転生者たち
ヴァレンティノ公爵家を訪問するとお義兄さまもお姉さまも大喜びで、出迎えてくれた。
「お帰りなさい、ルーナ待っていたわ」
「ただいま帰りました。お姉さま。懐かしいですね」
「貴女が生まれたお城だもの。懐かしくて当然よ」
「レオニス殿下。お久しぶりです。ヴァレンティノ城はいかがですか?」
「噂には聞いていたけれど、美しい城だね。
さすがに神龍様が娘の為に作っただけの事はある」
「ありがとうございます。殿下」
「お忍びできたのだ。私達は兄弟だろう?殿下は止めてくれ」
「失礼、レオニス」
「レオと呼んでくれ」
「では、私の事はライと。」
「よろしく頼むよライ」
「お姉さま、私の姪に会わせて下さいな」
「勿論よ。ルナ。でもその前にお茶にしましょう」
「賛成だ。僕も少し喉がかわいたんだ。かまわないか?ルナ」
「ええ、そうしましょう。レモンパイはあるかしら」
「焼いてあるに決まっているでしょう」
「楽しみだわ」
そうして私達は2階にあるティールームに案内された。
私の姿を見ると、使用人たちは懐かしそうに眼を細めていたし、私付きだった侍女たちは、挨拶をしてくれた。
「私、随分侍女たちに迷惑をかけていたのに、歓迎してくれて嬉しいわ」
「そうだなぁ。最初にルーナが倒れた時は、僕もびっくりしたものだ」
レオニスがしみじみと言うので、お姉さまもお義兄さまも深々と頷いた。
「まさか、レオがあなたと結婚するとは思わなかったわお父様もあなたを迎えに行ってくると言っていたし」
「そうだよなぁ。ルナが帰ってこなくて失意が深かったのだろう。
神龍さまは、その後すぐに精霊界に引きこもってしまわれた」
「そうだったのですね。お父様とお母さまにお会いしたいですねぇ」
「きっと邪魔にされるだけさ。今は龍の出産に備えて誰も会えないだろう」
「そうですね。私達は誰も弟には、会えないんだわ」
「きっと孫たちかひ孫たちが会えますよ。それはそれでロマンがあるわ」
「そうだね。新しい龍と僕たちの子孫がどんな風に 出会うことになるのか?
見てみたい気がするよ」
「本当にね」
そんな事を言っているとカイトが小さな姫を抱いてやってきた。
「皇太子殿下。妃殿下に挨拶いたします」
カイトは幼児を抱いているとは思えないように器用に礼をした。
「カイト。久しぶりだな。立派になった」
ブルーノが感に堪えたように声をかける。
今回は護衛にブルーノが志願したのだ。
都の執政官であり漆黒の梟の長が、自ら来なくても。と言ったのだが。
どうやらブルーノはカイトに会いたかったらしい。
「父上。いらしてらしたのですね。お久しぶりです」
「おうよ。元気そうだな。後で肩慣らしでもしようぜ」
「はい、父上」
カイトも嬉しそうだ。
血のつながらない二人なのに、なんだか本当の親子のようだ。
「カイト。その子が姪のフィオナなのね」
「はい。フィオナ。叔母様と叔父様だよ」
フィオナはぱちぱちと瞬きしていたが、こくんと頷くと私に両手を伸ばした。
これは抱けと言っているのだろう。
抱き上げると、甘いミルクの香りとズシリとした重みがある。
「フィオナ。初めまして。叔母のルーナよ。ルナ叔母様と覚えてね」
「まだ喋れない子供に何を言っているんだか」
そう言ったレオも、ひょいとフィオナを抱き上げた。
「やぁ、小さなお姫様。僕はレオニス。
いずれアストラル皇国の皇帝になる。
君は皇帝の姪なのだから、困ったことがあれば僕を頼りなさい」
「レオこそ、わけわかんないこと言っているわ」
そこにブルーノが割って入った
「フィオナ。おまえのお祖父ちゃんだよ。
これでも陰の総裁だ。困りごとはお祖父ちゃんが解決してやるからな」
とうとうカイトがフィオナを取り返した。
「皆さま、お気持ちはありがたいですが、フィオナを守るのは僕ですから」
