貴族らしからぬ少女
魔力はあっても使えない私は、魔法の実践授業が免除されている。
ただし自由時間が頂ける訳ではない。
その時間は、ひたすら空っぽの魔法石に魔力を注入することになる。
自分では全く魔法を使えないけれど、魔力注入用のアイテムがあるのだ。
透明の専用ボックスに魔石をいれて、その上の取っ手を握るだけ。
取っ手には安全装置が組み込まれているから、自分の持つ魔力が半分になれば装置は作動しない。
わたしの場合、作動しなくなったことは、まだないけれども。
すごく地味な作業。いわゆる黙々系といわれる奴だ。
私は実は、黙々作業が嫌いじゃない。
何も考えなくていいのが落ち着く。
お仕事を選べるなら皇太子妃より、こちらを本業にしたいくらいだ。
だけど最近、この時間が地味につらくなってきた。
それは私の向かいに座る女の子のせいだ。
魔力があるのに発動できないなんて、とてもレアケース。
だから今までは私ひとりだったのに、最近転入してきたと言う少女。
この少女は、明るくて元気で大きな声で、はきはき喋る。
きっと魅力的なのだろうけれど、私は苦手だ。
喋る相手が私しかいないからだろうけれど、ずっと私に話しかける。
「それでね。アストラル学園からこっちに回されたの。
魔力注入ってお金になりますよね?
しっかり稼げるようになったら、セレスティア王国に帰るんだ。
この機械って高いのかなぁ。
こっちよりセレスティア王国の方が魔石高いんだよね。
この機械があれば、濡れてに粟。
稼げそうじゃない?」
「えーと。あなたお名前は」
「言ってなかったっけ?キャンディよ」
「キャンディ。授業中ですから静かにしてください。」
「はーい。あなた真面目なのね。名前何というの?
教えてくれないの?
黙秘権を行使って訳かなぁ?
なかなか、やるじゃない。
とりあえず真面目ちゃんて呼ぶね。
それで……」
私は、話を途中でぶった切った。
「ルナです。名前を教えたのだから、お静かに」
「ルナちゃんかぁ。なんだ。可愛いい名前じゃない。
名前を教えあったんだから、私達、もうお友達だよね。
大丈夫。ルナちゃんて恥ずかしがりなのね。
私が守ってあげるから安心して!」
ぶふぉと奇妙な声がどこかから漏れた。
きっと漆黒の梟の誰かが噴き出したのだ。
後でブルーノに文句を言ってやる。
「えーと、キャンディさん。
キャンディさんは、なぜ学院へ?」
「キャンディでいいよ。水臭いなぁルナは。
さっきから説明してたじゃない。
聞いてなかったの?
ちょっとトロそうだもんね、ルナは!
大丈夫、大丈夫。
どんくさい系も需要あるのよ。案外。
心配しなくても、ルナは見目がいいからね」
ひぃひぃと必死に笑いを堪えているようだけど、聞こえてるからね!
陰としてのプライドはどうした!これぐらいで笑い転げるなんて!
「それでキャンディ。どうしてここへ?」
「怖い顔しないでよ、ルナ。
だって貴族はこっちなんだっていわれたの。
私も学園の方が良かったんだけど、父さんが男爵になっちゃったのよ」
「セレスティア王国で爵位を得たのですね?」
「わかんないけどさ、うちの商会かなり大きくなったからご褒美らしいよ」
「成る程、事情はわかりました。
それでキャンディもマナーの勉強をしているのでは?」
「勿論!マナーもお金になるからね」
「私はキャンディ・フォン・デルマーでございます。
父はデルマー商会の会頭を致しております
ディラン・フォン・デルマー男爵。
ご用命がございましたら、私がお伺いいたしますので、お気軽にご相談くださいませ」
キャンディは立ち上げると淑やかに礼をして見せた。
「あなた、デルマー商会の会頭の娘だったの?」
「えぇ、お見知りおきくださいませ。
リーナ・フォン・アストラル皇太子妃殿下」
キャンディは皇族にたいする最敬礼をして見せた。
「完敗だわ。私はこれでも人を見る目はあると思っていたのよ」
「いいえ、殿下はお気づきでしたわ。
そうでなくては、ここまで長々と無礼を許す筈ありませんもの」
「私に用があるのかしら?」
「いいえ、ただせっかくですから、夏休みにセレスティア王国に遊びにいらっしゃいませんか?
殿下は海を見たことがございますか?」
「いいえ、見たことはないわ。
避暑でセレスティア王国に行ければいいけれど」
「お忍びで、一週間ほどではいかがですか?珍しい拾い物をしましたの」
「世界の流通を統べるというデルマー商会が、珍しいと言うなんて。
それは是非とも拝見させて頂きたいわ」
「決まりですね。日程が決まったらお知らせください」
「お知らせする必要も無いようにおもうけれど。
さっきから笑い転げているのは、あなたの守護者でしょう?」
するとキャンディの陰から、逞しい男性が現れた。
やはりセレスティア王国の人間は海の男らしく、逞しい。
「もう。ソルトったら笑い過ぎなのよ。
すっかりバレちゃっているじゃない」
「ですが、お嬢。あんなに面白い見もの。
笑わずにいれますかい?」
「殿下、失礼しました。護衛のソルトでございます」
「ソルト。キャンディはどっちが素なのかしらね」
「どちらも。でございます。殿下」
「そうでしょうねぇ」
そう言って私は頭を揉んだ。
もしかして、レオニスが頭を揉むのって、こんな気分なのかしら?
いやいや。
いくらなんでも、私はキャンディほど惨くはない筈だ
無いよね?




