第13話 立場の弱い労働者は異世界でも食い物にされるようです
ずらりと並べられた小瓶を眺め、勇馬は目元を髪で隠す地味な女性に話し掛けた。
「えっと……色々確認したいんですが……まずこの液体は何ですか?」
「ポーションなのです。下級ですけど……」
ポーションとは主に体力と疲労回復に効果のある薬品だ。
店の商品に同じ形の小瓶があるのを掃除中に確認していたので、勇馬はその棚を指差した。
「あれと同じもの?」
「そうなのです」
その問い掛けに彼女は肯定したが、勇馬は店にある物と彼女が持ってきた物とでは何かが違う気がしていた。
「これ、ホントに同じ物?店にあるのとは違う気がするんですが……」
何が違うのかまでは分からないが、勇馬にはその2つが同じ物には見えなかった。
すると彼女慌てて弁明をする。
「そそ、そんなはずないのです。作った後で自分で効果を確認したのです」
「えっ、これ貴女が作ったんですか?」
「はぃ。一応わたし錬金術師なのです。駆けだしですけど……」
錬金術があることにロマンを感じた勇馬だが、今はその事は横に置いておく。
彼女は自分で確認したというが、それでは証明にならない。
しかし作成者が粗悪品を売ってしまえば信用問題にもなるだろうから、簡単にはそんな事をしない気もする。
それとも余程切羽詰まっているのか。
色々考えた上で勇馬は彼女に尋ねた。
「すぐにお金が必要って言ってましたよね?もしよければ理由を聞かせてもらっても?」
「……お金を返さないといけないのです」
彼女は悔しそうに顔を歪ませながら、経緯を話し始めた。
その話を要約すると、
下級ポーション100本を納入する仕事が来たので喜び勇んで仕事を受けたのだが、大量に必要になる材料費を買うお金が無く、足りない分を借金し商品を完成させた。
しかしここで誤算が起きる。
依頼主が彼女よりランクが上の錬金術師にも仕事を依頼していたのだ。
そしてその錬金術師は即日即納してしまう。
そのため彼女が納品しに行った時には、もういらないとキャンセルされてしまった。
駆けだし錬金術師の彼女が文句を言っても、聞き入れてはもらえず泣き寝入りになってしまった、という事だった。
しかもお金を借りた相手も悪かった。すぐに必要だったため、彼女は闇金のようなところで借りてしまっていたのだ。
金利はトゴ、10日で5割とはアコギな商売だ。
そして今日がお金を借りて9日目。明日になってしまえば、元金の1.5倍を返さなくてはならなくなってしまう。
なので急いでポーションを買ってくれる店を探しているのだが、無名の錬金術師の、しかも100本という数を買ってくれる店は見つからず、ここが最後の店だと泣きながら勇馬に教えてくれた。
「借りたお金は幾らですか?」
「白銀貨1枚・・・」
勇馬の日当と同じだった。
「ん?えっ、それだけなの?」
「それだけって……わたしには大金なのです」
この世界の物価はよく分からんと思った勇馬だが頭を切り替え、彼女にある提案をすることにした。
「分かりました。残念ですが、私には100本全てを買い取れるかも、幾らで買い取れるのかも決められる権限がありません」
「う゛ぅ~っ」
そこまで言うと収まりかけていた涙が、彼女の目からポロポロと零れ始める。
勇馬は慌てて言葉を続ける。
「まだ続きがあるから聞いて下さい。今すぐ買取は出来ませんが、手付金として白銀貨1枚を今ここで支払います」
「ぐすっ。本当……なのですか?」
諦めかけていた彼女は、勇馬の言葉を信じられないようで不安そうな顔をしている。
勇馬は店の金庫から白銀貨1枚を取り出し、彼女の手に握らせ微笑んだ。
「まずはこれで借金を返してきて。買取に関しても俺から店長に頼んでみる。もしダメだったとしてもその白銀貨1枚分だけになっちゃうけど、その分のポーションを俺が買い取るからさ」
「う゛ぅ~わ~~~ん。あ゛り゛がどーござい゛ま゛ず」
涙だけではなく鼻水まで流して泣く女性は、勇馬の手を握りブンブンと上下に振って感謝の言葉を述べる。
結構な力の強さで振られ、勇馬の頭までガクガクと揺さぶられた。
「ちょっ、待って。痛い痛い」
「ご、ごべんなざい・・・」
ハンカチで涙と鼻水を拭いた彼女は落ち着いたのか、再度お礼を言って意気揚々と借金を返しに店を出て行った。
店に置いていかれたポーションを眺め、勇馬は頭を掻いた。
これが本当に店の下級ポーションと同じ効果があるのか勇馬には分からない。
しかし勇馬には根拠のない、自分でも何故だか分からない妙な確信があった。
何というか彼女のポーションは濃い気がするのだ。
液体の緑の色が濃い訳ではないし、粘度の問題でもない。
飲んでもいないので味や成分も分かりはしないのだが、本当に何となく濃く見えるのだ。
「勝手な事しちゃったよな……ニックさんに怒られなきゃいいけど」
ダメだったら渡した白銀貨は、日当と相殺してもらえば大丈夫だろうと勇馬は誰も居なくなった店内を眺めた。
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