仕組まれた罠
答えは判り切っていると言い切るカールをレオニスは面白そうに見た。
「それでは正解をお教え頂きたいものですな」
「この絵を描いたのは、お前だろう?レオニス皇太子殿下?」
レオニスはニヤリと笑った。そのまま続きを待つ構えだ。
「何もかもちぐはぐすぎる。
大体が法王の逝去と北の間に闇精霊が捕らえられた時期も違い過ぎるが、一番ちぐはぐなのは、お前だ!」
「僕のどこがおかしいと言うのです」
「お前は、皇太子として育てられ、常に皇太子として大局を見て来た人間さ。
僕もそうだから分かる。
そんな人間がこうも後手後手にまわるもんか。
だいたい前回プロイセン王国に来たのだってそうだ。
皇太子妃の里帰り?
馬鹿馬鹿しすぎるだろう?
どうせ、今回の根回しの為に来る必要があったのだろう?」
「それでは、この話自体が嘘だと言うのか?」
「あぁ僕は、前法王をよく知っている。
あのお方が、後世の憂いになるような代物を、残して置くこと自体ありえない。
民がなぜあの法王を、ああも慕ったと思っているんだ。
人格者とは、ああいう人の事を言うんだろうなぁ」
その言い方が余りにも情が籠っていたので、レオニスも納得した。
こいつも法王に心を許していたのだ。
「どこまで読んだ?聞かせろよ」
「番の為なんだろうなぁ。前回は首魁しかとらえていない。
根が残っているのが気になったんだろう。
それでこんなバカバカしい茶番を組んだ」
「プロイセン王国もアストラル皇国には恩義があるからなぁ。
協力を取り付けるのも簡単だったよね?
それにアルヴィス前侯爵の欠席理由も笑うしかなかったしな。
どうせアルヴィス前侯爵が、ミゼラブル法王を説得しに行っていたんだろう?
だからあの時、王宮には来れなかった」
「でも嘘にもいくばくかの真実が含まれるものだ。
宝玉の話は本当らしかったからな。
元々は宝玉に魔法を付与していたんだろうと思ったのだが、どうだ?」
「正解だね。宝玉の魔法は、あの後神龍が解除して、宝玉は古龍に礼として渡したみたいだな。
7色のダイヤモンドだったよ。
それは今、父上の王杓になっている」
「そして絨毯の方は罠だな。
敵が魔法陣を展開すれば、面白いことになりそうだが?」
「あぁ、固定魔法が展開する。その場にいる全員が石のようになって動けなくなる。
死ぬことはないぞ。捕縛が間に合えばな」
「北の間の闇精霊は、とっくに古龍が始末したのだろう?」
「あぁ、枢機卿共々な。元々龍は何時までも根に持たない。
さっさと処分して終わりだ」
「しかし北の間の伝説は、この計画以前からあっただろう?」
「それはミゼラブル法王の仕業だな。
北の間を締め切って一罰百戒を狙ったんだろう」
「ラインハルトは聞かされていなかったようだから、こちらで知っているのはプロイセン王とダンテス法王」
「それにローゼンベルグ伯爵とヴィクトール・フォン・アルヴィス前侯爵、そしてアドラー・フォン・アドルフ辺境伯。彼らには手助けしてもらう必要があったからな」
「上手く絨毯が盗まれたのだから、作戦は成功って訳か?
アストラル学園の漆黒の梟達は、引き上げさせただけだろうけれど、いなくなった学園生達はどうした?」
「1人は漆黒の梟に勧誘して承諾済みだ。
プロイセン王国の出身者は、辺境伯家で騎士になったのと、ローゼンベルグ伯爵家で雇われた奴だな。
セレスティア王国の出身者とルーンフェル王国の出身者も母国での仕事を希望しているから、事が済むまで待機してもらっている。
落ち着いたら仕事先は斡旋する約束だ。
優秀なのばかり消えても不審がられるだけだったからな」
ブルーノが説明した。
「きつい言い方だぞ、それ」
「仕方がない。漆黒の梟は生半可じゃ務まらない。
ローゼンベルグ伯爵の所は民情調査だから安全なんだ」
「見事な推理だね、カール公子」
「やめてくれよ。僕は苦手なんだよ。
なんていうのかな。絵がずれている感覚。
違和感が半端なかったんだ。前回、会った時からさ。
そういうの、気持ち悪くなるんだよ」
「それはすまなかったね。まぁ気持ちは僕も分るけれどね」
「それで?大団円って事でいいのか?」
「王宮に報告が上がっているのじゃないかな?
