第69話:窓咲中央多麻手川花火合戦
戦いの火蓋は、切って落とされた。あろうことか保守派の連中は、こっちのテントに当たるか当たらないかのスレスレで花火を打って来た。これはもう、応戦するしかない。当初の予定など知ったことか。
さっそくながらポチッとな。
ヒュ~~~~~~~~ン。
「どあぁぁっ!」
「なにっ!」
よく聞こえないが向こうは向こうで慌てているはずだ。
ド~~~~~~~~~~~ン。
もちろん上にも打ち上げているので、観客からは普通に歓声が聞こえてくる。だが上に打ってるものなどカモフラージュに過ぎない。
「ママー。きれーーーい」
「本当ねえ」
「すげぇな。斜めとか横にも打ってんじゃん」
「観客の安全を保障してないだけのことはあるよな」
「みなさーーん! 危険ですので絶対に柵に近付かないでくださーーい!」
土手の上の方がどうなってるかは知らないが、こっちはこっちのやるべきことを続けよう。
【おい!】
当然ながら、保守派の連中から苦情が来る。
【今のわざとやっただろ! 嫌がらせのつもりか!?】
よく言うぜ。返事は商店会の人に任せよう。
「人聞きの悪いことを言うな! こっちもお客さんに楽しんでもらおうとした結果だ! 当たらないんだから良いだろう! お互い様だ!」
【そうかそうかお互い様か! それじゃあ何が起きても恨みっこなしだな!】
「望むところだ!」
普段は会議室で言い合うことしかできないだろうから鬱憤溜まってるんだろうな。
「なんでこうなるのよ・・・」
嘆く鈴乃。
「向こうがケンカ売ってきたからよ」
「鏡子が用意した花火も横に飛んでくようになってたと思うけど?」
「さすがにスレスレを狙ったりはしてないって。最低限、危険を感じないぐらいには離れるようになってたわ」
「バレてると分かってて嘘つかないでくれる?」
ところがどっこい。先に仕掛けて来たのが向こうという事実がある限り、何とでも言えるのだよ。私たちにスレスレを狙うつもりは当初なかった。いいね?
「大曲さん、もう終わるのを待つしかないよ」
「はぁ・・・」
そうそう。大事なのは聞き分けの良さだよ。さっすが17歳のセルシウスはそこら辺わかってる。
ボワワ~~~ン。
という訳で新規で花火と筒召喚。縦3×横5で、全部寝かせてラックに積んである。
「え、まだあったの!?」
「私が頼まれてた分しか用意してないと思ったの?」
「思ってなかったけど本当にあるとは思ってなかったわよ・・・」
どっちなんだよ。
まぁいい、さっさとやろう。向こうもそろそろこっちの追撃が恋しくなってる頃だろう。
ヒュヒュヒュヒュ~~~~~~~~ン。
「うわぁぁぁぁ!!」
「また来たぞ! あいつら、こんなに用意してやがったのか・・・!」
「作戦変更だ! もっと寝かせてあっちに向けろ!」
と、いう訳で100メートルほど離れたテント同士で花火の打ち合いが始まった。元から出していたものや新しく出したもの、色々と動員して応戦している。
ヒュヒュヒュヒュ~~~~~~~~ン。
ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ~~~~~~~~ン。
「どぉわぁぁぁぁぁ!!」
「いぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おのれあいつらぁ!」
「怯むな! こっちからも行くぞ!」
テントの中はドタバタしているが、向こうも似たようなもんだろう。望遠鏡で見ると、それはそれは愉快な光景だった。
ド~~~~~ン。パラパラパラパラ・・・。
ドン、ドン、ドドドド~~~~ン。
打ち合った花火が中途半端な高さで開く。
「「「おぉぉぉぉ~~~っ」」」
意外とこっちも観客の反応が良いんだな。
「迫力あるな~~っ」
「これやるためにテント2つに分けてたのかあ」
望遠鏡で見ると、確かに観客の表情は悪くない。だが、横打ちばかりだと河川敷周辺の人しか見えないな。
「セルシウス」
タブレットを1枚、シュッと机の上で滑らせて渡した。
「私が言った番号のを押して。観客に見せる用のやつだから」
「なんで僕が」
「というか花火で“観客に見せる用”じゃないものって何なのよ」
いま見てる光景が全てだが?
