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二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。  作者: さな
三周目の偽物賢者は教会サイドにつきました。
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魔王の悔恨


ルーディと引き合わせたあと、アガレスは、兪貴を眠りにつかせ、寝台にそっと横たえた。


「その子、大丈夫なの?」


「何がだ?」


「なんというか・・・手負いの獣みたいよ」


「傷は治した。問題ない」


「・・・・・・そう」


 ルーディが何を聞きたいのか、アガレスは察しはついていたが、わざと確信には触れなかった。アガレスは、部屋にあった鏡の前に立って、変化の術式を発動する。発動と同時に姿がみるみる変わっていった。銀の髪は黒に、赤い目は黒に、肌は雪のように真っ白に。引き締まった体型は、しなやかで華奢な体つきに、耽美な雰囲気は、冴え冴えと冷たく、変化する。


ーーアガレスは、天城 兪貴と瓜二つに変化した。


「あとは任せた。私は、しばらく留守にする」


「わかったわ。ミーヤの手筈通りに進めるわね」


 アガレスとルーディは、部屋を出て、それぞれの道へと分かれた。


「陛下、準備はできております」


 魔王軍の側近、シェイドがすぐにアガレスに侍る。アガレスは一つ頷いて、足を止めると、転移の魔法陣を発動させた。アガレスが転移で降り立ったのは、ミラコスタ王国の王都から少し離れたところにある街だ。


「陛下、お待ちしておりました」


 転移陣の座標の目印となるよう待機させていた数人の部下たちが、静かに礼をした。あらかじめ伝えてあるのもあるが、シェイドを連れているため、姿を変えていてもしっかりとアガレスだと認識されている。


「目標を焼き払ったあと、すぐに帰還する。お前たちはここで待っていなさい」


「「はっ!!」」


 アガレスは、彼らを結界で包んで、その場を後にした。

 そのまま目的の場所に向かいながら、アガレスは、ある人から譲り受けた純白の剣を召喚する。この剣は、一握りの天使が生涯に1本しか作れない特別な剣であり、聖剣と呼ばれている。聖剣を手にすれば、本来は天使しか扱えないはずの悪魔を殺す白炎を操ることができた。


 行き交う人々に奇異の目で見られながら、アガレスは、目的の場所にたどりつく。その場所は、アシュマール商会の支店だ。


「いらっしゃい!今日は、」


 アガレスに気づいた店員が声をかけてくるが、構わず剣を振るった。往来の真ん中で見境なく、剣を振るえば、軌道に合わせて、白炎が吹き荒れる。白炎は、アシュマール商会の支店を包み込んで、焼き払う。それだけにとどまらず、周囲の建物を巻き込んで、どんどん燃え広がっていく。すぐに人々の悲鳴が上がった。

 アガレスは、アシュマール商会の支店が完全に燃え尽きたのを確認して、踵を返す。無関係なこの街の住民を理不尽に殺戮するような真似を好んで行なっているわけではないが、必要とあらば実行する非情さは持ち合わせており、何より、アガレスは兪貴のためならば、どんなことにでも手を染める覚悟を持っていた。


 人々が炎に巻かれ逃げ惑う地獄絵図を尻目にアガレスは、部下の元に戻ると、転移陣を2つ発動させた。一つは、この場に待機していた部下を魔王城へと送り返す陣、もう一つは、また別のアシュマール商会の支店へと向かう陣だ。

 アガレスは、一つ、また一つと支店ごと各国の街を焼いていった。今日だけで10もの街が犠牲になった。これは、アシュマへの嫌がらせを兼ねた時間稼ぎだ。

 これから一ヶ月、兪貴が力を蓄える間、アガレスが兪貴の姿で支部を焼いて回る。アガレスが魔王城に乗り込んでくる前に行動を起こす必要があった。


「・・・陛下」


 街を焼いて周り、ようやく元の姿に戻ったアガレスに対して、付き従っていたシェイドは戸惑うように呼んだ。シェイドが見てきたアガレスは、無辜の民を容赦なく殺戮するような王ではなかった。武力行使するにしても大義があり、公明正大で統治能力に長けた偉大な王だった。それが今や、天城 兪貴という小娘一人のために手を血に染めている。


「なぜここまでアマギに協力するのですか」


「あの子に償うため、あの子の望みは全て叶えるべきだと信じているからだ」


 アガレスはそれだけ答えて、シェイドに下がるよう指示した。アガレスには、悔やんでも悔やみきれない記憶があった。それは、17年前、賢者が自分の世界に戻ってから、200年が経とうとしていた頃のことだ。


 アガレスは魔王城で魔王イフリートに仕えていた。仕えていたといっても監視の役割が強い。キールが魔王イフリートを倒した後、この魔大陸をアガレスが支配する手はずになっている。


