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皇子さまは今日も最弱娘に振り回される  作者: こもれびの空


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光と影 

 ブルーノとソラの合同結婚式がつつましやかに行われた。

 公子と公女の結婚式なのだから華やかに行えばよいのに、ソラもブルーノもそれを望まなかった。


 二人とも異世界からの落ち人。

 家族も親族も異世界にいる。


 だったらブルーノもソラもこの世界の仲間たちだけで祝って欲しいと思ったのだ。

 ブルーノとソラはそれで良いかもしれないが、エーテル公爵がそれで良しとしたのはどうしてだろう?

 公爵家なら依子も多い。それを呼ばないなんて!


 リディアがこともなげに言ってのけた。


「お父様は、娘が皇太子の側近に嫁ぐとしても、公爵家が皇太子派閥に取り込まれたわけではないと示したいのです。

 元々面倒ごとが嫌いな人ですから」


「でも、リディアはそれでいいの?」


「それでなくても忙しいのに私事に時間を割きたくはありませんわ」


「社交界でリディアの評判に関わらないの?」


「逆ですわ、フィクトス家とエーテル家、そして宰相家の結婚式ですのよ。

 この結婚式への参加チケットはプレミアムものでしてよ。

 有効利用するに決まってますわ」


 成る程、さすがはリディア。心配することはなかった。


「フウカはキャンディが出席してくれるのよね。

 もっと華やかにしなくて良かったの?」


「冗談でしょう?余計なお金を掛けなくても結婚できるんですから。

 いいですか?予算は余っているので、そのお金で孤児院を作りたいの。

 お腹を空かした子供がどんなに惨めか、ご存じですか?」


 フウカはやはりソラの番らしい。

 自分に使うのはケチるのに人のためには潔くお金をばらまく。

 とてもよく似ている。

 夫婦というのは似るものらしい。

 

