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皇子さまは今日も最弱娘に振り回される  作者: こもれびの空


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ルーナの親友

 ルーナの学院生活は魔法学を、キャンディと受講する時。

 正確に言えば内職だ。

 魔石に魔力を入れる作業は、単位取得のためだけれども、報酬も一部還元されるから生徒たちからは内職と揶揄される。

 そんな時以外は、いつもポツンとひとりだ。

 年齢も一番下だし、皇太子妃というのも気軽に声を掛けられない理由だ。


 ルーナは別に気にしていない。

 キャンディひとりでも持て余しているのだから。


 そんなある日。

 セレスティア王国の姫君がルーナに声をかけて来た。

 セレスティア王の長女ミレイア姫だ。

 セレスティア王国は、実力主義で女性にも王位継承権を認めている。

 だからミレイア姫は女王候補第一位でもある。


「ルーナ皇太子妃殿下、ご相談したいことがありますの。

 少しよろしいかしら」


「ええ、ティールームに参りましょう」


「いいえ、よろしければ私の部屋にいらっしゃいませんか?

 私も殿下は2限目はフリーですよね」


 私の時間割を把握していらっしゃる。

 なんの用かしら?

 ミレイア姫は母国では、ほぼ王太女と目されている筈の才女なのに。


「もちろんですわ、ミレイア殿下」


 ミレイア姫の寮は王族用のものなので、小さいけれどちゃんとした館だ。

 この館の中は治外法権。

 アストラル皇国の法は及ばない。


 中にはいると、とても華やかで若い王女に相応しい内装だった。

 どこか海風が吹いているような爽快さも感じる。


「素敵なお屋敷ですね」


「ありがとう。インテリアが趣味なのよ」


「そうなんですね。キャンディが来たら大騒ぎしそうね」


「ふふふ、当たりよ。ここにある物は全部キャンディと選んだの」


「それで、明るいのに賑やかになりすぎていないのですね。

 キャンディは物を見る目が確かですもの」


 居心地のよさそうなティールームに案内すると、ミレイア姫自らテラスに通じるガラス扉を、大きく開け放った。

 さわやかな風と共に、部屋いっぱいに光が降り注ぐ。


 これでは誰も聞き耳を立てられないだろう。


「お座りになって。

 やはり思った通り聡明な方ね。殿下は」


 聡明なのはどっちかしら?

 でもこういう人は嫌いじゃない。


「どうかルーナと」


「では私も、ミレイアと、ルーナ。

 話が早い人は好きだわ。

 あなたの友人になりたいの。ルーナ。

 もし親友になれたらルナと呼んでも?」


「構わないわ。ルナと呼んで頂戴」


「ありがとう。ルナ。

 私はミリーと」


「ありがとう。ミリー。

 相談と言うのは、愛称で呼ぶことなのね」


「あら、他に用があるとは思わないの?」


「私にですか?それは無いんじゃないかしら。

 必要なら皇帝陛下に直訴なさるでしょう?ミリーは」


「あら、随分過大評価してくださるのね」


「いきなり、自分でテラスを全開放する方に他に何を言えと?」


「あら、それでもどこかに隠れているのでしょう? 

