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皇子さまは今日も最弱娘に振り回される  作者: こもれびの空


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幽閉された皇太子妃

 ソラが皇子宮に戻ってくると、フウカが顔を輝かせて飛んできた。


「ソラ、お帰りなさい。早かったのね。

 今夜は一緒に夕食を食べることができるのね。

 ここのところずっと帰りが遅いんですもの」


 フウカはいつもソラがいるだけで楽しそうにしてくれる。

 ずっと独りぼっちだったので、人恋しいのだ。

 専任の侍女もいるというのに、警戒心の強いフウカは、なかなか馴染めないらしい。

 龍が人間に馴染めというのも、可哀想な話なのだが。


「フウカ。今日はお願いがあるんだ」


 ソラの真剣な様子にフウカはきょとんとした顔になる。


「何?どうしたの?」


「皇太子妃殿下が幽閉されることになった」


「ソラ、何言っているの?

 そんな事ある訳ないでしょう。

 皇太子殿下はルーナに夢中なのよ。

 ソラもソラよ、そんなデマを真に受けるなんて。

 あなたは殿下方のお兄さんなんだから、もっとしっかりしなくっちゃ」


「フウカ。信じられないのは当たり前だ。

 これは僕が殿下に進言したことだ」


 フウカが怒りに満ちた目になった。


「信じられない。ルーナを監禁しろって?

 それを貴方が?

 ソラ。貴方なんて大嫌いよ。出て行って頂戴」


「ルーナが殺されるかも知れないんだ」


 ソラは叫んだ。

 フウカに理屈を理解させるのは時間がかかりすぎる。


「なんで?それなら私が守ってあげるわ。

 すぐに行かなくちゃ」


「待って、フウカ。

 本当に君がルーナを守ってくれるの?」


「当たり前でしょう。ルーナは私のお姉さんなんだから。

 ソラが守れないなら、私が守ってあげる」


「助かった。最初からフウカを頼れば良かったんだ。

 それじゃルーナの隠れ家に案内するよ。

 誰にも内緒だから、侍女もいないんだ。

 ルーナは魔法が使えないから、生活全般フウカの魔法が頼りだけれど大丈夫かな」


「当たり前でしょう?

 私は風龍なのよ。魔法なんて簡単よ」


 自信満々で小鼻がぴくぴくしている。

 ソラはフウカをギュッと抱きしめた。


「ありがとう。ありがとう。

 部屋に入ったら、すぐに結界を張って誰も入れないでくれ。

 誰に何を言われても開けてはいけない」


「大丈夫よ。

 ソラが迎えに来るまで、絶対に誰も入れないわ」


 それからようやく気がついたみたいだ。


「あれ?ソラは一緒じゃないの?」


「そうだよ。ルーナはフウカと二人っきりになる。

 守ってくれるんだろう?」


「うん、でもソラがいないなんて」


 ソラは可愛いフウカの髪を撫でてやる。


「ルーナもフウカもずっと隠れている訳にもいかないだろう?

