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皇子さまは今日も最弱娘に振り回される  作者: こもれびの空


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苦渋の決断

 ニルヴァはアストラル皇帝に向かって熱弁をふるっていた。

 いかにルーナが虚弱であるか。

 予言の力と引き換えに自分を守る力を持たないこと。

 生きる意欲が弱く、すぐに食事や睡眠を忘れること。


 異様なくらい存在感が薄く、侍女や近習の目をすり抜けて行方不明になる事。

 見つけた時は大抵高熱に魘されていること。

 いかにルーナの生存確保が難しいかを並べたてた。


「それは、実に難儀な姫であるな。

 貴公もさぞやご苦労したことであろう」


 ニルヴァはようやく話が通じたと安堵した。

 しかし……


「だそうだが?そなたは自分の婚約者を守る器量はあるかな?レオニス」


 いつの間にかレオニス皇子がこの場に隠れていたのだ。

 しかも、ルーナとレオニスとの婚約が既定事実化されている。


 なんという事だろう。

 若くても、さすがは世界を統べる皇帝だ。

 世間知らずな龍には出来ない芸当だ。

 これだから人間は厄介なのだ。


 この状況でレオニス皇子の選択肢は無い。


「勿論ですとも父上。婚約者は私が守ってみせます」


 ほら、言わされてしまった。

 皇子はきっと皇帝に苦情を申し立てに来たはずなのに。

 ニルヴァはこう言うしかなかった。


「では、皇子殿下。半年だけお預けいたします。

 半年後に迎えに参ります。

 問題があるようなら、お気軽に返却ください。

 すぐに引き取って帰ります」


 まさかの返却可能宣言に皇子もぽかんとする。

 婚約者の返却なんて前代未聞。

 しかもその婚約者自身が想定外の生き物らしい。


 思わず皇子は「分かった」と返事した。

 皇帝のこめかみがひくりと動いたのを見てニルヴァは溜飲を下げた。

 やられてばかりいると思うなよ。


 そのころおっとり娘は、美しく並べられたプティフールを堪能している。

 母親と同じで食べるのは大好きなのだ。

 ただ、他のことに気を取られて忘れてしまうだけで。


「ルーナ。結婚というものは、好きな人とする方がずっと幸せなのよ」

 

 リゼの言葉にルーナは反論する。


「だってお母さま。私はこの国の皇后にならないといけないのよ。

 それが運命だもの」


 リゼはルーナの手を取って真剣に訴えた。

 

「いいこと、ルーナ。よく聞いてちょうだい。

 お母さんも昔、12歳で生贄として殺されると予言されたわ。

 でもどう?お母さんはおとうさんと結婚してこうして3人も娘を産んだ。

 運命は変えることができるのよ」


「お母さま。世界は滅びの運命に向かっています。

 運命を変えるためには。私が皇后にならないと」


「ルーナ。ほかに方法があるかもしれないわ」


「駄目なの。お母さま。運命の鍵を握るのは私の孫娘なのだもの

 結婚しないと、孫なんて生まれないのよ」


 リゼは言葉が出なかった。

 リゼの孫娘。

 それはもしかしたら30年くらい先の出来事かもしれない。

 予言者の瞳はどれほど先を見据えているのだろう。


 ルーナを止めることは出来ない。

 でも、もしかしたらレオニス皇子は違う選択をするかもしれない。

 ルーナは他の女性とは違いすぎる。

 いくら皇帝の命令でも、皇子がルーナを嫌えば皇帝といえども

 ゴリ押しまではしないだろう。

 たぶん。


 そこにニルが戻って来た。


「ルーナ、ルーナはお試しでレオニス皇子と一緒に暮らすことになった。

 でも半年だけだ。

 半年経ったら、お父様とお母さまが迎えにくる。

 その時に選んで欲しいんだ。

 お父様と一緒に住むか、レオニス皇子と一緒に住むか」


 それを聞いてルーナは、ようやく幼い子供の顔になった。


「私、お父様とお母さまと一緒がいいの」


 子供ならば当たり前の願い。

 それを言葉にしてくれてリゼは胸がいっぱいになった。


 そうなのだ。

 ルーナはまだ6歳の子供なのだから、未来なんてもっと先に考えればいい。

 ニルが半年先の選択肢をもぎ取った。

 あの皇帝を相手に。


 大丈夫。

 私の娘はきっと幸せになる。

 リゼとニルは愛娘をぎゅっと抱きしめた。

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