区切り side***
ーーsideセラフィーナ
セラフィーナはフェリシアとの会話を終え、教室に戻った。
転生前に読んだ一冊の物語のヒーロー。どの本のヒーローが一番好きかと話題になると、デュークだと答えるくらい好ましい男性主人公。
――解放された、……そう、期待してもいいかもしれない。
フェリシアと仲睦まじい姿は、そう実感できるピースの一つ。
あの頃は周囲の環境に疲れていたのもあり、弁が立ち華麗に立ち回る人物より、実直不器用でまっすぐなデュークの活躍に心が軽やかになった。
だから、前回の回帰でベリンダがあの女であることを知った時は、眩暈と同時に言い知れぬ怒りが湧き上がったが、手を下すまでもなくベリンダは自滅した。
あの女の性格なら当然と言えば当然で、物語が展開されていくなか、デュークの深く沈んだ後悔を見て、彼の幸せも願ってはいた。
過保護気味でかなり重い感じに仕上がってはいるが、どちらも幸せそうなのでよかった。
「イレイン様、危ないですよ」
「ありがとう」
目の前では、躓きそうになったイレイン様をかばうようにザカリーが手を差し出し、しばらく二人は手を取り合い見つめ合う。
「あっ、すみません」
「いえ……」
わたわたと手を離し、二人は頬をうっすらと染めて照れくさそうに視線を下にやった。
先日、イレイン様はザカリーに告白した。セラフィーナたちが失踪している間、ずっと寄り添い声をかけ続けてくれたらしい。
ザカリー自身も身内が心配なのに、温かい言葉をかけてくれたザカリーに惚れ直し、イレイン王女は気持ちを押さえられなくなったようだ。
ザカリーもイレイン様に好意を抱いているが、国家間の様々なしがらみがあるためまずは大人たちの判断を仰ぐとのことだった。
だが、イレイン様を他国に渡したくない陛下たちは自国で領地と爵位を分け与えるつもりであるし、ザカリーが婿になることを承知するならば、身分や能力的には問題ないだろう。
セラフィーナとしても、イレイン様が幸せなら、そして国にいるのなら、セラフィーナ自身も他国の王子と婚約破棄し自由となった身なのでこれからも会える。
イレイン様の親友という位置で、これからも見守っていけるのが望みだ。
初々しい二人を促し帰宅の途につきやっと一人になったセラフィーナは、自分に割り当てられた部屋に戻るとそっと息をついた。
「長かった……。でも、やっとここまできたわ」
セラフィーナは窓辺に立ち、空を見上げた。
◇ ◇ ◇
セラフィーナに転生する前は、セナという名の女子高校生だった。
恋人や友人と周囲は常に人がおり賑やかで、順風満帆であったセナにも悩みがあった。悩み、とするには多大なストレスを感じるほど神経に支障をきたしていた。
互いに恋人ができたと一時期は祖父母と暮らしたこともあるほど、両親は自分本位な人たちだった。
世間の目と経済的な繋がりから離婚しなかっただけで、結局互いに恋人に振られ、また一緒に住むようになった。
セナは両親の緩衝材であり、セナが良い子である限り、自慢の娘として両親は繋がっていられるといったなんとも歪な関係。
それでも、大人に見捨てられたら生きていけないことは理解し、それらは受け入れた。
再度やり直すためと引っ越すことになったが、引っ越し先の高級マンションの隣人はとても変わっていた。
なぜこのような家族がと思ったが、親の遺産相続かなんかだそうで、だらんと伸びきった服でサンダルをひっかけて出ていく父親と、常に何かしら怒鳴るような声を上げる母親は、姿を見るたびに不快だった。
彼らは明らかに姉妹の扱いに差をつけ対応しており、ストレスを発散する先である姉を苛め抜いていた。
その上、その姉がセナと同じ歳でろくに風呂にも入れていないのかいつも匂う。明らかにその家族はそのマンションで浮いていた。
何かあるたびに謝り癖がついた同級生は、あの環境では仕方がないと思う反面、謝るわりにちっとも悪いと思っていない態度が鼻についた。
しかも、なぜかセナのことを親友だと勘違いし、付きまといだす始末。それとなく突き放しても気づかない。その鈍感さに腹が立つが、表立って悪く言えない。
その家族、同級生のリンとの出会いがセナの人生に影を落とした。




