兄と弟 父と娘
アルヴィス侯爵家とローゼンベルグ伯爵家は王宮で合流することになった。
アルヴィス侯爵家からは曾祖父と曾祖母が参加できないとの連絡があった。
日程に無理がありすぎたし、自分の計画で殺したエリーゼに会うのが辛かったらしい。
ヴィクトール・フォン・アルヴィス前侯爵は、レオンの即位を見届けると爵位を息子に譲ってしまった。
何も言わないが、ローゼンベルグ伯爵家の没落を仕込んだのはヴィクトールだ。
周到に計画したのに、エリーゼまで死なせてしまった。
婿であるアルフレッドは、そのことについて一言も触れなかった。
娘であるリゼリアに、何故エリーゼを救わなかったかと問われた時、アルフレッドは救えなかったとは言わなかった。
エリーゼが真の貴族であるからだと、リゼリアを丸め込んだ。
救えなかった事を認めれば、義父であるヴィクトールを責めることになると弁えたのだ。
あの男はそう言う男だった。
だからこそ、エリーゼの一件はヴィクトールの傷になっている。
息子であるクラウスはそう思っていた。
当代アルヴィス侯爵であるクラウスが父親の代わりにエリーゼを見届ける。
私達の休暇が余りにも少ないとの理由で、レオン王が王命をだして全員を王宮に招いた。
私用なのに王命というのも、おかしな話だけれど、何しろ兄のカールという人は奸智に長けた人物らしい。
王が警戒するのも当然かもしれない。
カイトは王命を聞くと鼻で笑った。
随分警戒してくれるじゃないか?光栄だね、と。
そしてカイトはカールに名前を変えてしまった。
理由は……。
「ルー、だぁこお」
起きている間はずっとカールを探し求めるソフィアのせいだ。
ソフィアは自分の正体がバレたと知ると、平気でお喋りを始めた。
まだ、1歳。ようやく歩くか歩かないかの年ごろなのに。
そうは言っても幼児の身体はいかんともしがたいらしい。
言葉はまともに話せないし、よちよち歩き。
正確にいえばよろよろと歩くので危なっかしい。
けれどもソフィアの頑固さは生前のままらしい。
自分はエリーゼでカイトはカールだと言い張る。
泣く子には勝てないと、リリアーヌ姉さま達はとうとう正式に名前を変更してしまった。
カイトはカールに。
ソフィアはエリーゼに。
そんな事を知れば当時を知らない私達はともかく、大人達は、あまり良い気分ではないと思うのだが?
言い出したら聞かない頑固さが、エリーゼに悲劇をもたらしたのではないだろうか?
いくら名前が変ろうとリリアーヌ姉さまとラインハルトお義兄さま変わらなかった。
「ソフィア」
「やーの」
プイと知らん顔をされて
「エリーゼ」
と呼び直す。
「あい。とーたま」
と言われればでれでれの顔になる。
負けじとリリアーヌが
「エリーゼ、エリー」
「あーい、かあたま」
「可愛いわねぇ、かーたまだって。聞いた?かーたまよ」
と、はしゃぐ。
レオニスはうんざりした顔で私に聞いてきた。
「なぁ、子供ってそんなに可愛いものか?しかも相手は転生者だぜ?」
「私に聞かれてもわかる訳ありませんわ。こればかりはねぇ」
「何を言っているんです。
エリーゼほど可愛らしい子供がいる訳ないじゃないですか」
真顔で平然と宣うのはカールだ。
「お前は気に喰わないが、エリーゼを選んだことは褒めてやる」
「ありがとうございます。義父上」
「義父上など100万年早いわ!」
「けんか、めーよ」
「喧嘩なんかしてまちぇんよ。」
「めーよ」
「わかりまちたよ。エリーたん」
こんなにデレデレのお姉様たちを見たくはなかった。
私達は何をしにプロイセン王国まで来たのだろうか?