 あなたの陰は。

 そうねぇ、あの木の上が怪しいかしら?」


「申し訳ありません。後で叱っておきますわ。

 確かに風と逆方向に葉が揺らぎましたね」


「それに目的は親友になるだけでは御座いませんのよ。

 ルナは今年卒業するつもりですよね。皇太子殿下とご一緒に」


「ええ、こちらにいても特にすることもないし」


「それでご相談なのです。

 親友を助けると思って後2年一緒に学びませんか?」


「まさか、レオニスに頼まれたの?」


「あらあら、ルナは皇太子殿下の事になると真剣な顏をするのね」


「茶化さないで、ミリー」


「茶化してはいませんよ。

 皇太子殿下には、お会いしましたよ。

 私から皇太子殿下にお願いしましたの。

 妃殿下と親友になりたいから、私が卒業するまで妃殿下を学院に通わせて下さいって」


 私は額を押えてため息をついた。


「それで了承を得てから、私を誘ったのね。

 完全に外堀を埋めているじゃないの」


「あら、その代わりに条件がついたわ」


「ルーナに必ずお昼ご飯を食べさせること」


 最後の言葉はふたりでハモってしまったので、お互いに噴き出してしまった。


「だって、いつもレオは煩いのよ。私がご飯を食べることに固執しているの。

 もう大人だから昔みたいに体調を壊したりしないのに」


「あら、それ本当ですの?」


 そう突っ込まれてルーナは黙り込んだ。


 そんなルーナをおかしそうに見つめてミレイアは言った。


「いいわねぇ。私もパートナーが欲しいわ」


「ミリーなら選り取り見取りでしょうに」


「帯に短したすきに長しってね」


「恋愛するかもでしょう?」


「王配って難しい立場なのよ。名誉はあっても権力は持てない」


「うーん、愛する人を守りたい。純粋にそんな風に思って貰えるといいのにね」


「ルナらしい考え方ね。私はおとぎ話は信じないけれどね」


「あら、案外私の陰にいい男がいるかもよ」


「例えば、あの木の男とか?」


 木々がざわめいたので、二人は声をあげて笑った。

 ルーナは初めてできた対等の友人と、恋バナがしたくてたまらない。

 だからほんの少しだけ踏み込んでみた。


「ミリーには、守護者がいるのではないの?」


 守護者というのは家付き娘に付けられる護衛だけれども、普通の護衛とは一線をかくす。

 つまり婿候補でもあるのだ。

 わりと幼い時から家族同様に育てられることが多い。

 必ず守護者が婿になると決まったものではないけれど。


 アストラル皇国では、守護者の役割はもっと大きい。

 なにしろ女性の継承権は認められないから、婿がそのまま当主になる。

 それでも娘の産んだ子供が家を継ぐので血は繋がる。

 血統を大事にする貴族にとって、守護者選びは婿選びと同じくらい大切なのだ。


 ミレイアの他にも後継者候補は多いけれど、セレスティア王国では女性と男性は同権だから、これ程優秀な娘に守護者を付けない筈がないのだ。


「ふふふ、そう来たかぁ。

 そうね。紹介しておくわね。

 アストラル学院で同期生のアーサーよ」


 どこに隠れていたのか、いかにも貴公子という少年がミリーの脇に立っている。

 少年というのもはばかられるくらいの威風がある。

 見かけたことがある。確か大公の公子の筈だ。

 びっくりするぐらい寡黙で、女子を完全に無視してしまうので、学院では寡黙な貴公子と呼ばれている。


「お初にお目にかかります。私はアーサー・フォン・セレスティア。

 ミレイアの従兄弟に当たります」


「初めまして。セレスティア大公子殿下。

 私はルーナ・フォン・アストラル。ミレイア殿下の親友です」


 アーサーは笑い出した。


「いいねぇ、君。自分からミリーの親友と紹介するなんて。

 ねぇ、ミリー。僕も気に入ったよ。

 なかなか面白い子を友人にしたじゃないか」


「黙りなさい。アーサー。

 相手は皇太子妃なのよ。失礼でしょう」


「なんだよ。自分で呼んだくせにさ。

 まぁお邪魔はしないよ。君の陰も実力はあるみたいだしね。

 君の事も気に入ったから、消えてあげる。

 どうぞ、ごゆっくり。ミリーも楽しんで!」


 ミリーは頭を押さえている。


「えっと、ミリー。随分、何というか……」


「はっきり言っていいわよ。傲岸不遜というのはアーサーみたいなのを言うのだから。

 あれで王配が務まると思う?」


「でも、多分ミリーの事は大事にしているよね」


「なんでそんなことが判るのよ」


「見たらわかるよ。そんなの。ミリーだって知っているくせに」


「ええ、そうよ。だから困るのよ。

 あの調子だから気に喰わない人を平気で罠にかけるし」


 成る程。

 なんか最近そんなタイプに出会ったような?

 そうだ。カールだ。ヴァレンティノ公爵家に猶子に出した。


「多分、彼がいればセレスティア王国も安泰な気がするよ」


「私もそう思うわ」


 私達は脱力して、私はもう恋バナをする気が失せてしまった。


 そうしてレオニスは卒業したけれど、私は学院に残った。

 新入生には10歳児も多かったから、私はもう目立たなくなった。

 ただ、私とキャンディとミリーがいつも一緒につるんでいたから、

 周りからは最強のお騒がせ3人娘の異名を頂いてしまった。


 私までもお騒がせ娘と一括りにされたことだけが大いに不満だ。

 それをレオニスに訴えたら、いつもの遠い目をしていった。


「ルーナも、もう少し自分を客観視できるようになろうねぇ」


 やっぱりレオニスは少し失礼な奴だ。



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