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【4/1書籍発売&コミカライズ連載中】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます  作者: 橋本彩里
第二部

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2.光と影 前編

第二部/第一章 忍び寄る影


 霧雨のように降っていた雨が止み、雲の隙間から全方向へと光が降りてくる。

 切なくなるような空模様からオレンジ色に輝く様は、まるで祝福のシャワーのようだ。最近鬱々としていた気分に光が差したようで、自然と足取りが軽くなる。


 先ほどまで店で雨宿りをしていたが、時計塔のある広場を横切るようにデュークと並んで歩く。

 そよそよと涼しい風に吹かれ金の髪を耳にかける際、展覧会の幕がぱたぱたと揺れているのが視界に入った。


 街を歩いていても、もうすぐ物語が始まることを意識する。


「滑るから気をつけて」

「はい」


 絡ませていた腕に少し力を入れ見上げると、デュークは穏やかな笑みを浮かべた。ちらっと視線を掴んでいる手に向け、わずかに口元を綻ばせる。

 私の行動が嬉しかったようで、些細なことでも喜びを見せるその姿に愛おしさが増す。


「このままフェリシアと二人きりになりたい」

「ふふっ。デューク様でもそのようなことをおっしゃるのですね」


 少し離れた場所には護衛がいるので、デートといえども完全に二人きりというのはない。

 必要なことだとわかっているはずのデュークのまさかの言葉に笑うと、デュークはいたって真剣な顔で告げる。


「俺でも? 好きな女性と一緒にいてそう思わない男はいない」

「そ、そうですか……」


 不意打ちをくらい、体温が上がったような気がした。


「フェリシアと過ごせる時間は何事にも代えがたい。もっとフェリシアのことを知りたい」

「もっと、ですか」


 むずむずして表情を取り繕っていると、デュークは足を止めた。すっ、と身を屈め私を覗き込むと、愛おしそうに私の頬を撫でた。


「俺はいつでも真剣だ。あんなことがあったし、少しでもフェリシアのそばにいたい」


 輪郭をなぞるように滑らせる指の動きを意識していると、こつんとおでこをくっつけたデュークに力強い双眸(そうぼう)で見据えられる。

 あんなこととは、ベリンダやコーディーが起こした事件のことだ。

 私も忘れられるものではなく、今も彼女たちのことを物語のこともあり気にしてはいるが、デュークは私以上に私を心配しているのが伝わってくる。


 私は小さく息をついた。

 死に役であると思い出した時は孤独感もありずっと不安で、ベリンダと結ばれるデュークを見るのがつらくて、デュークを諦めなければと揺れる心にとても苦しんだ。


 互いに気持ちが通じ合い、すれ違った経験から伝えることの大事さを知り、相談していこうと話し合った。

 だからこそ、私の今抱えている懸念を、ヨネバミア国の王女たちが来る前に話したほうがいいのではないかと、話すとしたらどこまで話すべきなのかと、不安になるたびに考えが(よぎ)る。


 そのたびに胸の奥が何かにふっと突かれたような、また別の不安がこみ上げてきて話すに至っていない。


 ――なんでこんな気持ちになるのかな……。


 前回のことがあるのだから、話してしまえばいい。

 そう思うのにどうしても一歩踏み出せず、自分でもよくわからないこの感情をどうにかしてほしくて、縋るようにデュークを見つめた。


「どうした?」


 私と目が合うと、デュークは濃紺の瞳を細めた。

 双眸と同じ濃紺の髪は少し伸び、そろそろ切ると言っていたがいつもより長めの襟足は色気がある。


 デュークの瞳に私が映るたびに、婚約者の男らしく成長した部分に気づくたびに、鼓動が小さく跳ねる。

 とくとくと速まる心音を意識しながら、変わらぬまっすぐな視線に小さく笑みを浮かべた。


 ――話してみるべき、よね。


 内容が内容なのですぐに切り出すことはできず、様子を見るべくそれとなく話題を振る。


「もうすぐヨネバミア国の人たちが来られますね。王女様とそのご友人の女性はザカリーと同じクラスなのですよね」

「緊張すると言っていたよ」


 入学してニか月が経ち学園に慣れてきた頃に、今度は他国の王族と一緒に過ごすことになった公爵家の長男であるデュークの弟、ザカリーにとって、肩に力が入ってしまう案件のようだ。

 ヨネバミア国の王女は私たちの二つ下で、ザカリーと同じ歳だ。

 近づきがたい空気を醸し出すデュークに対し、同じ濃紺の髪だが瞳は父親譲りの金茶のザカリーは柔らかな雰囲気で人当たりもよい。


「ザカリーならうまくやりますよ」

「俺もそう思う」


 デュークは口の端を引き、静かに頷いた。


「私たちのクラスには王女殿下の護衛騎士、三学年は男性ばかりなのですよね?」

「ああ。クリストファー殿下とジャクリーン嬢の婚約も発表されたばかりだし、この国であったことは相手も把握しているだろうから、余計なことにならないよう配慮したと見ていいはずだ」


 三学年になり、私と友人のジャクリーンはデュークとクリストファー殿下と同じクラスになった。

 受けている学科が違うが、ヨネバミア国との交流会が決まっていたこともあり、一緒のほうがいいだろうと体制を見直されたらしい。


 前年より教室移動が増えたけれど、私としてもデュークと同じ教室で授業が受けられるのは新鮮だ。これまでと違った学園生活は、楽しく友人と一緒なのも嬉しい。

 変わらず工房に通い、先日ジャクリーンたちと一緒に店をオープンしたばかりだ。することは多いけれど楽しくて、これまでになく充実している。


「そのようですね。今回は何も問題なく交流できるといいですけど」

「そうだな。もし、何かあってもフェリシアのことは必ず俺が守る」


 デュークは力強くそう断言した。

 頼もしい言葉通りに、デュークはこれまでの態度を改め、ベリンダとのことで危機感を抱き、より一層私に寄り添おうとしてくれている。

 たくさんの後悔とともに変わり、口だけではなく実行しようとするデュークのそばにいると、私も変わらなければ、まずは話してみることが大事なのではという気持ちが大きくなってくる。


 ――うん。やっぱり話してみよう……。


 何より、話さないことで以前のようにすれ違ってしまうことだけは避けたい。

 死に役の問題があるのなら、回避する確率を上げるために話すことは悪いことではない。

 私は意を決し、口を開いた。



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