色々あったが、とりあえず王都に到着した。
王都の入り口にアルフレッド・フォン・ローゼンベルグ伯爵が立っている。
「大叔父様」
「ルーナか?立派になったな。皇太子殿下、御目文字いたします」
「礼はよい。そなたがルーナの祖父か?」
「はっ。ルーナの母リゼリアの父でございます。
クラウス・フォン・アルヴィス侯爵とイルゼ侯爵夫人は既に到着。
ヴィクトール・フォン・アルヴィス前侯爵とカタリナ夫人は欠席。
王がお待ちでございます。王宮まで先導いたいます」
「聞いておる。ご苦労だが頼むぞ」
「はっ」
大叔父様の先導で馬車は王宮に入る。
エリーゼが幼いのでしばしの休息の後、私達は応接の間に案内された。
厳しい顔をした王とアルヴィス侯爵夫妻。
ローゼンベルグ伯爵夫妻とシオン伯爵子息夫妻が待っていた。
カールがエリーゼを抱いて入ってくると、アルフレッド大叔父様が立ちあがた。
「エリーゼか?」
ふり絞るような声でそう問いかける。
「あい、おとーたま」
エリーゼが愛らしく応える。
「すまなかった。すまなかった。苦しかったろう 痛かったろう」
アルフレッド大叔父様はそう言って頭を下げ続ける。
エリーゼはカールの腕から降りると、よたよたと大叔父様のところへ。
「とーたま、あっこ」
大叔父さまは黙ってエリーゼを抱き上げた。
「しちぇる。みてた おあかで。ずっと、とーたま。ごめんちてた」
「墓にいたのが見えたのか?死んでいたのに」
「あい。ちんでた。おそらいくない。とーたまきた。しょれでおそらいくちた」
「そうか、そうだったか。無事に空に上がれて良かった。
こうして帰ってきてくれた」
「あい。えりーわゆいこ。めちた いいこと
かーゆ わゆい めちる あたいまえ」
「恨んでいないのか?」
「にゃい」
「そうか、そうか」
それから大叔父様は当時の事を事細かに語ってくれた。
「成る程。随分大掛かりな計画だったのですね。」
レオニスが感心している。
「そうですね。カールから王座を奪ったわけだから」
「それで良かったのです。おかげで僕は再びエリーゼに出会えた」
「あの頃は、リゼリアに執着していたくせに」
大叔父様が皮肉を言う。
「えりねーたま。こーほ。あたちとおない」
「もしかして、エリーゼもカールの番かも知れなかったのか?」
「あい。おないちもちゅ どっとも かーゆ どっち わかない」
「だからエリーゼ、お前はリゼリアを虐めたのだな?」
「かーゆ わたちの とる めーなの わたちの」
ワハハと大笑いしたのは、ブルーノだった。
「こいつは何時もそうだ。こいつがカールに求愛したのは2歳だぞ!」
「しかも、毎日、毎日、飽きもせずにカールを追い回していた。なぁカール」
「そうだったね。それも可愛かったけどね」
「かーゆ めー」
エリーゼがむくれるとカールがひょいとエリーゼを抱き上げた。
「僕は君のしもべだよ。僕の大事なお姫様」
エリーゼは満足そうに笑った。
「すごいなぁ。三世をかけてカールを追い続けたのか。
ある意味怖いけどなぁ。よくお前は平気だな。兄上」
レオンがそう言ってカールを見ればカールは涼しい顔をしている。
「少なくとも、エリーゼは地位を目当てにしていませんからね」
そうしたらブルーノがまた笑った。
「だからお前は、今世は何も持たない孤児に転生したのか?」
「そうなんでしょうねぇ。選んだつもりはありませんが」
「しかし転生してくれたおかげで、父上の長年の後悔が晴れたよ。
ありがとう。カール、エリーゼ」
そう言ったのはアルヴィス前侯爵の息子クラウスだった。
「そうだ。ベアトリーチェが娘の罪を被れば、エリーゼは修道院にでも入れられると踏んでいたのだ。
まさか幼児まで処刑するとは思わなかった」
アルフレッド大叔父様が、しみじみと言う。
「母上は、既に壊れていたのですよ。僕もですけれどね。
王子の命を対価に国を守るのは破綻してもしかたがない。
リゼリアと神龍のおかげでレオンとマリーは安心して子供が産めた。」
「そうね。アルかテオ。どちらかが死ぬなんて耐えられないわ。
しかもそれが永遠に続くなんて。私でも狂うと思うわ」
マリー王妃がしみじみと言ったので、皆シーンとなった。
「少なくとも、今回は本当にめでたしめでたしで終わったんだから良かったじゃないか」
レオン王がそう言ったので、今回の転生者の件はこれでお終い。
カールもエリーゼも、この件で追及を受けることはない。
元々ふたりとも既に過去の罪は清算しているのだ。
自分の命で償った。十分な対価だろう。