 先ほど、キールが魔王城に乗り込んできたと報告があった。魔王城に仕える魔族の避難を完了させ、アガレスは、決着を見届けるべく、大広間に急いでいた。


「-----、ス。---こえ、すか?---」


 かすかな声がした。誰かが、念話を繋ごうとしているらしい。ティタニアやキールであれば、すぐわかるが、随分たどたどしい念話だ。何か、緊急事態だろうか。

 手近な部屋に入って、鏡面の前で、念話のつながりを強くする。そして、術式を展開し、鏡面に相手の姿が映るよう調整した。


「・・・誰だ」


「ああ、よかった。ようやくつながりましたね」


 そこに映ったのは、賢者だった。確か30近い青年であったはずだが、今は、10代半ばの少年の姿をしているようで、随分と幼くなっている。


「ミーヤか?」


「はい、そうですよ。そういう君は、アガレスであってますか?」


「ああ…」


「私としては、2ヶ月ぶりなのですが……もしかして、そちらでは結構時が経ってます?」


 半年、という言葉にアガレスは驚愕した。

 賢者は異世界に渡ったことで、術式が使えなくなったか、何かしらの問題が発生して、連絡が取れないのだと思っていた。実際、こちらから連絡しても繋がらなかったのだ。


「賢者が帰還してからおよそ180年後だ。こちらからはなぜか連絡が取れなかった」


「180年!?それはまた…こうも時の流れが違うとは、予想外でした。私が元の世界に帰ってきたら、あなた方と30年過ごしたことは、なかったことになっていました。姿も異世界にいった当初の14才に戻っていますし、そういったことが関係しているのかもしれませんね」


 なるほど、通りで記憶より若い姿になっていると思ったわけだ。


「180年となるとアウローラは?」


「お前たちが、そちらの世界に帰って、20年後くらいに病死した」


「そうですか…、アウローラがそんなに早く」


 賢者が実感がなさそうに呟いた。無理もない。彼の記憶にある母は、元気そのものだったのだから。


「ところで、ラエルは…?」


 賢者の時間が巻き戻ったのなら、一緒にいたラエルに影響があっても仕方がない。


「彼女は、そのままの姿でこちらに来ましたよ。ああ、それと先日子供が産まれました」


 賢者が一度、鏡面から離れた。そして、一人の赤ん坊を抱いて戻ってくる。


「兪貴です。可愛いでしょう?このことを報告したかったのですが、残念ですね…」


 賢者の腕の中で、赤ん坊はぐっすり眠っていた。あの時、ラエルの中にいた子が、この子なのか。彼女のいう通り、長い時間がかかったが、ようやく会えたのだ。


「ラエルは体調を崩しているのですが、じきによくなるでしょう」


「大丈夫なのか?」


「ええ、大丈夫です。それより、私が14才に戻ってしまったので、戸籍が複雑になりまして…。この子は、私の両親の養子になりました。だから、娘ではなく、妹として育てることになってしまったんです。精神年齢が30過ぎていることを考えると非常に複雑ですよ」


 ため息ついて、賢者がぼやく。そういえば、賢者の世界では、20歳が成人だったか。そう考えを巡らせたところに、ドン!!と非常に大きな音がした。


「おや?まずいタイミングで連絡してしまいましたか?」


 大きな音に赤ん坊が起きてしまったのか、ふにゃふにゃとぐずりだす。


「今、クラウンの手先の妖精とキールが戦闘している。私はその後片付けをするために、待機しているところだ」


「では、一度切った方が良さそうですね。ああ、でも、そちらからはかけ直せないのでしたっけ?」


 また連絡してもらうにも何十年単位でかかってこないかもしれない。


「念話の術式を繋いだまま、持ち運べるものに移してもらうことは、できますか?」


 賢者に言われた通り、念話の術式と姿見の術式を混ぜて、彼の手に持っている本に移す。世界を跨いでもアガレスの術式は作用するらしい。アガレスもそれを見届けて、鏡面から所持していた懐中時計に移す。


「繋いでいる間は、時間の流れも同じでしょうから、用事を済ましたら知らせてください。私は、兪貴をラエルのところに連れて行きますので」


 ぐずる赤ん坊を不慣れな手つきで賢者があやす。


「ああ、わかった」


ーーこの選択が過ちだった。たとえ、何十年と連絡が途絶えようと、念話の術式を、異世界とのつながりを断ち切るべきだったのだ。


 肉体から追い出されたキールの精神が、アガレスの術式の気配を嗅ぎつけ、異世界にわたるまであと、数刻。


 キールが術式伝いに異世界に渡った先で、生まれたばかりの赤子を見つけるまで、あとーーー



『ーー私が君の体を使ってあげるよ!』







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