 だから僕とレオニスで、悪い奴らをやっつけてやる。

 それまで、我慢してくれるよね」


「わかった。

 我慢するから、早く迎えにきてね」


「フウカはどれくらい僕と離れても魔力を受け取れるの?」


「この街にいれば大丈夫よ」


「街というのは皇都のことだね。

 かなり広い範囲で動けそうだな」


 ソラがそんな独り言を呟くとフウカは爆弾発言をした。


「大丈夫よ。私はソラの居場所がいつでもわかるもの。

 困ったら、いつでも助けにいくわ」


「フウカ。さっき言ったよね。

 絶対にルーナの側を離れてはいけない。

 結界を解いてもいけない。

 約束してくれ」


 ソラに肩を揺すぶられて、がくがくしながらフウカは言った。


「大丈夫よ。約束するわ」


「絶対だぞ」


「約束するわ」


 ソラはかなり怪しいと思いながらも、引き下がるしかなかった。



 レオニスはどう切り出すべきか悩んでいた。

 皇太子宮に行くと、ルーナは待ちかねていたようだった。


「レオ、どうなったの?敵の目星はついた?」


 レオは覚悟を決めた。

 ルーナに嘘をついても無駄だろう。


「ルーナ、君を塔に幽閉することになった。

 侍女兼護衛にフウカを付ける。

 大人しく待っていて欲しい。頼む」


「私を幽閉するってことは、プロイセン王国が絡んでいるの。

 まさか。

 プロイセン王国にはリリアーヌお姉さまがいるのよ。

 そんな事する訳ないわ」


「わかっている。

 元凶は君の父上だ」


「お父様が!一体何が起きているの」


「詳しいことは、塔で話す。

 とりあえず、移動するぞ」


 ルーナは黙って頷いた。

 この部屋から情報漏洩が起きるとは考えずらいが、幽閉先の方が安心なのだろう。

 ソラはルーナを抱き上げて転移した。

 元々思索の塔と名付けられたこの塔には出入口は存在しない。

 転移で出入りし、幽閉後に魔力無効化の術式を稼働させれば誰も出入りできない。


 勿論内部では魔法が使えるし、魔道具も豊富だから困ることはないはずだ。

 あくまでも外からの侵入を防ぐだけだ。

 無効化の術式は皇族でなければ解除できない。

 血を媒介にした魔法なのだ。


「まぁ、思ったよりも明るいし、広いのね」


「本も多いし、ボードゲームも楽器もある。やりたければ刺繍だって出来るし、絵を描いてもいい」


 ソラは罪悪感を打ち消すように言った。


「お茶を入れるわね。魔石もこんなに用意されているのね」


 ルーナは火の魔石を器用に使ってお茶の準備をする。

 その様子を眺めながら、レオニスはこれまでの経緯を話した。


「お父様にも困ったものですね。そんな危ない代物を精霊界から持ち出すなんて。

 その上に放置なんて!お母様が知ったら、随分叱られるでしょうね」


「その心配は無用だね。青龍は100年籠ってしまったのだから」


「どうぞ」


 レオニスにお茶を入れるとルーナは自分のお茶を飲む。

 平気な顏をしているが、紅茶を飲む手がかすかに震えている。

 ルーナはお茶を飲むことで、平静さを取り戻そうとしているようだが、今のところそれは成功していない。


 レオニスは皇帝から貰った、玉をルーナに手渡した。


「ルーナに、父上からだ。魔力が充填されているから、魔法が使えなくても作動する」


「これは何ですの?」


「父上の保管庫だそうだ」


「皇帝陛下の保管庫!恐ろしくて使えませんわ」


「使ってくれ。父上が言うには美味しいものがたっぷりあるそうだ」


「まぁ、では食料保管庫かしら?それなら安心して使えそうだわ」


 レオニスは皇帝がそんなしみったれた物を渡す訳はないだろうと思ったが、賢明にも何も言わなかった。


「プティフールが欲しいわ」


 ルーナがそう言うと目の前には、美しくも小さなケーキがずらりと並んだ。


「素敵ね」


 ルーナの憂いは少しは晴れたのかな?

 レオニスは安心したが、それはきっと別方向にルーナの覚悟が決まっただけだった。


 ソラもレオニスも自分の番が大人しく幽閉されるようなことがあり得ないことを、もう少し考えていれば分かった筈だった。

 しかしレオニスは、美味しそうなケーキを前に、すっかり満足しているように見えたルーナに安心してしまった。


 混ぜるな危険の爆弾娘を混ぜてしまったのは、レオニスとソラなのだから、何が起きても仕方がない。


 そこにソラとフウカが転移してきた。


「フウカ。ごめんなさいね。あなたまで巻き添えにしてしまったわ」


「いいのよ。ルーナ。ソラに約束したの。

 ルーナは私が守るから安心して!」


 二人が案外平静にこの状況を受け入れてくれたので、ソラもレオニスもホッとしていた。


 ソラもレオニスも番が泣いたらどうしようと、戦々恐々としていたのだ。

 泣いている番を放置して去るなんてできそうもなかったから。


「それじゃぁ、私達はもう行かないといけない」


「良い子にしているんだよフウカ」


 ソラがフウカを抱きしめている。



「すぐに解決して迎えに来るからな」


 レオニスもルーナをぎゅっと抱きしめた。


 二組の恋人たちは、しばらく名残惜し気にお互いを抱きしめていたが、やがてきっぱりと男たちが離れていく。


 もう何も言うことはない。

 後は一刻も早く愛する番を迎えにくるだけだ。

 ソラとレオニスの姿は塔から消えてしまった。


「行ったわね!」


「行ったわ!」


「それじゃぁ作戦会議よ」


「随分馬鹿にされましたものね」


「ええ、私達で敵を捕まえて、男どもをぎゃふんと言わせてあげましょう」


 ルーナとフウカは生き生きとして作戦会議を始めてしまった。

 監視もない場所に二人っきりにして安心するなんて、皇太子殿下も宰相閣下もかなり甘いとしか言えない。


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