「それじゃあセルシウス、8番ね」
「はいはい」
テント間での打ち合いが続く中、打ち上げられる8番。満開ヒガンバナ砲だ。地味に横方向攻撃もできるのと、途中で上向きに曲がるようになってるので弾道でヒガンバナを描く。そして破裂後も、個々でヒガンバナが開くようになっているのだ。
ド~~~~~~~~~~~ン。
「「「「「おおぉぉぉぉ~~~っ」」」」」
「きれーーーーーーい!」
「くっ、あいつら、魅せる用の技も持っているとは・・・!」
そんじゃあまだまだ行くよ~? セルシウスに指示を出しながら、私は保守派連中への砲撃、もとい威嚇射撃を続けた。当てなきゃ犯罪にならないからね。
そんなある時、
グラッ。
「ん?」
ヒュ~~~~~~~~ン。
盛大に外れた。砲台が傾いたからだ。原因はすぐに分かって、地面が局所的に陥没していた。河川敷とは言えそんな簡単に地盤沈下するとは思えないんだが、なんて考えてたらすぐに答え合わせがあった。
「フハハハハハ! どこを狙っている、“マッド才媛”!」
「またあんた・・・」
星岡登場。いつの間にか2つのテントの間にいた。
「こら君ぃ! 危ないからこっちに入ってなさい!」
「ここならば問題ない! テントに当たる軌道では打たないだろう!」
保守派のテントから拡声器で声が掛かり、星岡が返事。え、何? あいつら知り合いなの? だったら星岡の昼間の行動は何だったんだ。
「フハハハハ! お望み通り商店会に申し出てやったぞ!」
マジかよ。商店会が保守派と革新派に二分されてることを知ってか知らずか、向こうに行ったみたいだな。
「人工物を使ったパフォーマンスなど笑止千万! この俺の神の力で夜空に星を呼び起こしてみせようぞ!」
人工物を使ってるのは保守派も一緒なんだがな・・・。空は雲が掛かってるが、奴なら雲をどかすことも、東京じゃ見れないような星空を出すこともできるだろう。
「どうした“マッド才媛”! 俺がここにいては昼間のように打つことはできないだろう!」
え、花火をその身に受けるのをご所望?
チチチチチチ・・・。
「どっせい!」
点火した花火を、ロボットアームを使って星岡のいる位置に投げた。打ち上げるだけが花火じゃないんだよ。
「な・・・おっ、おい・・・!」
ドォォォォォォォォォォン!!
「ぬぅぅぇぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」
「きゃぁぁっ!!」
「うおぉぉ・・・っ!」
花火が炸裂。星岡はフィギュアスケート選手も目を見開くほどのスピードで10回転アクセルぐらい回って、見事に背中からドスン着地。
「こら小娘ぇ! 地上で爆発させる奴があるかぁぁ!!」
「ごめんなさーい! 手が滑っちゃってぇ! 星岡くんもごぉめぇぇぇん! でもそんなところにいるのが悪いんだよ? 危ないって言われてたんだから戻らないとぉ~」
「お、おの、れ・・・」
立ち上がる星岡。神の力を持ってるだけあってタフだな。地上で花火が爆発したことで、土手の上の方は騒然としていた。
「おいおい、ついに地面で爆発したぞ? ミスか?」
「いや狙ってやってんだろ。さっきからすげー低い弾道でやり合ってるし」
そういやここ数分ぐらい星岡に気を取られて打ち上げるのを忘れてたな。事故だと思われてもまずいし、続けよう。
「セルシウス、次は15番で」
「えっと・・・これだね」
タブレットが操作され、打ち上げ花火が上がる。15番は1分近くポンポンと色々上がり続けたのちにミッドナイトタンポポ砲だ。紫色の光でタンポポが描かれ、そのあと白い光でフワフワ降下するタンポポの種を演出する。
「「「「「おぉぉぉぉ~~~っ」」」」」
巻き起こる歓声。決まったぜ。
「やるな“マッド才媛”。この俺も神の力で民衆を魅了させてみようぞ! ぬぅぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!」
星岡は右の二の腕を左手て掴むポーズを取って固まった。何かをするつもりらしい。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ぉぉぉぉぉぉぉおおおおお・・・!!」
みんなで見守っていたのだが、星岡は固まったまま叫び続けているだけで何も起こらない。
「それ、何分かかるの?」
「そう急ぐな。1時間後には究極の夜空を見せてやる」
おっせーよ!