アルヴィス前侯爵がルーンフェル王を説得できたようだから、ルーンフェル王の騎士団が捕縛に向かった筈なんだ」
「ミゼラブル法王は神殿騎士を動かさなかったのか?」
「神殿騎士は神殿の警護のためにいるんだ。簡単に動かせない。
だから老獪なアルヴィス前侯爵に行ってもらう必要があった。
ルーンフェル王にはお礼をしなくてはならないから、この後ルーンフェル王に謁見に行くことになる。
なかなかアストラル皇国に帰れそうもないよ」
「それにしてもデルマー商会は、今回はとんだとばっちりじゃないか!
まさか、デルマー商会の会頭にも根回し済みか?」
「がめついんだ!あいつ。あんなに好々爺の顔しててさ。」
どれだけ毟り取られたのかレオニスがぐったりしている。
「番の命が金で済むなら良かったじゃないか」
カールは努めて明るくそう言った。
「とにかく王宮は待ちかねているでしょう。ひとまず王宮に向かわれては?」
ダンテス法王に勧められて、一同はそのまま王宮に向かう。
「僕は帰るよ。エリーゼが待っているからね」
「何しに来たんだよ、結局、お前は!」
「決まっているだろう?お悔みを言いに来たんだ。
ルーナ妃は激おこじゃないかな?
しかも真っ直ぐ帰る訳じゃないんだろう?」
「お前!性格悪すぎだろう?」
「良く言われるよ。それじゃぁな」
カール公子はさっさと帰ってしまった。
「なぁ、ブルーノ。もうルーナにバレてると思うか?」
「ルーナ妃の御友人にデルマー商会の会頭の娘御がいたよなぁ。
しかもセレスティア王国の王太女も。
あそこの国は表向きは海運業で潤っているようですが、情報の売り買いも盛んなんだ。
つまり……。」
「バレてる。全部」
「多分な」
「仕方ない、ともかく王宮で結果確認をしたら、急いでルーンフェル王に面会するぞ」
一方こちらは塔の中。
「どういう事なの?行方不明の学生が大叔父様の所で働いていた?
しかもアドルフ辺境伯領で騎士になった子までいるの?」
「それだけじゃないぜ。殺された筈の漆黒の梟5名がアストラル皇国に帰国してる」
「間違いないのね」
「当たり前だろ。ルーンフェル船籍の船に乗船しているんだ。間違えようがないさ」
「ありがとう、アーサー。なんでも好きなものを言って頂戴」
「そう来なくっちゃ、それじゃぁ早速。アーティファクトで海を支配できるものを出してくれ」
皇帝の玉はまばゆく光ると、やがて青い大きな宝玉が付いた首飾りが出現した。
「それはどういう力を持つの?」
アーサーは首飾りを持つとじっと眺めていたが、やがて満足気に頷いた。
「報酬を貰い過ぎたたようだ。
残りは必ず返すから、いつでも言ってくれ」
「そんなに凄い物なの?」
「あぁ、この宝玉は嵐を鎮められる。船乗りにとっては垂涎の宝だ。
しかもこの首飾には、青い宝玉が7つも付いている。
これは宝玉を荒れた海に投げ込んで使うんだ。
つまり、7回も使える」
「そんなに凄いアーティファクトを皇帝陛下は御持ちだったのね。
どうしよう。勝手に渡してしまって、叱られないかしら?」
「大丈夫だよ。皇帝から貰ったのはルーナだ。文句を言う筈はないさ」
「それにしても、全部嘘だったなんて、レオニスったら私まで騙して!」
「私もソラに騙されたのよ。許せないわ!」
「フウカ、ソラをこっちに連れてきて。
お話しをしたいわ」
「ちょっと待って、修羅場になりそうだから、私たちはこれで……」
「ごめん、もう少しだけ待ってて。
場合によっては船を手配してもらうから」
呼び出されたソラは状況を一目みただけで、全てバレたと悟ったらしい。
青い顔をしている。
「ソラ、質問は一つだけよ。レオニスはこの後どこにいくの?」
「えーと、今頃はプロイセン王宮にいる筈なんだけど……」
「まっすぐに帰るのかしら?」
「いや、それは無理だね。ルーンフェル王にお会いする筈だ。
今回は無理を通したから」
「聞いたでしょう?アーサー。
さっそく借り分を返してもらうわ。
ルーンフェル王宮でレオニスを待ち伏せするわよ。
ソラ、情報漏洩は許さないわよ。
わかっているわよね」
ソラは必死で頷いた。
この場合、自分が助かるなら喜んで弟を人身御供に差し出す気が満々のソラだった。
「あのう。僕はここに残っても?」
「ソラ、あなたが離れたら私がどうなるか知っていて、そんな事を言うのかしら?」
「フウカ、まさか君までルーンフェル王国に行くつもりじゃないよね」
「行くに決まっているでしょう?
こんなに面白い事、他にないじゃない」
「フウカ、君ってば。」
「乗船者は3名ね」
「5名だ。アローとセデスを護衛に連れていく。
そうしないと、僕がレオに殺される」




