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第68話:打ち上げ花火、真上に打つか? 真横に打つか?

 今日は、楽しい楽しい花火大会。

 だが、マッドサイエンティストたる私の花火大会は何日も前から始まっていた。そう、花火を作ったのだ。もちろん勝手に作った訳ではない。主催の商店会に頼まれた。近頃は花火職人も減ってきて、女子高生の手も借りたくなるほどだったらしい。もちろん頼まれなくても勝手に作ってたが。


 そして今日が本番。花火自体は私のボワワンカプセルに収納してポケットに入れてるが、商店会の人がバンで迎えに来た。


「悪いねぇ。保守派の連中が“あんなやつに火薬を持たせたままウロつかせるな”ってうるさくてね」


「別にいいわ? 現地までピンポイントで運んでもらえるんだし」


 今“保守派”という単語が出たが、あろうことか窓咲市中央商店会は真っ二つに割れていて、保守派と革新派なのだが、平たく言えば私を嫌ってるか否かだ。

 新しいものを受け入れない心、よくないと思うな~。そんなんじゃ大手に押されて居場所を失うぜ? とうに結構な客を駅ビルに持ってかれてるが。


「鈴乃も乗る?」


「当然でしょ。火薬を持った鏡子から目を離すなんてできないわ」


 鈴乃も保守派寄りのようだ。女子高生にあるまじき蛮行よ。まぁ火薬ならほとんど毎日持ち歩いてるんだけどね・・・。


「いやぁ助かるよ。正直、俺1人いたところで止められる訳でもないからね」


 全く。人を何だと思ってるんだ。報酬もあるし何だかんだ自分が作った花火を打ち上げるのは楽しいから真面目にやるさ。そんなことが合法的にできる機会はそうそうない。

 ちなみに報酬は会場の出店で使える商品券5000円分だ。商店会もジリ貧なんだろう。今日の花火の半分を私に頼んどいて4ケタとか安すぎる。まぁ、保守派の連中が渋々私に頼むしかないという決断をしたのが容易に想像できて、それがまた愉快なのだが。


「うん、しょっ」


 助手席には色々と物が置いてあったので2人して後部座席に乗り込む。出発だ。

 会場は、窓咲市を縦断(微妙に斜めで北北西から南南東に向かう)するように流れる一級河川・多麻手川(たまてがわ)の河川敷だ。今回は窓咲市中央商店会の催しなのでちょうど真ん中辺りで行われる。窓咲駅から真西に2kmぐらいの場所だが、多少離れてても見えるので南窓咲で下りてから行く人もチラホラいる。


「せっかく作ってもらったのに、雨は降らなさそうだけど嫌な天気だねえ」


 おじちゃんがフロントガラス越しに空を見る。虫食いのように青い空が見えるだけで、ほとんど雲だ。


「問題ないわよ。曇ってても楽しめるのを作ったから」


 言うて、河川敷だからって満天の星空が広がる訳でもなく、街なかから見るのと大して変わらない。まあ? 私お手製に花火だけは天気によらず間近で見た方が圧倒的にいいけどね?


「それは鏡子だけが楽しめるものじゃないでしょうね」


「花火好きなら楽しめるわよ。私が一番楽しめることに変わりはないけどね」


「わざわざ不安にするようなことを言わないで」


 事実だからしょうがない。なんせ、自分で作った花火を打ち上げるんだ。他人が作ったのを見て満足って人の気が知れない。



 そうこうしてるうちに近くまで着いた。


「おっ、準備進んでるねえ」


 窓から右腕を出しつつ辺りを見回すおじちゃん。この花火大会は、花火以外に特にイベントがある訳ではないが、近隣には交通規制がかかって山ほど出店が並ぶ。打ち上げポイント近くは既に関係者の車両しか入れない。


「よーし着いた。んじゃよろしく頼むよ、鏡子ちゃん」


「まっかせといて♪ おじちゃんも今日は奥さんと子供と一緒に見れるように準備しといてね」


「あっははは! じゃあこないだパチンコで3万スッたの謝んなきゃなあ!」


 何をやってるんだ。


 ブロロロロロ・・・おじちゃんは去って行った。


「え、大丈夫なのあれ・・・?」


「よくあることなんじゃないの? 知らないけど」


 ギャンブル持ちの旦那がいるってどんな気分なんだろうな。私なら間違いなくぶん殴るが、それ以前に資産の共有などしないからな。


「さてと、早速」


 ボワワ~~ンと花火召喚。


「すっご・・・やっぱ多いね」


 そりゃあね。


「相変わらず爆弾みたいで怖いんだけど」


「丸く固めちゃうからこうなっちゃうのよね」


 花火の形は、突起のついたベージュ色の球体。突起部分に導火線があって、筒から発射と同時に火が点いて、上空で破裂。火薬が飛び散る姿を私たちは見ることになる。色は、火薬に金属を混ぜることで変えられる。