「花火大会8時半で終わるんだけど!」
もう15分経過しているから、残り15分だ。
「何とか場を繋げ!」
無茶言うなよ。密度減らしてダラダラ続けても客帰っちゃうだけだぞ。まぁ、誰もいなくなった河川敷で満天の星空出してりゃいいんじゃない?
「ちょっと保守派さ~ん! 協力仰ぐ相手間違えたんじゃないですかー?」
「くっ・・・! ちょっと君ぃ! さっき見せてくれたみたいに花火の軌道を変えてくれよ! それさえやってくれれば良いから!」
取り入るためにそんなことやってたのか。それくらいなら数秒の溜め時間でできるんかね。
「その程度ならば“マッド才媛”でも可能! ゆえに、俺がする必要はない!」
「話が違うじゃないか!!」
頑張れよ、保守派。私らは8時半で切っちゃうからな。フィナーレをこっちで用意してるんだからダラダラと続けんなよ。
なんだか争うのもバカバカしくなってきた。普通にパフォーマンスをメインに切り替えよう。
「セルシウス、サンキュ。あとは私がやるから」
「はい」
タブレットを受け取った。
「星岡君はどうするの?」
「ほっといて良いでしょ。私が頼まれたのは花火の打ち上げだけだから。他に協力者を用意したにしても商店会の方で対処してもらわないと」
増して、保守派連中が勝手にやったことだ。もう奴らがどんな打ち上げ順の構想を練っていたかも関係ない。打ち合いになったことで崩れてるしな。
で、結局チームワークなど欠片もなく、それぞれのテントが思い思いのペースで進めることになった。どのみち不規則にポンポン上がるし困ることはない。
あとあの感じだと、保守派連中も星岡に配慮するつもりはなさそうだ。ま、当然か。8時半に終わろうぜ。
終わりが近付いてきた。
ヒュ~~~~~~~~ン。
今上がっているのは、春菊フラワーキャノン。夜空いっぱいに春菊の花を咲かせることになる。ちなみに春菊は、中心は黄色、外側は白という絵に描いたような花だ。
クイッ。
「ん?」
今、いくつか軌道が変わらなかったか?
ド~~~~~~~~~~~ン。
「「「「「おぉぉぉぉ~~~っ」」」」」
一応、歓声は上がった。だが、何だ今のは。私の計算とは違う位置で花咲かせることになったぞ。自分のミスも疑わねばならないところだが、
「フハハハハハ! どうだ“マッド才媛”! 俺の神の力で、より観客を魅了させることができただろう! 喜べ! フハハハハハハ!」
やっぱりお前か・・・。
「あちゃ~~」
「あーあ・・・」
鈴乃が片手で頭を抱え、セルシウスが視線を落とす。2人ともよく分かってることだろう。私が、自分で作ったものに無断で手を加えられるのを嫌うことを。
がしっ。
「ぬぉっ!」
ロボットアームをめいっぱい伸ばして、星岡を捕獲した。
「なっ、何をする! 放せ!」
「あんた、軌道変えるって約束したのそっちのテントでしょ?」
「俺は商店会と約束したんだ! どっちのテントも同じだろう!」
ああ、知らなかったんだね。関係ないけど。
「くっ、くそっ! 構えを取れんと、神の力が・・・!」
刺青消えてもNGに加え、そんな弱点もあったのか。案外不便なんだな、神の力も。
「よくも私が緻密に計算した春菊の開花位置をズラしてくれたわね?」
「計算だと! 笑止! むしろこの俺の力が加わったことにより民衆の歓声が大きくなったのを喜ぶがいい!」
あんたが余計なことしなきゃあの3倍は歓声があったって話だ。
「そぉ? そんなに私の作品に関与したいの?」
「何? ぐおっ!」
アームを動かして星岡を運び、
「ぐぇっ!」
二尺玉の中に突っ込んだ。もうすぐフィナーレだからな。
「ちょぉっ、鏡子!?」
心配すんなよ。神の力を持つ男がこのくらいで死ぬはずないからな。何より本人が私の作品に加わりたがってるんだ。応えてあげないとな。
「おーい! こっちは全部終わったぞー! そろそろ仕上げに入ってくれー!」
どうやら保守派連中の花火が終わったらしい。タイミングの良いことだ。
ボワワ~~~ン。
