生暖かい部屋 -3-
白河先輩は以前、小野寺には秘密があると言っていた。それは小野寺が中学三年生のときに起きた何かのことだったのだろうか。
佐藤さんの口ぶりだと、中学時代の小野寺は今の内向的な性格とは真逆のリーダーシップのある人間だったらしい。僕から見て小野寺にそういった印象は抱いたことはなかったけれど、中学時代に性格が変わるような事件が小野寺の身に起きたのだとしたら、一体何があったのか気になってしまう。
ただ、詳しい話は本人にはとてもじゃないが訊けないし、本当なら知らないフリをしておくのが無難だ。
でも、どうにも僕にはそれが難しい。
じっとしていると小野寺の中学時代のことが気になって、あらゆる作業が手に付かない。例えば黒板に書かれた文字の板書の手が止まり、気づけばあっという間に放課後になっていた程度には。
白河先輩からの返事はまだだが、最悪の場合、改めて佐藤さんを問い詰める必要がありそうだ。そう考えつつ図書室に行くと、当の小野寺はエアコンの前で仁王立ちしていた。
「小野寺さん?」
「あ、篠崎くん」
僕が声を掛けると、小野寺はこちらを振り返って難しそうな顔を見せる。
「どうしたの?」
「ちょっとこの部屋、もわっとしない?」
「もわっと?」
手を軽く振って気温を確かめてみる。
「……ちょっとするかも」
言われてみると外に比べてかなり暑い。床に敷かれているカーペットはじわりと熱気を放射し、乾燥した空気のせいか喉が締め付けられる。なにもせず立っているだけでも汗を掻きそうだ。
僕はエアコンを指して言う。
「暖房でも効かせてたの?」
「ううん、私が来たときには止まってたよ」
小野寺はかぶりを振る。
「じゃあ誰かがエアコンを動かしてたのかな」
「たぶん。でも昼休みから放課後までの間は図書室の鍵が閉まってるはずだよね?」
「そうだね。今日は青山が病欠だったから代わりに昼休みの当番をやってたんだけど、戸締りはちゃんと済ませて出たよ」
「ああ、青山くん休みだったんだ」
「熱出して寝込んでるってさ。あと、昼休みの当番で佐藤さんと一緒になったんだけど、小野寺さんって彼女と同じ中学だったんだね」
「そうだよ。中学の頃はちょっと話したりもしたかな」
「ふうん……」
小野寺はそれ以上は佐藤さんについて掘り下げる気がないようで、再びエアコンに視線を戻した。
「戸締りがされてたのに、誰がエアコンを動かしたんだろう?」
小野寺はリモコンで肩をトントン叩きながら、うーんと唸った。
「誰がエアコンを動かしてたか、考えてみない?」
「……」
いまはそういう気分じゃないんだけどなぁ。
「篠崎くんは気にならない?」
「……」
小野寺は期待の込もった声で言う。
「篠崎くん。この謎も解いてみせてよ」
「……構わないよ」
頷いたものの、エアコンのことよりも小野寺の中学時代について気になっていたところだったので、なんだか後ろ髪が引かれるような気分だ。しかし、こうなった小野寺は一度考え出すと止まらないだろう。話すようになってからまだ日は浅いけれど、そのことはこれまででよくわかった。まずはエアコンについて解いてからだ。僕は小野寺の隣に立って、エアコンを見上げた。
エアコンは見たところ、比較的新品の機能性の高そうな機種だった。
図書室全体の空調を担っているだけあって、サイズはけっこう大型。天井にピッタリと張り付いている。家庭によくあるエアコンはカマボコのような形をしているけど、図書室のものはパソコンの筐体のような形だ。カセットコンロ型と言えばいいだろうか。