「んじゃ次、筒ね」


 ボワワ~~ン。発射台となる筒を召喚。


「こっちは大砲みたいよね・・・」


「球体を飛ばすんだもん。こういう形になるわよ」


 今日用意した中で一番大きいのは二尺玉。直径は60センチ弱で、重さは70キロ。これ用の筒は直径60センチ超はもちろん、長さは2メートルを超えるので中々に威圧感がある。

 世の中には三尺や四尺玉もあるので二尺は物足りないのだが、あまり大きいのをやると人が集まり過ぎて制御できなくなるという理由でこうなっている。要は窓咲の限界だ。なので大きさではなく打ち上げ方で勝負したいと思う。


「ささ、ちっこいの並べてくから手伝って」


 二尺玉は1個、一尺玉も5個だけだが、小さいのは大量に用意してあるので、とにかくまずは筒を配置することになる。


「うわ・・・何よこれ」


「いいでしょ。満開ヒガンバナ砲」


 筒を1本1本並べるなんてメンドくさい。てな訳で骨組みに筒がセットされた状態のものを用意した。見た目はヒガンバナを模しており、縦・横・斜め、あらゆる方向に飛んで行く。


「花の名前に“砲”とか付けないで?」


「だってこれ“花火”だし」


「それはそうだけど・・・」


 文句なら火薬を詰めた玉に“花火”なんてネーミングをした人に言ってくれ。


 こんな調子で、ミッドナイトタンポポ砲や春菊フラワーキャノン、単純に一列などの規則配置にしたものも置いていった。そんな頃、


「フハハハハ。やっているな、“マッド才媛”」


 なんか来た。


「あら星岡くんじゃない。元気?」


 てかどうやって来たんだよ。ここもう関係者以外立ち入り禁止だぞ。しかし星岡は挨拶への返事もせずに語り始めた。


「宇宙とは、ただ見上げるだけでも趣のあるもの。人工物で染めるなど、愚の骨頂」


 じゃあ見に来なきゃいいだろ。夜空なんて明日も明後日も見れるんだから。てかこんな都市部じゃ大した夜空なんてない。


「それで、何しに来たの?」


「フッフッフ・・・愚問だな」


 さっさと言えよ。


「貴様の技術と、この俺の“神の力”、どちらがより民衆を魅了させるか勝負しようぞ」


「はぁぁぁ??」


 何を言い出すかと思えば。


「い、別にいいだろう! パフォーマンスが増えて損はないはずだ・・・!」


 はっは~~~~ん。要は、自分もみんなにワーキャー言われる花火を打ち上げたいってことね?


「そぉんなの商店会の人に頼みなよ。私だって正式な依頼を受けてやってんの。個人的なお遊びじゃないのよ?」


(ほとんど遊びでやってるクセに) by 大曲鈴乃16歳


「どうせ貴様は許可なんてなくてもやるだろう!」


「だったら星岡くんも勝手にやってればいいじゃない。後で怒られれば済む話なんだから」


(なんでそれで“済む”って考えになるのよ)


「そうかそうかだったら勝手にやらせてもらうぞ。もちろんここでな!」


「え? なんでよ離れなさいよ」


「離れてやったら俺1人が怒られることになるだろう!」


「フザけてんの?」


 なんて奴だ。せっかく今日は怒られない環境が整ってるのに何でこいつに付き合わなきゃなんないんだよ。力づくでも離してやる。私は足元の筒を拾い上げて肩に乗せ、花火を入れた。


「ちょっ鏡子なにする気!?」


「どうせハッタリだろう。その程度でこの俺が怖気づくとで…」


 カチッ。ドォォォォォン!!


「ぬぅぅおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ひゃあぁぁっ!!」


 点火は電気式で、スイッチひとつでできるようにしてある。発射された花火を腹に受け星岡は後ろに飛ばされた。もちろん、火薬玉を発射するだけが花火じゃない。


 ドォォォォォォォォォォン!!


「ぬぅぅぇぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」


 小さいしまだ明るいしで光がショボく散っただけで星岡の悲鳴だけが響いた。


「お、おの、れ・・・」


 星岡が腹を押さえながら立ち上がる。服は全面焦げ付いて、至る所に虫食いのような穴が開いていた。


「き、貴様っ、花火は人に向けちゃいかんと教わらなかったのか!」


「そう思うんなら、自分のショーを見せる場は商店会に申し出ることね」


「くっ・・・おのれ・・・・・・」


 いや私を睨まれても困るんだが。


(今のは睨まれてもしょうがないでしょ)

 星岡と向き合っていると、


「くおぉうらぁぁぁぁ! なぁにやっとるんじゃああぁぁぁ!!」


 怒号が飛んで来た。さすがにさっきの音はみんな聞こえたことだろう。


(結局怒られるんじゃん・・・)


「やっぱりお前か小娘ぇ! 時間まで待てんのかぁぁ!!」


 私に対して怒鳴り散らしてくるってことは、保守派の連中か。そっちはそっちで用意してる花火があるんだから私なんかに時間使うなよ。暇なのか?


「ごめんなさーいちょっとテストしたくってぇ」


「どうだか! だからこんな奴に頼むのは嫌だったんだ! ブツブツブツブツ・・・」


 なんか長ったらしくブツブツ言ってんなあ。自分は反対したから責任は無いって? チームの最終決定には責任持ちなよ。会議の場でどんな意見出したかなんて外部にゃ関係ねーんだよ。


「おのれマッド才媛、覚えていろ!」


 星岡もどっか行った。何しに来たんだあいつは。


「鏡子って敵作るの好きなの?」


「周りの連中が私を敵視するのが好きなんでしょ。女子高生ってモテすぎちゃうからツラいわ」



 すっかり太陽が見えなくなって空に残るオレンジもぐんぐん減っていくという頃には、河川敷の上に人が集まり出して出店も営業を始めていた。花火の打ち上げに向けた準備も佳境を迎える。


「ここから先は立ち入り禁止でーす! 危ないので絶対に入らないでくださーい!」


 かなり広い川なのだが、花火を飛ばす方向を考慮し土手の傾斜部分にも一般人は入れないようにしている。でないと身の安全は保障できないからね。


「あ、摂津君来たよ。おーーーい!」


 鈴乃が手を振った先から、1人の男子が歩いて来ていた。今日の手伝いを頼んでいた幼馴染、セルシウスだ。彼は遠慮がちに片手を上げて応え、そのまま歩いて来た。近くまで来たところで私も軽く手を振る。


「おっつかれー。元気?」


「これからどっと疲れることを考えると元気を失いそうだけど」


「何よそれー。とにかく、これから玉詰めてくから、よろしくね」


 人手がジリ貧なので、筒と花火の数を1対1という構成にしている。だから事前に玉を入れておけば後は点火するだけである。


 点火も電気制御でやるからタブレットでホイホイやるだけだ。全自動にしたかったのだが、この花火大会の半分を請け負ってる保守派連中が人力点火だからアドリブが発生した。

 めんどっちいことに5分おきぐらいにバトンパスをし合う。信じられん奴らだ。一応、向こうがどんな構成にしてるかは書類を渡されたが・・・私に頼るのを嫌うから向こうの分の機構は組ませてもらえなかった。


 まあいい。こっちの方が上等なのを打ち上げて、次回からは全部私にって方向に持ってこう。いや~今回は非常にバエるものができましたよ? 来年の来場者が増えて制御しきれなくなるなんて、知ったこっちゃない。雇用を増やせばいいんだから喜べよ。


