セレスティア王国
キャンディの提案はルーナが言うまでもなく上層部の知るところとなった。
夫婦のベッドルームの話題も、キャンディとセレスティア王国の話となる。
「ルナはセレスティア王国に、行きたいのかな?」
「行きたいというより行くしかないかなぁ、と思っています。
だって、あのデルマー商会が珍しいと言うのですよ。
そのうえ、わざわざ私に繋ぎをつけるなんて。
何かあるに決まっています」
「そうだね。だからこそ、君を行かせたくないのだけれどね」
「噓でしょう?こんなに面白そうな話なのに」
「相手は男爵家だしねぇ」
「でも規模は世界一の商会ですよ」
「だからソラを行かせようかと思うんだけどね」
「確かにソラなら一応平民だし、ノラロー自治区の区長だし、最近は、玩具やゲームなどにも手をだしてるから、デルマー商会と繋がれれば万々歳でしょうけれど」
「ついでにレオニスとステラも避暑名目で同行させるつもりだしね」
「レオったら、順番が逆よ。
フィクトス公爵夫妻にソラが同行すると言うべきだわ」
「対外的には、そうなんだよなぁ。
ソラは俺の仕事の半分を受け持ってくれているんだけどなぁ」
「いやいやいや。
それは受け持っているんじゃなくて、押し付けているのでしょうに」
「ルナって、いつの間にそんなに細かい事を気にするようになってしまったの?
昔はもっと、おっとりしていたよねぇ」
「おっとり出来ないくらい、お仕事が回ってくるからよ。
私だってのんびりしたいもの」
「でも、レオ。クラウスが必要ってことは、龍がらみだと見ているの?
セレスティア王国に龍はいない筈だけれど?」
「あの商会長は、この世界の経済の半分を牛耳っているんだよ。
我が国だってデルマー商会のそっぽを向かれたら立ち行かない。
今までだって、爵位の打診は各国で行ってきたのに全部断っているんだ」
「それなのに、わざわざ男爵位で娘を皇国に寄越したのよねぇ。
これでクラウスを派遣しないと、見限られそうではあるわね。
だからクラウスとソラなんだ。龍と異世界人だから」
「その通り。商会が手にしていないもの。
情報が少ないものは龍と異世界人だ。
だから珍しいもの、というのは、そのどちらかだろうからね」
「異世界人が落ちてきても、珍しくはあっても、皇国に助力を求めなきゃならない理由はないわよ。
そうすると、やっぱり龍かなぁ?
お父様が精霊界に籠ってしまっているのが残念だわ」
「古龍さまも、かなりお年を召したからね。
この間、知識の受け渡しを行ったそうだ」
「それじゃぁ……」
「あぁ、古龍さまは、もう長くない。
神龍は精霊界で100年は戻らない。
地上にいるのは、若き黒龍だけになった」
「なんだか、そう言われると、少し心もとない気分がするわ」
「ブルーノも同行させるの?」
「こっちが手薄になりすぎる。行かせるならソラかブルーノどちらか一人だ」
「あなたの両翼ですものね。二人は。
しかも二人とも異世界人。
面白いですね。天下のアストラル皇国を支えているのが、実は異世界人だなんて」
「そうなんだよなぁ。貴族会議は皇家のあら捜しばかり。
少しでも皇家の権力を削いで、自分たちが国を支配したいんだ」
「ソラの方が実務家ですからね。
でも荒事になったら頼りになるのはブルーノですよ。
情報収集能力も高いし」
「荒事になると思うか?」
「普通なら問題ないはずなんですけどね。
龍も同行しているのですから」
「それなら、やはりソラとクラウスに頼もう。
俺たちはお留守番だ」
「つまらないですね。海を見たかったのに」
「いつか行けるかも知れないさ」
連れて行くと言わないのはレオが誠実だからだ。
そうと知っていても、少し寂しいと思うルナだった。
レオはちょんとルナの頬を突いた。
「ほっぺが膨らんだ。
ルナは本当に表情が豊かで可愛いね」
「どうせ、淑女らしくありませんよ」
「拗ねないで、ルナ。
夏休みを一週間もぎ取ったんだ。
プロイセン王国に行かないか?
ヴァレンティノ公爵家やアルヴィス侯爵家、ローゼンベルグ伯爵家を訪問しよう」
ルナは顔を輝かせてレオに飛びついた。
「レオ、ありがとう!」
ルナを抱きしめながらレオニスは、頑張って休暇をもぎ取って良かったと思った。
ルナは久しぶりに祖父母や父親、弟や妹に会えるのだから。
ソラという最大戦力が離脱する時に、休暇を取る訳だから、暫くは猛烈に働かなきゃならないけれど、そんなことはどうでもいい。
ルーナが喜んでくれた。
それだけでレオニスは十分に満ち足りた気分だった。
それに確かにルーナにも休息は必要だった。
ルーナの天真爛漫さがすっかり影を潜めてしまっている。
家族に会えば、ルナも元気を取り戻すだろう。
ルナがそっとレオの髪を手ですいて、しみじみと言う。
「ごめんね。レオ。
レオにばかり無理をさせてるわ」
「大丈夫だよ。僕は皇太子だからね」
「それじゃぁ、旅行の間は、皇太子を皇城に置いていきましょう。
私と一緒にプロイセン王国にいくのは、私の夫のレオだけよ」
「ルナって時々無茶苦茶だね」
「そうよ。私は我が儘だもの。
いいこと、プロイセン王国には皇太子殿下は入国できません。
わかった?レオ?」
「分かったよ。ルナ。
君がそこまで言うなら、皇太子は置き去りにしよう。
悔しがるかも知れないよ」
「大丈夫よ。きっと皇太子殿下はこうおっしゃるわ。
レオ、僕の分まで楽しんでおいで、ってね」
「そうだね。お優しい皇太子殿下は、きっとそう仰るだろうね」
そう言って、二人は幸せそうに笑った。
ベッドの中で、二人はぴったりとくっついて眠る。
お互いの温もりが、お守りのように二人を守ってくれているかのように。




