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2,大貴〜学校〜

 学校は町の中心部よりも外れの位置に存在していた。住宅街らしきところを通ってきたが、やはり民家の数は少ない。それでも大貴が予想していたよりも、ずっと都会に近い家が立ち並んでいた。完璧に木造だな、という民家ももちろん建っていたが、多くは都会で建っていてもなんら違和感の無い家だった。それを深雪に話すと、村の中心部には商店街があり、コンビニやファミレスもあると話した。これも大貴の想像していた村とはかなり異なっていた。

 学校は、小さくはない。小学生から高校生がすべてひとつの学校に収まっているため、当然といえば当然かもしれないが、校舎は都会ではまず見かけることのできない木造建築。戦前から存在しているのではないかと思うほどの外観を有している。これはまさに大貴の想像通りだった。放課後ということもあり、校庭では多くの子供たちが遊んでいる。

「珍しいでしょう? 私は古風で好きなんですが、町からの人にすればやっぱり不便ですからね」

 深雪は校舎を指差しながら言った。大貴も校舎を眺めた。

「いつ建てられたんですか?」

「役場に行けば正確にわかるんですけど、もう50年以上前だって聞きましたね。はじめはあんなに大きくなかったんですよ」

「どういうことですか?」

 大貴は深雪の顔を覗き込んだ。

「この村ができた当初は、学校なんて作るお金が無かったから、みんなでここに座って授業を受けていたんです。先生も村の大人が集まって、必死で教えていたんですから」

 おばあちゃんの受け売りですけど、と言って、深雪は舌を出して笑った。

「最初は何も無いところに座って、それからみんなが机とイスを持ってくる。それで村の人がみんなのために屋根を作ってあげて、壁を作って、それで小さいけど学校ができる。私が生まれたときにはもう校舎があって、ちゃんとした先生もいたからよくわからないんですけど、昔の人はすごいですよね。当時は大変だったろうけど、楽しそうじゃありません? そうやって勉強するのって」

 都会育ちの大貴にとってあまり想像しにくかったが、その考えに納得できる部分があった。首を縦に振り首肯した。

「でも、確かこの学校は取り壊されるんじゃないですか? 村の再開発事業で」

 ふっと深雪の表情が翳った。声に出すまいとしていたのかもしれない。

「あ、でももっと設備の整った学校ができるそうじゃないですか」

 大貴はしまったと思い、すぐに言葉を繕った。狼狽が声に出てしまい、大貴の声は妙に甲高くなってしまった。

「気になさらないでください。もう了承していることですから…………でも、」

 学校を見上げる深雪の視線は、切ないほど寂しげな瞳をしていた。口紅をしていない、純粋な淡い赤色の唇がかすかに震えている。

「村のみんなの、かけがえのない場所だったのにな」

 その言葉が、ずきりと大貴の心をついた。語尾は消え入るように弱く、それが一層大貴の心をえぐる。大貴はただ黙り込むことしかできなかった。

「すみませんね。ちょっと辛気臭くなっちゃって」

 深雪はくすっと小さく笑うと、手を上げて大きな声で男の名前を呼んだ。その方向を見ると、四人の学生服を身にまとった男子がこちらに視線を向けている。そのうちの一人がこちらに歩み寄ってきた。

「私の弟の裕紀です」

 裕紀と紹介されたその子は柔和そうに目を細めると、左手を差し出してきた。

「こんにちは。裕紀です」

 それに合わせて大貴も左手を差し出した。

「どうも、山中大貴です」

「姉が案内役で心配していたんですよ。何かお困りのことがあれば、気軽に声をかけてください。村のことはたぶんぼくのほうが詳しいので」

「こら、裕紀」

 深雪はこつんと裕紀の頭を小突いた。それでも裕紀は柔和な顔を崩さず、残りの三人を指差した。

「彼らもぼくと同い年です。左から悟、勝也、圭介です」

 三人に視線を向けると、揃って頭を下げてきた。それに合わせて大貴も頭を下げる。

「みんな姉がいますよ。今日は神社のほうにお泊りと聞いたのですが」

「えっ、何故それを」

「小さい村ですので、すぐに情報は広まってしまうんです」

 微笑を崩さずに裕紀は言った。こうしてみると、顔の造形は深雪に似ている。二人とも美男美女であるからなのか、その顔を見ていると少しばかり圧倒されそうになってしまう。特に裕紀の微笑は、感情表現以上の意味を含んでいるようにも感じる。それが何なのか、うまく判断することはできないが。

「神社にいる巫女は圭介の姉です。真弓さんといいます。歴史のことは彼女に聞くのが一番ですよ」

「巫女さんか。歴史は町の資料で調べているといっても、やっぱり現地の人のほうが詳しいだろうからね。聞いてみるよ」

「町の資料だと、この村の歴史はどのように書かれているのですか?」

 裕紀の言葉、何気ない言葉のはずなのに、大貴は何か引っかかるのか、眉をしかめた。何かが引っかかるような、それでいて何でもないような、つかみどころのない感覚。それが大貴の中で渦巻いていた。

「あの、どうしました?」

「あ…ああ、ごめん」

 呆けていたようだ。不思議そうな目で裕紀が大貴の顔を覗き込んでいる。大貴は咳払いをし、背筋に力を込めた。

「そうだね。町の歴史だと、この村は雨を呼ぶ神を祭るためにできたと言われているね。神事を行うために町から派遣した人達によって作られた神聖な村。たしかそう書かれていた―――――」

 記憶を手繰るように話しているため、大貴は気づいていない。それを聞いている裕紀の顔が強張っていくことに。その目に込められているのは、明らかな怒り。

「それだから、この町に住む人達は神の申し子という人もい――――」

「すごいですね。大貴さん。そんなに勉強なさっているなんて」

 深雪が感激したように大貴の肩を抱いた。尊敬のまなざしを大貴に注いでいる。大貴は恥ずかしくなり視線を中空にそらした。ふらふらとなんとか話題を変えようとして、視線を動かした。

「本当に勉強なさっているんですね。ぼくも見習わなくては」

 深雪の後ろから裕紀が顔を出した。その顔はやはり微笑んでいる。

「じゃあ、次は沼に行きませんか? 一応、あそこも歴史に関係しているんですよ」

「ああ、はい。お願いします。それじゃあ裕紀君くん、うしろの子にもよろしく伝えといてくれないか」

「ええ、わかりました。よい記事を書いてくださいね」

 大貴は手を振ると、深雪に手を引かれ学校を出て行った。


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