「・・・いくつかおかしい方向に向いてるのがあるんだけど」


 セルシウスが、既に設置されている筒を見て呟いた。


「花火大会なんだから当然でしょ? 地面より下以外には飛んでくわよ」


「飛ばす、の間違いなんじゃないの?」


「人工物だからそうなるわね」


「はぁ・・・本当に大丈夫なのかな」


「不安だから手伝い引き受けてくれたんでしょ」


「不安にさせないようにして欲しいって言ってるんだけど・・・」


 諦めろ。


「まぁまぁ摂津君。私たちの手で砲台に入れる分もあるんだし大丈夫よ」


「中身はブラックボックスだけどね」

(砲台って言い方はやめて欲しいんだけど・・・) by 摂津信司 17歳


 箱じゃなくてボールだよ。


「しゃべってないで始めるわよ。はいこれ配置マップ。同じ番号のついてる筒に入れてね」


 2人にタブレットを渡して、作業開始。


「じゃあ僕はあっちの方からやるよ」


「んじゃあたしはあっち。また後でね」


 それぞれ散らばった。さーて私もやるかー。デカいのは1人じゃ持てないから、私がロボットアームでやることになる。


「どっ、こい、せと」


 さぁみんな綺麗な夜空を咲かせてねー♪



 作業が終わる頃には、すっかり暗くなっていた。


「やぁ鏡子ちゃん、準備はバッチリかい?」


 商店会員たちが集まって来た。革新派のメンバーだから問題ないが。


「うんもうバッチリよ♪ あとは待つだけ」


「そりゃ良かった。せっかくだし何か食べておいでよ。小遣いは経費から出すからさ」


 そう言っておじちゃんは千円札を3枚渡してきた。


「お、サンキュ。じゃあここ見といてもらっていい?」


「はいよ。今のうちに行っといで」


 開始まで1時間は残ってる。黙って待つには長い。


「んじゃ鈴乃、セルシウス。行こっか」


「あたしもお腹ペコペコ~~」

「そうだね」


 もう一度おじちゃんたちにひとこと掛けたのちに、移動。


「あーあ、みんな浴衣だ。あたしたち浮いちゃってない?」


「別にいいでしょ。“みんな”ってほど全員浴衣でもないし」


 パッと見で浴衣は7割ぐらいだ。女子高生ぐらい普通の格好の人も少なくはない。


「何食べる?」


「焼きそばで良いんじゃない? あんまり迷ってる時間もないし。セルシウスは?」


「僕の分は適当に同じのを買ってくれればいいよ」


 相変わらず欲のないやっちゃなー。適当に焼きそば、たこ焼き、焼きもろこしを買って、その辺でむさぼり始めた。


「ごめんね摂津君、こんなお祭りなんかに付き合わせちゃって」


「別にいいよ。厳木さんが花火打ち上げるっていうのも怖いし」


「そぉんなに不安なら、もっと普段から私と一緒にいて良いのよ?」


「それはやめとくよ」


 目を逸らしすらせずに即答。かわいくねー。


「大曲さんは本当に凄いよ。僕はとっくに限界を迎えたっていうのに」


「あっはは・・・あたしってばこういう性格だから」


 自覚があってもなお、ほっとけない。そういう人も一定数いることは理解してるのだが、正直その気持ちは全く分からない。星岡やクーロンくんの保護者になんかなってみろ。胃に穴がいくつあっても足りないぞ。


「んじゃ、そろそろ戻ろっか」


 腹ごしらえも終わり、土手の下に帰還。


「たっだいまー」


「おーお帰りー鏡子ちゃん。それじゃあ今日は頼んだよ?」


「アイアイサー♪」



 ほどなくして8時を迎え、ついに始まることになった。まずはアナウンスが入る。


【みなさま、こんばんは。本日は、窓咲市中央商店会主催、窓咲中央多麻手川花火大会にお越し頂き、ありがとうございます。

 間もなく打ち上げ花火を開始しますが、立ち入り禁止区域は立ち入らないようお願いいたします。立ち入った場合は、花火の直撃、その他いかなる事故に対しても責任を負い兼ねますので、ご理解頂きますようお願いいたします。

 それではみなさま、どうぞ、総勢5000発を超える花火をお楽しみください】


 さて始まるのだが、スタートを切るのは保守派の方だ。二尺玉を作れるのが私しかいなかったからフィナーレがこっちになり、スタートは向こうになった。のだが、


 ヒュ~~~~~~~~ン。


「「「おぉぉぉ~~っ」」」

「おわっ!」

「きゃぁっ!」

「にゃ゛っ!?」


 初手から、上・斜め45度・真横の5方向に飛ばして来た。当然、真横のうちの片方はこっちに向かって来た。微妙に斜めだったから頭上を通過していったが。


 ド~~~~~~~~~~~ン。


 夜空に咲いたであろう花火も、それによる歓声も、私たちの五感には入って来なかった。全員が全員、花火が飛んで来た方向、つまり保守派の連中がいる方向を見ていた。


 ヒュ~~~~~~~~ン。


 また来た。おい・・・。こっちサイドのおじちゃんが1人、無線を使って向こうに連絡を取った。


「おい! 危ないだろ! 何やってんだ!」


 返事は5秒ほどで来た。その間も、花火の打ち上げ(こっちに飛んで来る分も含む)は続いている。


【いや~申し訳ない! 今回複雑にし過ぎて制御が難しくってね! また何度かあるかも知れないが許してくれ!】


 あいつら・・・。もうこれ確信犯だろ。


「ちょぉっと確認するわね~」


 望遠鏡を取り出して、奴らのいるテントを見た。ニヤ、ニヤ、ニヤリ。全員が全員、したり顔でこっちの方を見ていた。これは、宣戦布告と捉えるしかないだろう。望遠鏡の映像をタブレットにも出すと、大半の人が「あんにゃろ・・・!」みたいな反応をした。セルシウスはもう、諦めたように首を左右に振っている。


「あの、鏡子、・・・ね?」


 もう無駄だろうなという本心が大いに乗った口調で鈴乃が止めにかかる。私のする返事は、決まっている。


「プログラム変更よ。窓咲中央多麻手川花火合戦、開始ね」

次回:窓咲中央多麻手川花火合戦

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