22.行き違う想い 後編
説明しているのに、事細かにここまで言わなければいけないのか。
ずっと微妙な距離を取り続けているのはデュークのほうなのに、軽く軟禁状態にしないとまともに話せないのか。それほど私は信用ならないのだろうか。
――私は気持ちをちゃんと伝えているのに、伝わっていると思っているのに……。
まるで声をかけられて満更でもないのだろうとでもいうような問いかけに、なんだか悔しくて私はぐっと拳を握った。
「ユリシーズ様を異性として意識したことはありません。それを言うなら、これまで私を放っておいたことや、前回だってマッケラン嬢、あっ……、すみません」
私は慌てて謝罪し、口を閉じた。
――これだけは言ってはいけなかったのに……。
話すとしても今ではなかった。でも、口から出てしまった。
終わったことだと思っていたのに、出てしまったということは、自分でもわからないままずっと気にしていたのだろうか。
デュークを見ると、まるで胸を打たれたかのように悲痛な、今にも泣きそうな、どっぷりと暗闇に落ちてしまった人のように、この数瞬で変わり果てたように別人のように落ち込んだ。
「あの……」
「すまない。あれこれ言い過ぎた」
「いえ。私も言い過ぎました」
こんなふうに喧嘩をしたかったわけではなかった。傷つけたかったわけでもなかった。
お互い感情的になり普段なら表面に出ないこと、ぐっと我慢していたことがここにきて爆発したようだ。
「本当にすまない」
「私もごめんなさい」
ずうぅんと落ち込むデュークの姿に、ひどく傷つけてしまった事実に私はこれ以上ないくらい胸が苦しくなった。
そっと胸に手を当てると、どく、どくっ、と重く鈍く響く鼓動が責め立ててくるようで、耐え切れず膝の上に手を置いた。
デュークが私のためを思ってのこと、ベリンダのことがあったから余計に過敏になっているとわかっているはずなのに、自分の気持ちが伝わらないもどかしさから言わなくてもいいことを口にしてしまった。
好きな人とぎこちなくなるだけで、気持ちが淀んでいく。
大事にしたい関係を自分が壊してしまうような感覚に、どうしようもなく胸をかきむしりたくなった。
――何を、しているのだろう……。
自分がしていることが正しいのか。喧嘩をしてまですべきことなのか。
これでいいのか迷いが生じ、目の前が薄らぼんやりとし、立っている場所があやふやになる。
ひどく落ち込んでいると、同じくどっぷりと落ち込んだ声でデュークが話しかけてきた。
「決してフェリシアを信頼していないとかではなく、異性で俺にはないものを持っているユリシーズに嫉妬し、余計に詰め寄ってしまった。すまない。彼に関しては、俺の気持ちが未熟なだけだとはわかっているんだ」
「私も不安にさせてしまい申し訳ありません」
わかっていても処理しきれない感情に思い当たる節があるので、デュークの嫉妬やそれを御しきれず動いてしまったことを責める気にはなれない。
私も私でそのようなデュークの気持ちもわかるといいながら、焦りから自分の気持ちを優先してきた。
一つひとつは、きっとそれほど重要なことではない。
普段なら消化するタイミングがあり、大きくなる前に芽を摘めて、問題視するものでもなかったはずだ。
今回は積み重なり御しきれなくなってきたところを、私が突いてしまったのだ。そして、自分のものも爆発させてしまった。
私ははぁっと息をついた。反省の息であったけれど、それにデュークがびくっと反応する。
まるで叱られた子供のように怯えながらも視線を外されず、揺らいだものの上に液体となった感情が滴り体積を増していく。
――溢れてしまったら、私たちはどうなってしまうのだろう……。ちゃんと修復できるのだろうか……。
それが怖くて、これ以上傷つけるのも怖くて、一番大事なことを話せぬまま蓋をする。
それから互いに何度も謝罪し合った。
傷つけ合いたいわけではない。
だから、納得しきれないものを抱えたまま謝罪する。互いに迷いがあるのはわかりながらも触れられない。
言葉も、態度も、これまでと同じようでいてどこか切羽詰まる。
いくつもの風船が大きく膨れ、限界を超えたら弾けてしまいそうなほどあちこち危うく感じる。
「フェリシア。本当にすまない」
「いえ。デューク様だけが悪いわけではありません」
このままではいけないと、触れないものを見ないふりをして妥協案を探るためデュークの要望を訊ねる。
「デューク様はどうすれば安心されますか?」
「危ないことはしてほしくない。どうしても動くなら、俺を頼って。俺がいないところで、手の届かないところでフェリシアに何かあるかを考えるだけで、身がちぎれそうだ……」
「必ず、デューク様を頼ります」
以前も頼ってほしいと言ってくれていたのに、理由はあるとはいえ異性に頼ったことで触発してしまったことを反省する。
デュークからすれば、裏切りのように感じてしまったのかもしれない。
何をそんなに怖がっているのかはわからないけれど、死に役回避という目標の一つは同じため、展覧会にピンクローザがある限りは問題ない、はず。
――そうよね。私がここにいる時点で物語が変わった可能性だってあるのだから、無理に行動してデュークと揉めるよりはいいはず……。
私は胸の苦しさ、正解のない行動に確信が持てず、まずはデュークの異様なほどの私の身の安全に対する気持ちを落ち着かせることが大事だと自分に言い聞かせた。
その日からデュークはさらに私と行動をともにし、どこにいくにもべったりついてくるようになった。
窮屈さはあるけれど、一緒にいる限りユリシーズと話していても邪魔することはなく、むしろ協力的なのでまた言い争うよりはとそれでよしとした。
それから、表面上は穏やかなまま日々は過ぎていった。
だが、あくまで表面上であることを、私たちは肌で感じていた。
まだ触れられない距離が私たちの関係を物語っている。
デュークの視線が不意に逸らされることはなくなったけれど、申し訳なさそうに伏せられる回数が増え、関係は良好とは言い難いものだった。
ピンクローザに関する行動には敏感で、これまでのように積極的に行動はできなくなったが、ユリシーズから情報を得てそれについて照らし合わせることまではできた。もちろん、デュークと一緒に考えたのでそれに関しては揉めるようなことはない。
結果として、イレイン王女の宝飾店への来訪と窃盗事件が起きた時期は関係がないと判断した。
数店舗は窃盗事件が始まる前、来訪してすぐに訪れていたが、ほかは事件後に訪れており、これといって繋がりがあるようには思えないものだった。
事件後に訪れていた場所のほうが多く、そもそも有名店だけでなく小さな店もあちこち回り、事件が起きた店の周辺は全く違うエリアにおり、王女自身が狙われる可能性も低そうであった。
そのような王女の動きから、物語とは違ってきているのではと期待する。
このまま何も起こらなければそれでいいと思い直したところで、物語通りに展覧会に窃盗団が入り込み、ピンクローザ含む宝石が盗まれる事件が発生した。




