ベリンダとの密会 side***
ーーsideセラフィーナ
ルノセクトへの留学の話が出た少し前。
セラフィーナはパーシヴァル殿下との婚約解消のため、キプボワーナに訪れていた。
書面のみでも可能であったが、セラフィーナ自身が一度は縁があったこととけじめとして会って最後としたいと申し出た。
これまで作り上げてきたイメージのおかげで、誰もセラフィーナの真の思惑に気づかない。むしろ、さらに優しい人だと株が上がった。
ベリンダは、転生前の私やデュークの婚約者を参考にしたような言動が多く、前回と今回の最初のほうはうまくやっていた。
――真似をしようとしても無駄なのに。
培ってきたものが違うのだから、次第にその張りぼては通用しなくなるのは当然だ。外面だけ真似ても、中身がなければいずれ破綻する。
案内され扉を開けると、ぼんやりと窓の外を眺めるベリンダの姿があった。
「ベリンダさん」
名を呼ぶと精気のない顔でゆっくりとこちらを振り返り、ベリンダはセラフィーナを見るとぱっと顔を輝かせた。
「セラフィーナ来てくれたの!? 嬉しいわ! ねえ、パーシヴァルたちはどうしているか知っている? 私、十分反省したのに誰も来てくれないの? あなたから話してくれない? ね、私とても困っているの。お願い」
なりふり構わず慌てて駆け寄り逃すまいと手を掴み詰め寄られ、セラフィーナは嘆息した。相変わらず、自分のことばかり。口先だけの反省の言葉に心底呆れる。
ぷるんとした唇に艶やかな髪。以前ほど贅沢はできていないようだが、コーディー・アドコックに大事にされていると知れる出で立ち。
ただ、焦りのせいか全く余裕は感じられず、掴まれる腕は痛い。セラフィーナは眉を寄せた。
――自分の立場がわからないバカな女。転生しても、回帰しても変わらないのね。
ベリンダの瞳には以前に感じたような自信は見えずほの暗く、自己愛のみの縋るような光がセラフィーナを捉えようとする。
その姿は滑稽に映る。転生してからは国が違ったため数えるほどしか会っていないが、いつも無駄に上から目線だった。
今は若干下手に出ようとしているが醜さは消えておらず、この姿勢もきっと少しでも望みが叶えられたらすぐに変貌する。
何もかもが自分のため。転生前の彼女は、自分は可哀想な子なのだから周囲が配慮して当たり前だと思っている節があった。
物語のヒロインとなったことで無駄に自信をつけ、崇められて当然との態度。
何が悪かったのか自分のことを鑑みない精神を見せつけられるたびに、吐き捨てたくなる。
セラフィーナはそれとなく手を離すように促し、緩んだ手から腕を引っ込めるとそっと視線を落とした。
これ以上その視線で見られるのが鬱陶しいからだが、悟られないよう困ったように眉尻を下げる。
「ごめんなさい。パーシヴァル殿下とは婚約解消になったの。だから、こちらの国のことはもうわからないし、何もできないわ」
「そんなっ!」
どうすればいいの? 誰が私を連れだしてくれるのとぶつぶつ話すベリンダに、セラフィーナは表情を和らげて宥めるように言い添える。
「今日はお別れを言いにきたの」
「お別れ……」
絶句したベリンダはしばらくセラフィーナを見ていたがつっと眉をひそめ、ようやく自分以外のことに思考が回ったようだった。
「もしかして私のせい?」
もしかしなくても婚約解消はあなたのせいだろうと思いながら、セラフィーナは言及せずに曖昧に笑みを浮かべた。
大変なことは誰かが可哀相な自分のためにしてくれると、悪い環境はその環境が悪いせいで自分は全く何も悪くない。そう信じ込んでいるから、彼女はものすごく質が悪い。
確かに置かれた環境は、どうしようもないことかもしれない。
だけど、努力しようとせず、自分がもたらした結果もすべて他人のせいにして、改善は人任せ。そんな人物に誰が手を差し伸べるというのか。
「私は悪くないの! セラフィーナなら信じてくれるわよね?」
同じ世界に転生し、さらに巻き戻っても変わらない相手に、とことん追い落としてやりたい気持ちになる。もとより、今日はそのつもりでやってきた。
勝手な同帰者はその存在がちらつくだけで目障りだ。自滅してもなお、その傲慢な性格のままだと思うとへし折りたくなる。
そもそも、私が死んだのは彼女が私を階段から突き落としたからだ。恨み、つらみ、今度こそこの悪縁を断ち切りたいと思う気持ちは、目の前にしてふつふつと沸き上がる。
セラフィーナは首を振り、内緒話をするようにベリンダの耳元に顔を近づけた。
「まだ気づかない?」
「え?」
「これはあなたの物語ではないわ。だって、この世界に未来はないもの」
ピンクローザを手に入れても、ベリンダでは願いを叶えることはできない。
たとえ、デュークと気持ちが通じ合っていたとしてもその先は何もない。ただ、繰り返されるだけの世界。
見開かれる目を見ながら、セラフィーナはにこっと笑みを浮かべた。