 だから結婚式は簡素だけれど、披露宴にはたっぷりとお金をかけた。

 お祭りのように誰でも参加できる。

 歌や踊りを披露したい人は、誰でも上がれる舞台が用意されていた。

 見物客は芸が気にいれば、備えてある花を舞台に投げ入れる。

 花はたっぷり用意されていたから、大抵は結構な花を手にする。

 舞台を降りる時には、その花の数だけ銀貨が貰えた。


 沢山の屋台が準備されていたから、料理人たちが腕を振るう。

 食材は全部無料で準備され、食べ物も無料だ。

 ただし、売り上げはきちんと記録された。

 売上分だけの報酬が料理人に払われる。

 しかも名前を知ってもらえば、自分の店の宣伝になるし、店を持たない者は就職のチャンスだ。


 商売人たちも大勢店を出したから、披露宴というよりお祭りそのものだ。

 もちろんノラロー自治区も大いに潤った。

 しかも宰相夫人の肝入りで、孤児院の建設計画も発表されたから、建築関連業者も仕事が出来て大喜びだ。

 リディアがちゃっかり孤児院への寄付を募っている。


「凄いわねー。これ経済効果、私達の結婚式以上じゃないの?」


「あぁ、さすがに異世界人は我々と発想そのものが違うのだろうなぁ」


 レオニスもすっかり感心している。

 新郎新婦が忙しく立ち働く披露宴なんて前代未聞だ。

 その代わりに、いたるところで温かい祝いの言葉をかけて貰っていた。


「おい、ブルーノ。よかったなぁ、綺麗な嫁さんじゃないか」


「ソラさまが結婚できると思ってなかったから、俺感激です!」


「フウカさま~。孤児院建設ありがとうございます」


「リディアさま、ブルーノをよろしくお願いします」


「あー、リディアさまだぁー。きれいだなぁー」


「フウカさまって、妖精みたいだねー」


 おめでとうの声は途切れることがない。

 とても良い結婚式だ。


「ねぇ、これも全部レオニスのおかげだね」


「何言っているんだ、ルナ。

 僕は今回何もしていないだろう?」


「ソラとブルーノを助け、引き上げてここまで育てたのはレオじゃない。

 レオがいなければ、この日は来なかったわ。

 誇っていいのよ。皇太子殿下」


「妃殿下に褒められて恐縮いたします。

 ルナ、ここまで一緒について来てくれてありがとう。

 これからも、よろしくな」


 私は思わず言ってしまった。


「当たり前でしょう。レオ。

 レオの隣にいるのは私だけなんだからね」


 レオニスは嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑った。


「やっと、言ってくれたね。ルナ。

 ずっとその言葉を待っていたよ」


 レオニスの瞳が潤んで見えたのは気のせいだ。

 きっと……。


 好事魔多しという。

 幸せな時ほど、何かが狙ってくるのかもしれない。

 いつものように3人娘で食事をしている時、キャンディが唐突に言った。


「ルーナあなた皇太子妃として、アストラル学園を視察したことはある?」


「いいえ、ないわ。私は基本的に皇都から出たことはないもの。

 残念だけど皇国の中ですら行ったことがある都市はないのよ。

 皇太子妃として、国を廻るべきよね」


 私はそんな事にも気づかない自分を恥ずかしいと思った。


「違うのよ、ルナ。

 ただ、昔の学園の友人から奇妙な事を聞いたから」


「奇妙な事って?」


「アストラル皇国は魔力持ちを学園で教育した後は、自由を許しているでしょう?」


「ええ、一応魔力を持つものが異端とされる可能性を伝えて、それでも帰国するものは帰国を許可しているわ。

 アストラルの国籍も与えているし、何かあれば大使館を頼るようにも言っている筈よ」


「そうよねぇ。どうも学院で奇妙な噂があるみたいなの。

 卒業生はアストラル皇国の奴隷となって、魔力を搾取されるから逃げた方がいい。

 逃亡のためのレジスタント組織まであるそうなの」


「そんな馬鹿なことがあるはずないわ。

 皇帝陛下も皇太子殿下も民を思って、あんなに一心に働いているのに」


 私はあまりな流言に怒ってしまった。


「落ち着いてルナ。

 私達は判っているけれど、学園の生徒は皇族を見たことがないの。

 それに本当に生徒の行方不明が増えているらしいわ」


「まぁ、おかしいわね。

 そんな話、まだ私達の所には上がってこないわ」


「だとしたら、もっと変よ。

 どこかで情報が意図的に抑えられているってことでしょう?」


「その通りね、キャンディ。貴重な情報をありがとう。

 ミリーの方はどうかしら?

 セレスティア王国、またはセレスティアから来た学園生に、何か奇妙な動きはないかしら?」


「どうだろうか?私も学園の状況は把握していない。

 早速探らせよう」


「ありがとう。

 こちらでも調べるけれど母国の人の方が、本音を話せるかもしれないから、助けて頂いてもいいかしら?

 この借りは必ず返すわ」


「私の方でも調べてみるわ。

 任せておいて」


「ありがとうキャンディ。

 必要な事があったら、何でも言ってちょうだい」


「皇太子妃のお墨付きか。ありがたく頂いておくね」


「私は早退させてもらうわ。

 ことは重大だもの」


 急いでレオニスの執務室に行くと、レオとブルーノ。

 それにクラウスまで集まっていた。


「情報は届いたようね。それで何か分かったの?」


「アストラル学園担当の陰が消えた」


「それって、消されたって事?」


「寝返ったってことは?」


 ソラの質問にブルーノがきっぱりと言った。


「それは100%ありえない。

 漆黒の梟に入るには、龍の誓約を受けなければならないからな」


 龍の誓約。

 それはクラウスが授けることの出来る制約だ。

 破れば命はない。


「漆黒の梟は、そんな事までさせていたの!」


 私が思わず叫ぶと平然とブルーノに言い返された。


「漆黒の梟は諜報機関だ。

 騎士たちよりも制約が厳しくて当たり前だ」


 騎士も誓約はする。

 けれどもそれは自分の名誉をかけたもの。

 失われるのは名誉であって、命ではない。


「学園に派遣された梟は何人なの?」


「教師が1名。生徒3名 使用人1名の5人だ」


「一個小隊。妥当だな」


「内生徒3名は見習いだ。戦力になるのは2名」


「それが全滅。救助信号もだせないまま」


「馬鹿な!捕まっているだけかも知れないだろう!」


「完全に仕掛けてきている。このアストラル皇国相手に!」


 レオニスはぎりぎりと歯噛みしている。


「クラウス、アウル達にはお前の誓約が掛かっている。

 残滓は追えるか?」


「やっているんだ。報せを受けてからすぐに。

 最後の場所は学園だ。以降、生命反応はない」


 シーンとしてしまった。


 ブルーノは

「すまない、少し席を外す。

 遺族に訃報を伝えるのは、俺の仕事だ」


 ブルーノは一番つらい仕事を自分でやるのだ。


 ブルーノに言われたのだろう、アウルの副官が入ってきた。


「ジン、見習いがいるとはいえ一個小隊全滅。

 敵の戦力をどう見る?」


「お言葉を返すようですが、着任していたのは諜報に特化した者たち。

 戦闘特化した人員ならば1名でも制圧は可能かと」


「どういうことだ。

 それでは丸裸で諜報員を派遣したと言うのか?」


「学園で、ここ100年荒事はなかった。

 諜報員といえども、戦闘訓練は行なっています。

 これは予測不能です」


「そうだな。すまなかった」


「いえ、お怒りは当然かと」


 多分一番忸怩たる想いをしているのは、ジン達なのだ。

 それに思い至って私達は粛然としていた。


「調査に人員を派遣しなければならないが」


「ブルーノは自分で行きたがるだろう。ジンは本部に残って貰えるか?」


「御意」


「皇帝陛下に報告に行く、ジンは投入部隊の準備を始めてくれ」


「畏まりました」


「僕もいこう」


「クラウス、龍は血を繋ぐ役割がある。雑事に関わるな」


「でも、全員僕の誓約を受け入れているんだ。

 放っておけるかよ」


「ダメだ、クラウス。龍を動かすことは出来ない。

 ここは漆黒の梟たちを信じてくれ」


「わかった、ただし行く前に龍の加護を与える。

 それが条件だ」


 クラウスは加護と言っているが、危険を察知したら飛ぶための目印を刻むつもりだ。

 そんなことは全員予想できたが、レオニスは了承した。


 危険な目にあわせないだけの戦力を投入すればよいのだ。

 とはいえ、皇国の諜報員を全滅させた。

 敵は待ち構えているに違いない。

 こちらは敵の正体さえも掴めていないのに。


「レオ」


 私が声をかけたら、レオニスは振り返りもせずに言った。


「却下だ、ルーナ。大人しく皇城にいろ。

 学院に行くのも許可できない。

 誰か、皇太子妃を居室へ。

 抜け出さないように見張りを厳重にしろ」


「ひどい!」


 私は、あっという間に自室に軟禁されてしまった。



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