エアコンのすぐ傍には自習や読書のためのテーブルと椅子が並んでいる。テーブルは安っぽい折りたたみ式ではなく、市立図書館にあるようなドッシリとしていて幅の広い代物だ。テーブルの表面は固いプラスチック製で、加工されているのかツルツルとした触り心地をしている。一方で椅子のほうは座る部分と背もたれがメッシュ生地の量産品といった感じ。
エアコンから離れた側には本棚が並んでいる。並びはエアコン、読書スペース、本棚コーナーという具合だ。
「リモコン見せてもらってもいいかな?」
「はい」
小野寺からリモコンを貰い、設定を確認する。
『温度32℃・湿度40%・強風』
エアコン自体は止まっているので、これはエアコンが止められる前のものだろう。
それにしても酷い温度設定だ。
「32℃は高すぎるね」
「うん。エアコンでそんなに高温に設定できるって知らなかった」
「これ以上上がるのかな」
エアコンの温度ボタンを押してみる。しかし設定は32℃が上限なのか変化しない。
思わず呆れた声が漏れる。
「節電でうるさい世の中に、この設定は電気代が掛かりそうだ」
「ふふ、変なところ考えるのね」
「でも悪戯として考えるとけっこう悪質だよ?」
「可愛いものじゃない」
小野寺は肩を竦めて、テーブルに指を滑らせながら歩いていく。
「ところでいまの気温はどうなってるかな?」
僕が訊くと、小野寺は図書室のカウンターに置いてある電子時計に目をみやった。
「気温28℃の湿度52%だよ」
「ありがとう」
現在の気温が28℃ということは、やはりエアコンが止められてからさほど時間は経っていない。今日は朝から雨が降っていたせいもあって、外の気温は20℃を越えていないはずだ。
「小野寺さん、図書室に来たときに司書の先生と入れ違いになったりはしなかった?」
「してないよ」
図書室には司書の先生がいて、毎月発行される図書室便りの作成や僕ら図書委員の指導を行っている。昼休みは図書室によくいるらしいけれど今日はいなかったし、基本的に職員室で仕事をしているらしいが僕はあまり会ったことがない。当番決めなど委員会の決めごとには必ずやって来るから、そのときに見かけるくらいだろうか。
「もしかしたらだけど、図書室の湿気対策とかで先生がエアコンを付けたんじゃないかと思ったんだけど……」
僕はカーテンを開けて、今朝からのどんよりとした空模様を確認する。
「湿気対策……あんまり湿度が高いと本がカビるらしいよね」
「うん。実際にカビが発生したら、けっこうな大仕事になるんだ」
これは軽音楽部の部室掃除を手伝ったときに石上から聞いた話だけど、カビが発生した部屋からカビを取り除こうと思ったら、薬品で燻して徹底的にカビを殺菌することも視野に入るらしい。さすがに部室掃除でそこまでやるのは無理なので実行には移さなかったけど、図書室は学校の重要施設でもあるし、そういった事態になるのを避けるためにエアコンの設定を変えたというのはあり得るんじゃないかと考えたわけだ。
しかし、小野寺は訝しげに言う。
「でも、32℃に設定してカビ対策になるかというと微妙だよ?」
「そう?」
「人にとって暑いと感じるくらいの気温のほうがカビは繁殖しやすいから、寒いほうがカビ対策には良いはず。カビをやっつけるなら低温低湿にするのが正解」
「へぇ……じゃあカビ対策ってのは違うか」
となると、司書の先生が他の何らかの目的のために、エアコンを起動させたとか?
