がないなと口を開いた。
「そのまま伝えたらと言いたいところだけど、ようはデュークの好みに寄せたくて可愛く悩んでいる彼女をもう少し見ていたいということだろ?」
そこでばっと顔を上げたデュークの表情は、よくわかったなと告げていた。
テレンスは再度肩を竦める。
「その通りだ」
「でも、可愛すぎて全部言ってしまいそうだから困っていると」
「ああ」
「なら、答えは簡単だ。我慢できる間は我慢。できなくなったらすべてを話す。悩むな」
改めて言葉にして、やっぱりしょうもないなと思いながらびしりと告げると、デュークは大きく頷いた。
「わかった」
本人はいたって真剣で、求めたアドバイスに対しては真摯に受け止める。だからなのか、ついつい話題に最後まで乗ってしまう。
それはテレンスだけではないようだ。
「いつもの二人だな」
「真面目な惚気って、面白いというか和みはするね」
クリストファー殿下とユリシーズがぶっと噴き出した。
くだらない。実にくだらないが、このくだらなさがいい。
ヨネバミア国の交流会やキプボワーナ国との今回の交流会でフェリシアは命を狙われ、今回は攫われ火事に巻き込まれ助けに行ったデュークとともに危うく命を落とすところだった。
愛する女性の度重なる危機に、デュークも男として考えることはあっただろう。
だからこそ小さなことにも全力で向き合い、他人から見れば些細なことでも彼らにとってはとても尊いものだったりするのかもしれない。
テレンスとしては彼らが無事であったこと、形は変わっても想い合っている姿を見られることは友として嬉しい。
おそらく同じ思いだろうクリストファー殿下も、呆れよりも優しさを含んだ眼差しでデュークを眺めていた。
彼らが心穏やかにこれからも仲良く過ごしてくれるといいなと、テレンスはぽんとデュークの肩を叩いた。