きっぱりと言い切ったので、皆、笑ってしまった。
「いいかい、カイト。フィオナは僕の娘で、プロイセン王の孫娘だ。
それを忘れるなよ。フィオナがお前を伴侶に決めたわけでもないのに」
「大丈夫です。お義父上。きっとフィオナは僕を選びますから」
バチバチと二人の間に火花が散った。
「いい加減にしなさい二人とも。毎回毎回、角を付き合わせるんじゃありません。
ライも大人げないわ。相手は子供なのよ」
カイトがふふんとライをあざ笑ったからラインハルトも黙る訳には行かない。
「違うよ。リリー。騙されているのはお前さ。
こいつがそんなしおらしい玉なものか!」
「ラインハルト!お客様の前なのよ!」
リリアーヌお姉さまに一喝されてライは黙った。
「ごめんなさいね。二人ともフィオナのことになると、いつもこうなのよ」
「愛されているのですよ。フィオナは」
「そうですね。これ程高貴な血筋を持つ娘もそうはいませんよ。
祖父は神龍蒼天の王とプロイセン王。そして義祖父に漆黒の梟の長。
父はヴァレンティノ公爵で叔父が将来のアストラル皇帝。
ため息がでそうだわ」
私が思わずそう呟くと
「この娘はねぇ。鉄壁の庇護を求めていたのですよ。
何しろ、前世では僅かの落ち度で殺されたのですからねぇ」
カイトがしみじみと呟いた。
あまりに小さな声なので、私以外には聞こえないらしい。
私がじっとカイトを見つめると、カイトは諦めたように笑った。
「予言の娘は騙せませんよね。
後で全部お話します。フィオナの姫を寝かせつけてきますね」
やはりカイトには記憶がある。
前世の記憶が。
しかし、それとフィオナにどんな関係があるのか?
カイトは説明すると言ったのだから、待てばいい。
私が顔をあげると、皆が私を見つめていた。
成る程。
内緒話は出来ないらしい。
カイトはここにいる全員を相手にするしかないのだろう。
フィオナを寝かしつけて帰って来たカイトは、全員の視線が自分に集まっているのを知った。
「父上、いいえ、海斗兄さん。もういいのじゃないかな?」
やはりブルーノとカイトには何か結びつきがあったのだ。
人々の視線がブルーノに集まるとブルーノは覚悟を決めたようだった。
「確かに俺はカイトを知っている。
地球での名前は、雨宮 塁。俺の弟だ。
塁と言うと面倒だからカイトと呼ぶよ。
俺たちの母こそが黒龍に異界に飛ばされた聖女なんだ」
「そんな!時代が合わない。
古龍さがまその失態を行ったのは、はるか昔のことだろう?」
「転移ってのは時空を超えるのだ。それだけのことさ。
それに俺が黒龍の番の甥だからこそ、古龍はフィクトス公を譲る決断をしたのさ」
「俺たちの父は画家で、湖で絵を描いているときに母が落ちて来たそうだ。
大変だったらしいぜ。金髪の少女が田舎に現れたんだからな。
普通なら大騒ぎになるはずだ。
ただ、母は異能が日本でも使えたんだ。
固有魔法は隠密。母はその力で、父の妻になりおおせた。
いつの間にか母は父の妻だと皆がそう思い込んだんだ。
異能が使えなければどうなっていたか分からないけどな」
「父は母を愛していたみたいだよ。異能とは関係なくね。
俺が生まれて、そして4年後にカイトも生まれた」
ブルーノはその後黙ってカイトを見たので、カイトが話を続けた。
「僕は転生者だったのさ。
僕はねぇラインハルト。君の叔父だよ」
「まさか!それじゃぁ君は父上の双子の兄カールだと言うのか?」
「そのまさかさ。
安心して、僕はレオンも君たちも恨んだりしていないからね
何しろ父上が命がけで愛を教えてくれたのだからね。
それに日本の父も母も僕を愛してくれたから」
「でもブルーノは転移者だけど、カイトは転生者なのよね」
「そうだ。俺の弟のカイトは俺を守って死んだんだ」
「兄さんを守って死んだのは、エリーゼでしょう?