「うーん……」
少し考えてみたが、カビ問題以外で司書の先生がエアコンを動かす理由は思いつかない。一度、推理を改めて考え直したほうがよさそうだ。
図書室のエアコンが付けっぱなしになっていた理由はなんだろう。
これを説明するには、まずは図書室に出入り出来る人間を絞り込む必要がありそうだ。
「図書室の鍵はいつも職員室の隣の守衛室から借りてくるけど、鍵って図書委員じゃなくても誰でも借りれるものなのかな?」
僕の質問に小野寺は首を振る。
「図書委員だけだと思うよ。鍵を借りるときは委員証と鍵を交換して、返す時には同じように鍵と委員証を交換するでしょ? 鍵を借りに来たのが図書委員じゃなかったら、守衛の人も怪しむだろうから」
「まあそうだよね……となると、暖房を付けたのは図書委員の誰かってことか」
「うーん、図書委員の誰だろう……」
小野寺は腕を組んで考え込む。
同じように僕も図書委員のメンバーの顔を思い浮かべてみる。入って間もないけれど、図書委員メンバーは佐藤さんや青山など大体の人の顔と名前は把握できている。まだあまり話せていない人も多いけど、あからさまに性格が悪そうだったり、人に害を成す人はいなかったはずだ。
では、誰が図書室の暖房を付けたのか。
順当に考えれば、おのずと犯人は一人に絞られる。
「……おそらく佐藤さんだろうね。暖房を付けたのは」
「えっ、どうして?」
小野寺は驚いた様子で僕を見た。
「佐藤さんなら鍵を確保するのが簡単だからだよ。佐藤さん以外の人が鍵を借りるとして、その場合は昼休み終了直後か、授業の合間にしか鍵は借りられない。そんな時間帯に図書室の鍵を借りるのはさすがに目立ちする。守衛さんもどうしてそんな時間帯に借りるのか怪しむはずだからね。でも佐藤さんは違う。佐藤さんが暖房を付けた犯人だと考えるなら、昼休みに僕と別れた直後に再び図書室の鍵を開けたと考えてもいいし、鍵を返却せずに持ったまま、授業の合間に鍵を開けることもできる。鍵を返しそびれたのは単に忘れていたと言い訳すれば守衛さんも納得するだろうから」
「たしかに……佐藤さんなら、鍵を開け閉めするのは昼休み以降いつでもできるんだね」
「そういうこと」
昼休みに佐藤さんは鍵の返却を自ら進んで買って出た。あのときは単に返却ボックスの戻しと同様に先輩である僕に気を遣っただけだと思ったけど、実際は図書室に再び入る必要があったからなのかもしれない。
小野寺はエアコンを見上げて言う。
「でも、なんでエアコンを操作したりしたんだろうね? 佐藤さんが犯人なのはわかったけど、エアコンで室温を上げた理由はわかってないよ」
「その通りだね」
犯人は絞り込めたが、まだ動機の説明は不十分。刑事事件であれば犯行を証明すれば事が済むが、このケースではそうはいかない。最終的に小野寺を納得させるのが、僕のゴールだからだ。
ひとまず、考えられる動機を列挙していくべきか。
「動機候補その一、悪戯ってのはどうだろう?」
「佐藤さんが?」
「うん。小野寺さんから見て、佐藤さんはこういう悪戯をしそうに思う?」
小野寺は首を横に振った。
「悪質な悪戯はしないと思う。中学は一緒だったけど、そんなに悪い噂も聞かなかったし」
「……そっか。じゃあ悪戯というよりは、やむを得ない事情があったと考えるべきかな」
「そうだね」
僕は佐藤さんのことは委員会の集まりで何度か見かけただけで、直接話したのは今日が初めてだった。だから、人物評については小野寺の意見を参考にしていくべきだろう。まあ、佐藤さんはぱっと見で悪い子ではなかったし、僕から見ても悪い印象はない。
そう考えると、誰かに頼まれただとか、個人的な切迫した理由によるものと考えるのが自然だ。
「やむを得ない事情があったと仮定して、エアコンを高温で全開にする理由ってなにか思いつく?」
「全然。低温に設定されてたなら思いつくのに」
「例えば?」
「持ち込んだお菓子を保たせるためとか」
「……それは小野寺さんしか考えないね」
可愛らしい物言いに少し笑ってしまう。大島高校ではお菓子を含めて食べ物の持ち込みは全面的に許可されているので、たしかにエアコンが低温に設定されていたなら万が一にもその説はあり得たかもしれない。
とは言え、設定は高温だった。食べ物に関係する線で考えていくなら、高温に保つことが必要なもの……いや、これは考えても正解にはならなそうだ。
「ちなみに小野寺さん、まさか実際に図書室にお菓子を持ち込んだことってないよね?」
