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坂道の雨 -2-


 翌日の日曜日。


 僕は早めに起きて、朝食をトーストで軽く済ませるとすぐに家を出た。両親は僕がバタバタとしていても起きる様子はない。昨晩も仲良く酒を飲んでいたみたいだし、すっかり酔い潰れているらしかった。


 玄関から外に出ると、太陽の眩しさに目を細めた。今朝は陽が強い。


 自転車に乗り、住宅地の合間を抜けて、線路沿いの細道を走る。

 今日はやらなきゃいけないことが多い。


 昨日はいろいろと考えたけれど、やはり自分で事件について調べたい気持ちが強まった。いま向かっているのは、近所のひたちなか市立佐野図書館だ。


 図書館は家からほど近くの場所にあるので、到着に時間は掛からない。道中には古い民家に加えて、竹やぶや墓地などが目に入る。


 この辺りは点々と小さな畑が耕されていて田舎らしい雰囲気をしている。あんな小さな畑で収入になるのか疑問だけど、もしかしたら老人が趣味でやっているだけの畑なのかもしれない。


 自転車を図書館の駐輪場に停める。


 佐野図書館は田舎の図書館にしては洒落た構造の建物だ。外から見るとご飯茶碗をひっくり返したような円形構造をしていて、中も天井が高い。書架は綺麗に列を成していて整頓されている。建物の端は全面が窓になっているので天気が悪くても光が行き届いている。


 まあ、これは周囲に竹やぶ以外に背の高い建物がないおかげでもある。僕は滅多に図書館には行かないけれど、佐野図書館の清潔感の良さはけっこう気に入っていた。


「さて……」


 図書館に来た目的は、美月佐奈の事故について調べるためだ。


 白河先輩の話に嘘があったとは思わない。小野寺は自殺願望を持っていた美月佐奈の事故を見て精神的に追い詰められ、人が変わったように内向的な人間へと変わった。それは白河先輩から見た一つの事実なのだろう。


 だけど、僕には美月佐奈が本当に自殺だったのかが引っ掛かった。自殺にもやり方があると思う。駅のホームから電車に飛び込むことであったり、屋上からの飛び降りなど方法は他にもある。なのに、なぜわざわざ自動車にぶつかりに行ったのか?


 自動車との衝突は、それは即死することも多いだろうけれど、電車や飛び降りに比べると確実性に欠けるように思う。実際、美月佐奈は自殺に失敗し、いまも意識不明の重体になっている。中途半端な自殺なんて、自殺者にとっても望むべくもない事態のはずだ。僕は美月佐奈は何らかの原因によって、あくまで事故で車に轢かれたのだと思っている。ただ、そうなると小野寺の変化の理由がわからなくなるわけで。


 その辺りの矛盾を解決する情報が欲しい。


 図書館に入ると、涼しい風が迎えてくれた。

 さすがに早い時間帯にやってきている人は少ない。受付カウンターに行くと、すぐに受け付けの人が応対してくれた。


「どうしましたか?」

「昔の新聞を探しています。一昨年の九月七日に、この辺であった交通事故について書かれた新聞なんですけど……」

「わかりました。探してみるので、そちらのお席で待っていてください」

「お願いします」


 軽く礼をして、席に座る。

 事故の日時は白河先輩にラインで教えてもらった。日時だけでなく、場所もだ。白河先輩はそれらを訊いた理由を追求しなかったけれど、僕が事件について調べようとしているのは察しただろう。


 しばらく待っていると、司書の人が新聞を持ってやってきた。


「お持ちしました。どうぞ御覧ください」

「ありがとうございます」


 新聞を受け取り、窓際の円形テーブルに移動する。静かな図書館の中で新聞を広げる音は妙に響く。ページを捲りながら、事故について書かれた記事を探す。


 美月佐奈の事故は、地方紙の片隅に小さく書かれていた。



[七日午後五時十分ごろ、茨城県北ひたちなかの市道で、中学生の美月佐奈さん(十五)が乗用車にはねられた。茨城県警の調べによれば、美月さんは乗用車とガードレールに挟まれるように衝突したとのこと。乗用車はそのまま逃走し、茨城県警はひき逃げ事件として捜査している。]



 記事の内容は大体予想通りだ。時間帯から考えるに、美月佐奈は学校帰りに事故に遭ったのだろう。事故があったのは九月のことだから日は長い。歩行者・運転者共に視界は悪くなかったはずだ。気になるのはガードレールに挟まれたという記述だけど、これは現場を見てみないとなんとも言えない。


 僕は携帯を出した。ラインで石上にメッセージを送る。


『人手が要る。いまから佐野図書館まで来てくれないか? 大至急! ラーメン奢るから!』


 返事はすぐに来た。


『ちょっと待ってろ』



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