僕が死んだのはエリーゼの敵を討とうとしたからだ。
死んじゃったから、仇が討てたか知らないけれど」
「お前があいつを気絶させたおかげで死んだのは、お前たちだけだ。
犯人は捕まって死刑を宣告されたよ」
「ちょっと待って。
話が見えないのだけど、エリーゼって誰なの?」
「隣に住んでた女の子なんだけどさ。
毎日僕のところに来て、自分は前世はエリーゼという名前の伯爵令嬢で僕の番だと言うんだよ。
馬鹿げた話だし、そんな事を言っているのが3歳の幼女だから信じなかったんだけど」
「その時だよなぁ。母親が自分は実は聖女だったと告白したのは」
「そうなんだよな。父も確かにまぶしい光が落ちて、いきなり母が現れたと証言したし、その時来ていた服も見せてもらった。
母が隠蔽を解いたら金髪に青い目だったのは驚いたけどな。
少女は毎日やって来ては、私とカイトは前世では結ばれなかった運命の番だと訴えるしねぇ」
「そのうちに思い出したんだ。前世の記憶ってやつをさ」
「惨い記憶だったよ。僕は自分の母親を殺していた。
父親までこの手で殺したんだ。
それなのに父は最後まで僕を愛して救おうとしてくれたんだ」
「思い出したくは無かったけれど、過去は変えられない。
僕はかなりバカだったんだ。
運命の番を見ていたのに、気がつかなかった。
エリーゼが殺されるのを、面白がっていたくらいさ。
しかも別人を自分の番と勘違いまでしていたんだから笑えるよね」
「凄かったんだぜ。エリーゼはカイトに毎日熱烈に告白していたんだ。
しかもセリフはいつも同じ。私はあなたの運命の番なのよ」
「そうだったね。確か最初に告白されたのは、まだ2歳ぐらいだったよね」
カイトとブルーノは昔を思い出したらしく懐かしそうな顔をした。
それは随分と微笑ましい光景だったろう。
幼い娘の告白が毎日のように続いたなら
カイトが陥落するのも分る気がする。
「彼女の告白は事実だったんだよ。
運命が歪められていなかったら僕は王に、彼女は王妃になっていたはずだから」
「お母さまから聞いたことがあるわ。
運命が運命なら妹のエリーゼとカールが王と王妃だったと」
なんという運命のいたずらだろう。
若くしてなくなったエリーゼとカールが異世界で出会うなんて。
「運命は僕とエリーゼを近づけたのに、結ばれはしなかったんだよ」
「エリーゼとカイトは僕を守って死んだんだ」
ブルーノが苦しそうに言った。
「僕の通っていた学校は進学校でね。
僕は高校から通ったけれど中学から行けばよかったと後悔したのさ。
それでエリーゼとカイトに中学受験を勧めてしまった」
「二人は無事に合格して、俺たちはいつも一緒に登校していたんだけど」
「よくある奴さ。無差別殺人。
通学路に現れた奴は、生徒たちを無差別に襲い始めた。
ブルーノはよせばいいのに、犯人を止めようとして刺されかけた。
そこにエリーゼが飛び出して殺されたんだ。
だから僕は彼女を守ろうと男に飛びかかって……」
「カイトは相手を気絶させたよ。その代わりに致命傷を負ったけど」
「だからブルーノはカイトを大事にしてたんだな」
レオニスも納得したみたいだ。
「もしかして、その後、二人はまた異世界転生したのね?」
「そう。カイトは今度は孤児として捨てられて、エリーゼは高貴な姫として生まれた。
今度こそふたりが結ばれて欲しいと思うよ」
ブルーノの言葉で確信した。
「フィオナはエリーゼの生まれ変わりね」
リリアーヌお姉さまと、ラインハルトは言葉も出ない。
だってカイトはラインハルトの叔父でフィオナはリリアーヌの叔母ということになってしまう。
「つまり私の叔母様がフィオナで、レオン王はフィオナの祖父だけれどもカイトの弟なのね」
「すっごくややこしいわね」
「問題はそこじゃない気がする」
「過去は過去さ。僕はフィオナの番だし今度こそフィオナと結婚してフィオナを守って見せる」
「娘を二度も守れなかったくせに!三度目は無いぞ!」
ラインハルトが吠えた
「あぁ、誓って今度こそフィオナ守る」
そう言い切るカイトは神聖な誓を果たす騎士の様に見えた。
それですっかりみんな納得したけれど、ラインハルトが思い出したように叫んだ。
「ヤバいぞ、それならエリーゼの実家と父上にも知らせて置かないと」
確かに。知らんぷりと言う訳にもいかない。
という訳で、アルヴィス侯爵家とローゼンベルグ伯爵家には全員が揃って行くことになった。
勿論、詳細は鳥で先に報せて置く。
レオン王からも、必ず王宮にも寄るように厳命が届いた。
ルーナが
「ただの里帰りが、どうしてこんな大事になるのかしら?」
と言ったけれどもレオニスは、それはお前だけは言うべきではないと突っ込んだ。
確かに今回はルーナは無実だけれども、どうしてもそうは思えないレオニスであった。