「えっ、そ、そんなことはないですケド?」
小野寺はわざとらしく視線を彷徨わせた。
「あるんだね……」
「ただのビスケットだよ? 当番で暇なときに摘まむくらい、別に禁止されているわけじゃないもの」
「いや、学校への持ち込みはオーケーでも、図書室への飲食物の持ち込みはNGだから」
図書室の壁に視線を向ける。そこには、しっかりと飲食物持ち込み禁止の張り紙が貼ってあった。
しかし、小野寺は薄っすらと微笑んで、
「一年生の頃の話だから時効だよ。証拠もない」
と開き直ったように言った。
「……」
なんだかズルい。そういう態度で言われると、なんでも許せてしまいそうだ。
溜息を吐いて呆れたように見せてから、次の動機候補を挙げてみる。
「まあいいや。じゃあ次の動機候補、エアコンの風をなにかに使ったというのはどうだろう」
「風を?」
「うん。試しにエアコンを動かしてみよう」
リモコンでエアコンを起動する。高温のままだと暑苦しいので設定温度だけは24℃にまで下げた。
強風設定になっていたエアコンは、音を立てながら風を排出し始めた。普段は静音設定になっているから気にならないけど、強風設定だとさすがに新型のエアコンでもうるささを感じる。
小野寺は風を受けながら、「このあたりかな?」と風が当たる席を指した。
僕はその席の様子を観察して、一つ気になる点を見つけた。
「濡れてる……」
メッシュ生地の座席はほんのりと湿っていた。
小野寺も椅子に触れて言う。
「ホントだ。どうして濡れてるのかな?」
「……服を乾かしてたのかも」
服でなくとも、何かを乾かしていたのかもしれない。今朝は雨が降っていたし、靴下や制服を乾かしていた可能性は考えられる。
「でも、服を乾かすために図書室のエアコンを使うってのはどうなんだろう……」
小野寺は不思議そうに呟く。たしかに雨に降られたからと言って、これはやりすぎな気もする。小野寺はさらに隣の席に触れる。
「あれ、こっちの席もだ。篠崎くん、一つだけじゃない。いくつも乾かしてたみたい」
「いくつも?」
「とりあえずこのテーブルを囲んでいる椅子四つは濡れてる」
「一人分の服を乾かすにしても、ちょっと多いね」
そこまで多くの椅子が濡れているということは、窓を閉め忘れて雨風が吹き込んでいたのかもしれない。窓際の辺りをたしかめてみる。
しかし、窓際の本の状態は至って普通だ。棚も濡れた形跡はないし、やはり濡れているのは椅子だけだ。
「そうか……一人分だけじゃなく、何人かの衣服を乾かさなければいけない事情か。佐藤さんは、誰かに頼まれて図書室を開けたのかもしれない」
「誰かに?」
「うん。ただ問題はその相手だね……交流のあるクラスメートからの頼みなら気にすることじゃないけど、上級生に無理やり開けさせられたとかだとあまり良くないと思う」
昼休みの佐藤さんは、僕という先輩に対してやや過剰に腰の低い様子が見て取れた。あれが普段から上級生に良いように使われているからだと考えると心配だ。
小野寺は懐疑的に言う。
「さすがにそんな先輩はいないと思うけどなぁ?」
「まあ、あくまで可能性の一つってだけだから」
僕もあまり悪い想像はしたくないのだけど、こればかりは自分の性根だから仕方がない。
この嫌な推測を覆す材料があればそれでいい。僕はテーブルの周囲をさらに詳しく観察することにした。
その行動に釣られてか、小野寺も椅子に顔を近づけて匂いを嗅ぎ始めた。
そして、小野寺は「んんっ!」と不快そうな声を上げた。
「どうかした?」
「変な匂いがする……」
「変な匂い?」
「この席、この濡れてるところがちょっと!」
小野寺は小刻みに飛び跳ねながら言う。匂いに敏感な小野寺が言うと、なんだか匂いを嗅ぐのが少し怖い。変な薬品でも染み込んでるんじゃないだろうな……。
「ど、どれどれ……」
おっかなびっくり、僕も鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
「……ん、これは」
石油製品特有のゴムのような匂いに混じって、微かにツンとくる刺激臭がした。
「たしかに変な匂いだ……でも、なんだか……」
そう、昔嗅いだことのある匂いだった。でも、どこでだ? こんな匂いを嗅ぐ機会はそうそうあるものじゃないはずだけど……。
「大丈夫?」
「いや、この匂いを嗅いだ覚えがあるんだ」
「心当たりがあるの?」
「うん」
考えを巡らせる。この癖になりそうな匂いは、たしか……そうだ、なんですぐに気づかなかった!
