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【4/1書籍発売&コミカライズ連載中】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます  作者: 橋本彩里
第二部

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3.光と影 後編


「ありがとうございます。あの……」

「ん? どうした?」

「もし、もしですが、私がまた狙われたらどうしますか?」


 客観的に見ると変で、自意識過剰な発言だと自分でも思いながらも、私はごくりと息を呑みデュークの反応を待った。

 デュークの目がゆっくり見開かれ、口元がひくっと動く。


「狙われるとは、……はぁ。もちろんそのような状況になったら何がなんでも守るが、そんなことを言わないでくれ。フェリシアがまたあんな危険に晒されるなんて考えたくもない」

「私は……」


 悲痛な表情で首を振るデュークの姿に、私は口を噤む。そんな私を見たデュークが、うかがうように覗き込んでくる。


「どうした? ヨネバミア国の王女殿下とベリンダ・マッケランが交流していたことが心配?」

「それも、あります」


 その視線は奥深いところまで見透かしそうなほどまっすぐで、私はじっと見つめ返し頷いた。

 今、ここで話すべきだろうかと揺れていたが、続くデュークの言葉に息を呑む。


「俺も気になっているし、フェリシアが不安ならその不安を取り除きたいと思っている。ただ、マッケランは物語やなんやらと妄想癖があったし、自分に都合のいいようにしか考えられず善悪の分別もついていなかった。あんなでたらめなことにフェリシアを奪われるなんてごめんだ。マッケランには二度とフェリシアに接触させないし、もし王女がよくない理由でマッケランと繋がっていたのなら、交流に支障が出ようがフェリシアを優先して守る」


 前回の事件の後、デュークに『もう二度と危険な目に遭わさないし離さない』と誓うように甘くささやかれたことは、嬉しかった気持ちとともに鮮明に覚えている。

 その時と変わらず今も私を案じてくれている安堵と喜びを覚えると同時に、ベリンダの人格に対して、私に向けられた殺意からくる嫌悪だとはわかっていても、今の私には前世を否定されたように感じてしまう。


 ――これでは転生だ、死に役だなんて言い出せない……。


 物語の話をするためには転生の話をしなければならず、前世の物語の記憶はベリンダと同じもので、そこから死に役であると告げることに抵抗を覚える。

 デュークなら信じてくれる、否定されないと思っているけれど、ベリンダが関わることでどのような反応をするのか見えない。


 考えすぎだとわかっていても、傷ついた心は嘘をつけない。

 ちょっと息苦しく感じ、案じるように見つめてくるデュークに誤魔化すように笑みを浮かべた。


「……そう、ですよね。交流会を前に緊張して余計なことを考えてしまったようです。それよりももうすぐ剣術の試験がありますよね? 鍛錬でとてもお忙しい時期だと思うのですが大丈夫でしょうか?」

「フェリシアとの時間が最優先だ。鍛錬は帰ってからいくらでもできる」


 空けられない用事以外は送迎含めなるべく一緒にいようと動いてくれ、これまでとは考えられないほど一緒にいる時間は増えている。


「無理はなさらないでください」

「フェリシアと少しでも過ごせるほうが、俺にとっての最善だ。一緒にいさせてほしい」


 目を細め笑う姿と私を見る熱っぽい視線に、デュークが決して無理をしているわけではないのはわかる。

 だけど、ここ最近ずっとそういったことが続いており、これまであれほど打ち込んできたことを後回しにさせている現状が心苦しくもあった。


「私も一緒に過ごせるのは嬉しいです。ですが、もう少しやりやすいように動いてくださっていいのですよ?」

「問題ない」


 すかさず返され、私は眉尻を下げた。

 これまでその濃紺の瞳に自分の姿が映っているだけで幸せだった私にとって、急激な変化は嬉しくも戸惑いを覚え、まだどうすればいいのか図りかねていた。


 デュークが打ち込むこと、それらの邪魔をしないよう心掛け応援してきたからこそ、自分がその妨げになるのはつらい。

 私もデューク一色だった世界から交友関係が広がり趣味やしたいことが増えたため、これまでのようにデュークばかりに時間を割くわけでもなくなったこともあり、忙しいなかで合わせてもらっている後ろめたさもある。


 そんなデュークに物語の話をすれば、全力で私を守ろうと動いてくれようとするだろう。

 それが果たしていいことなのかどうか。


 この状態で相談しても、行動を縛り合うだけのような気がした。

 視野が広がり、育みつつある関係がそれによって悪化してしまうことだってあるかもしれない。


 死に役から逃れたい、その確証が持てるまで安心はできない。

 そのためには物語のイベントが起こるこの交流会の時期にどう動き何を知るかが大事で、ただ守ってもらうだけでは解決しない。


 デュークにがちがちに守られることによって危機はなくなったとしても、それで死に役が回避できたとわかることができるのだろうか。

 わからないままだと一生囚われたままになる。そんなのは絶対に嫌だ。

 その辺の気持ちを含め、今のデュークに物語のこともうまく伝えられるかどうかを考えると、自信が持てない。


 ――何かあれば話し合いはできるもの。今すぐにすべてを話す必要はない……、よね。


 先ほどの発言に加え、頼ったとしても違った形で不安は付きまとうような気がして、話すのを諦める。

 足元が暗くなり、やがてその場所全体が太陽の光から外れた。

 空から下りてきた光に弾んだ心は、今は当たらない影のほうに目がいき、私は気づかれないようにそっと息をついた。



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