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うばっつ!〜ある中年ウーバー配達員の物語〜  作者: カトーSOS


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26/28

腎臓をやるっつ!


 決心した、

 というほどのことでもなかった。


 透析の話を、

 何度か聞いたあとだ。


 週に何回。

 何時間。

 一生続く。


 元奥さんは、

 それを全部、

 冗談みたいに受け取っていた。


 

 「通院、

  仕事みたいなもんね」


 

 笑っていたけど、

 それが強がりなのは、

 さすがにわかる。


 

 俺は、

 ふと思っただけだ。


 

 ――ああ、

  俺、

  腎臓ふたつあるな。


 

 それだけだ。


 

 若い頃なら、

 もっと大騒ぎしたかもしれない。


 

 意味とか。

 覚悟とか。

 人生とか。


 

 でも今は、

 ただの計算だ。


 

 一つ減っても、

 生きられる。


 

 向こうは、

 一つないと、

 生きられない。


 

 それだけ。


 

 医師に言った。


 

 「提供、

  できますかね」


 

 医師は、

 一瞬だけ俺を見て、

 事務的に説明を始めた。


 

 適合検査。

 リスク。

 回復期間。


 

 全部、

 聞いた。


 

 聞いたうえで、

 「はい」と言った。


 

 元奥さんには、

 すぐには言わなかった。


 

 どうせ、

 怒る。


 

 「勝手に決めるな」

 

 きっと、

 そう言う。


 

 でも、

 その通りだ。


 

 勝手に決めた。


 

 ある日、

 病室で、

 何気なく言った。


 

 「俺さ、

  腎臓、やるから」


 

 元奥さんは、

 一瞬、

 意味がわからない顔をした。


 

 次に、

 笑った。


 

 「なにそれ」

 

 「冗談でしょ」


 

 「冗談じゃない」


 

 笑いは、

 そこで止まった。


 

 しばらく、

 無言だった。


 

 「……離婚したのに」


 

 「したな」


 

 「他人なのに」


 

 「そうだな」


 

 それでも、

 やめる理由には、

 ならなかった。


 

 元奥さんは、

 天井を見て、

 小さく言った。


 

 「……バカ」


 

 俺は、

 それを

 褒め言葉として受け取った。


 

 手術の話は、

 まだ先だ。


 

 今は、

 検査が続いている。


 

 Uberは、

 少しだけ減らした。


 

 無理をすると、

 怒られる。


 

 娘には、

 まだ言っていない。


 

 言うタイミングは、

 そのうち来る。


 

 腎臓を一つ、

 手放すだけだ。


 

 人生は、

 たぶん、

 そんなに変わらない。


 

 ただ、

 一つだけ確かなのは――


 

 これもまた、

 俺が

 自分で選んだ、

 ということだ。




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