「去年美術の授業で使ったペンキだよ!」
「ペンキ?」
「小野寺さんは去年の選択科目は音楽?」
「そうだけど……」
僕は選択授業の時間に、石上と話していた話題を思い出す。
「なら知らないのも無理ない。美術の選択科目ではペンキを使うんだ。でも、そのペンキは汚れたらすぐに水洗いしないと落ちない曲者だったんだよ」
やや興奮を覚えながら、捲し立てるように言う。
つまり、このことからわかる事の顛末はこうだ。
「佐藤さんは美術の選択授業で着る替えの服を忘れてしまったんだ。普通は着替えを忘れたら授業は見学になるんだけれど、佐藤さんはなんとか授業を受けたいと思ったんだろう。美術の先生を説得して制服で無理やり授業を受けて、汚れた部分はすぐに水洗いをした。しかし、今日はご覧の通りの曇り空だ。服はなかなか乾かない。教室で乾かすのは難しいから、エアコンの設定を弄って図書室で乾かすことにした」
僕は濡れている椅子をそれぞれ示す。
「椅子が複数濡れているのは、友達にも服を乾かすのを勧めたからだ。一度の授業でこんなに替えの服を忘れる人が多いとは思えないし、ちゃんと替えの服を持ってきた人も便乗したんだろうね。古着であっても、大事にする人はいるだろうから」
佐藤さんが自分自身のためにやったのではない可能性もある。友達が困っているのを見て、助け船を出すつもりで図書室を利用したというパターンだ。まあ、さすがにその辺りの細かい状況は本人を問い質してみないとわからないことだが。
僕の話を聞いて、小野寺は興味深そうに頷いた。
「……そっか、佐藤さんは服を乾かすために、図書室をこっそり利用したんだね」
「うん。それにしても、このペンキの匂いは懐かしくてビックリしたよ」
「でもさすが篠崎くん。今回もあっさり謎を解いちゃったね」
「いやいや……それは小野寺さんのおかげだよ」
「謙遜謙遜」
小野寺が椅子の匂いに着目しなければ、佐藤さんの行動に美術の選択科目が関係しているとはわからなかった。より詳しい状況を明らかに出来たのは、小野寺がいてこそだった。
その小野寺は、再び椅子に残ったペンキの匂いを嗅いで言う。
「それにしても、美術の授業って面白そうね」
「実際面白かったよ。美術の先生も楽しい人だったし」
「私も受けたかったなぁ」
「一年生に戻れたら受けれたけど、残念だね」
「うん……残念。にしても、図書室のエアコン全開だなんて、こんな話がバレたら蘇我先生怒りそうだし、秘密にしとかなきゃね。佐藤さんには私から後で言っておくから」
「ああ……お願い。ところで蘇我先生って?」
「司書の先生の名前」
「そんな名前だったんだ」
「あの先生、怒ると怖いよ~」
小野寺はおちゃらけたように言って、それから満足そうな顔でカウンターのほうに戻っていく。
その背を追おうとして、携帯がラインの通知を知らせた。白河先輩からだ。
『結衣の中学時代は本人には訊かないで。詳しいことは明日話してあげるよ』
一瞬立ち止まってから、僕はすぐに携帯を仕舞った。
どうやら、小野寺の昔話はあまり楽しい話になりそうにない。




