奇妙な集まり -1-
白河先輩の件を解決した日の夜。
僕は家のベッドで横になって、小野寺が薦めてくれたカフカ短編集を読んでいた。
両親は下でビールを飲みながら楽しく話している。二階の自室は静かで、読書環境としてこれ以上はない。
「はぁ……」
ため息を吐きながらページを捲る。
この本、想像していたよりも読みやすい文章をしているけれど、解釈の難しい話ばかりだ。ほとんどの話には人の生き死にが描かれていてどこか救いのない暗さがある。僕は明るい話が好きなハッピーエンド信者なので、こういう話が続くとちょっぴり気分が陰鬱だ。
でも読む。奮起して、短編を読み終える度にネットで各短編の解説を読みながら、ああ、そういうことかと一応の理解をしながら読み進めた。せっかく図書室で借りてきた本だし、それに小野寺の好む本を消化したい気持ちが強かった。
四苦八苦しつつ短編を何本か読み終えると、不意に携帯が震えた。
「白河先輩か」
通知を見て、僕は名前を呼ばれたように起き上がった。
『友達から劇のチケット貰った。二人で見に行けば?』
メッセージを見て、僕は「劇かぁ……」と唸った。
劇のチケットって、何の劇だろう。そんな疑問がまず浮かぶ。
劇なんて自発的に見に行ったことはないし、見ようと思ったこともない。
小野寺も急に劇って言われても困るんじゃないか?
僕は白河先輩に返信を送った。
『小野寺って劇好きなんですか?』
『好きかも?』
『わからないんですね……』
『少なくとも、関心はあると思うよ』
すぐに返事が来る。どんなタイピング速度だよと思いつつ、
『とりあえず聞いてみます』
と返す。
すると、ほとんどノータイムでシロクマがサムズアップするスタンプが押された。
彼氏の新田先輩はこういうやりとりを毎日続けているのだろうか。僕も小野寺とそういう関係になったら同じことをするんだろうか? いや、いまの段階でそんなことを考えても気持ち悪いだけだな。
白河先輩に教えてもらった小野寺のラインに、『白河先輩が二人分の劇のチケットをくれるらしいんだけど』と送る。返事はすぐには無かった。
「どうなるかな」
気持ちを切り替えて、読書を再開する。やはり、わかりにくい話ばかりだ。でも古典文学と呼ばれるジャンルに類する本にしては読みやすいとも思う。内容の難しさに反してすらすらと読み進められる不思議な文章だ。いつの間にか、僕はすっかりこの本に没頭していた。
夜は更けていく。時計の短針が零時に差し掛かった頃に、小野寺からの返信が届いた。
『行く』
という簡単な返事に、僕は思わず「おお!」と叫んだ。
叫んでから、いまが深夜だと思い出して階下に耳を澄ませる。両親はもう寝たのか、騒いでいる声は聞こえない。気持ちを落ち着かせながら、白河先輩にメッセージを送る。
『小野寺も行くそうです』
『やっぱり。結衣ならそう言うと思ったよ』
白河先輩は文章を区切って、さらに続ける。
『劇場なら、結衣の秘密もわかるかもね』
「……なんのことだ?」
意味ありげな返信に首を傾げる。
……ああ、そういえば、相談を受けたときに小野寺には色々あったみたいな話もしていたっけ。
そんなことを思いつつ、僕は小野寺と出かける予定が決まったことに素直に胸を踊らせた。