二尺玉の周囲にフィナーレ用の筒を召喚。全部中身も入ってる。
「ちょっと鏡子! 何よそれ! こっちに当たっちゃうじゃない!」
「これで最後なんだから問題ないでしょ?」
「あるわよ!!!」
テーブルでも盾にしてな。
さて、後はタブレットをシュシュッとやって星岡を打ち上げるだけだ。
「おのれ、“マッド才媛”・・・! 所詮は人工物! 自然が織りなす景色には敵わないんだ!!」
3分でやってくれるんなら待ったんだがな。1時間は無理だ。安心したまえ。汚い花火にはしないさ。
ヒュ~~~~~~~~ン。
「ぬぅぉぉぉぉおおおおおおおおおお・・・・・・!!」
「きゃあああああああああ!!」
「うぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「こぉむすめぇぇぇぇ!!」
星岡が悲鳴を上げ、双方のテントも花火の直撃を受けパニック。最高の作品のためだ、許せ。
土手下のテントの混乱とは裏腹に、上の方は観客たちが静かに花火が開くのを待っている。星岡よ、火薬を使った演出に限界があることは認めよう。だがな、曇ってても星空を見せることができるのが、マッドサイエンティストなんだよ。
ド~~~~~~~~~~~~~~~~ン。
「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・!!」」」
「「「おおぉぉ~~~~~~~っ・・・!!」」」
「「「すご・・・!」」」
「「「ほぉぉ~・・・っ!」」」
満天の星空が、窓咲の夜に広がった。うんうん、これくらいはなくっちゃね。来年はもっと人が来るかも知れないから、商店会は警備予算を確保しておくように。
ヒューーーーーーー。
おっと、星岡が落ちて来たな。助けてやるか。
ボフッ。
クッションを乗せたロボットアームでキャッチ。ついでに引き寄せた。
「あ、が・・・が・・・・・・」
ありゃりゃ、気絶してらっしゃる。せっかく一番の特等席で見せたやったのに、もったいない。とりあえず地面に下ろした。
「鈴乃、みんな、大丈夫?」
テントはもうドンガラガッシャン崩れてる。
「大丈夫かって聞かなきゃいけないようなことはしないくれるかしら・・・!」
元気そうで何よりだ。
「ちょっと痛い目に遭うだけで超ド級の花火が見れるんだからいいでしょ?」
「おじさんはちっとも見れなかったけどね・・・」
落ちてたテントの布がもぞもぞと動き、下から商店会のおじさんが出て来た。あらあら、失敬。
「次からこれやる時は直前にテント崩した方が良さそうね」
「なんで今しなかったの・・・」
セルシウスも復活。
「そこはホラ、星岡くんが私を怒らせちゃったから」
「“最後だから問題ない”って言ったのは誰かしら?」
「ピュー、ピュー、ピュピュピュー」
鈴乃からの横槍は口笛でごまかした。
「全く・・・」
「別にいいじゃん。ほら、観客席からは拍手喝采よ」
土手上ではまだ歓声が続いていて、拍手の音も聞こえる。その様子を見て毒気を抜かれたのか、鈴乃はそれ以上何も言わなかった。
「ちょぉいと小娘さぁぁん?」
「はぁい?」
振り向くとそこには、保守派の面々がいた。
「設備が壊れた分は、きっちり補償してくれるんでしょうなァ?」
まるで借金取りのようだ態度だ。
「高校生相手に何言ってるんですかぁ。だいたい、チョー格安で花火作り引き受けてるんですから、テントが壊れるぐらい経費ですよね?」
私は両手のひらを肩の真横で上に向けながらそっぽを向いた。
「ぐ・・・反省の色、ゼロと・・・」
あー、やだやだ保守派ったら、こんなことも許してくれないなんて。という訳で、1、2の、3、ダッシュ!
「まぁてぇぇぇぇい!! カネ置いてけぇぇぇぇぇぇい!!」
「いやーー! おじさんにみぐるみはがされるーーー!」
こうして、窓咲中央多麻手川花火大会は、大したトラブルもなく幕を閉じた。
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