コミックス1巻発売記念SS 髪留め
今話はコミカライズ1巻、第一部パーティー前のお話。短めです。
次話がノベル2巻、第二部に合わせたSSとなります。
「フェリシア、それは――」
奥歯に物が挟まったかのように、どこか言いにくそうにデュークが声をかけてきた。
絡んできたベリンダは去り、少しこのままゆっくり話をしようと向かい合って席につき、髪留めが少しずれ差し直していた時のことだった。
ぐっと押し込み手を外してデュークを見ると、視線は髪留めへと向かっている。
「これがどうかしましたか?」
今つけている髪留めは、私が初めて作った髪留めだ。
『死に役』だと知り、デュークとの虚しい関係を終わらせ、自分の人生なのだから好きにしようと決意した時に、ジャクリーンにアクセサリー作りを誘われた。
ジャクリーンの熱意に感化され憧れを持ち、もともと細かな作業が嫌いではなかったので、自分だけの物を作り上げることにはまっていった。
何より誘ってもらったことが嬉しくて、ジャクリーンたちと話せる時間、職人たちの活気あふれる場所は私の活力となった。
いろいろな意味で、この髪留めは私にとってとても大事な物だ。
「光に当たるととても綺麗だな」
「ええ。ありがとうございます。とても気に入っています」
褒められてにこっと笑みを浮かべると、デュークは眩しそうに目を細め、わずかにつっと眉を寄せた。
「デューク様?」
「……いや、何でもない」
声をかけてきた時から、どこか思わせぶりな気はした。
だが、もともと流暢に話す人ではないし、ここ最近はとても気遣われ一生懸命話題を探している様子も伝わってくる。
今更だと思う気持ちもあるけれど、ベリンダが絡んでくる現状と殺されるかもしれないことを考えると、そばにいようとしてくれるのは頼もしくもあった。
――この不器用さがちょっと落ち着くと言ったら失礼かな?
恋は盲目というけれど、記憶を思い出すまでの私は本当に何も見えていなかった。
私にとっては完璧な人で、それが物語の強制力なのかわからないけれどただひたすらにデュークのことが好きだった。
思うところは多々あるが、それでも好きだと感じたものは確実に私のもので、作られたものだとは思わなかった。
「そうですか。デューク様は以前にお渡ししたハンカチをずっと使ってくださっているのですね」
「ああ。もちろんだ」
先ほど見た、記憶を思い出す前に心を込めて刺繍したハンカチについて触れると、デュークは嬉しそうに頬を緩めた。
それを見て、つられるように笑みを浮かべる。
小さなことだけれど、これまでの私自身が完全に蔑ろにされていたわけではないと思えるものに、心が少し軽くなる。
デュークがこの時に何を気にしていたのか、何が言いたかったのかを知るのはもう少し後の話。




